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脚は進まず

 思っていた以上に疲れていたのかカインはあの後宛がわれた部屋に行き、横になったと思ったら朝ライラに起こされるまで寝続けていた。

 幸い頭まで毛布を被っていたことで額に生えている角を見られることは無かった。


 ベット横にかけていたコートを着て、フードで額を隠して部屋を出る。


 既に朝食は出来ているようで、部屋を出た時からカインは美味しそうな匂いをかぐこととなる。

 階段を下りると既にブラド達が机に座っていた。

 どうやら待っていてくれたようで誰も食事に手を付けていない。


「すいません、遅くなりました!」


 それを見て急ぎ足で机にカインは向かう。


「おうおはよう。大分疲れてたみたいだな、どうだ少しは楽になったか?」

「はい、昨日より大分楽になりました。ありがとうございます」


 礼を言った後カインはブラドの正面へと腰を下ろした。


「それじゃあ食べるか」


 ブラドの合図で朝食が始まる。

 少し固いパンにシンプルなサラダ、それに肉と野菜が柔らかくなるまで煮込んだスープが机には並べられている。

 簡単な食事ではあるが半日近く何も食べていないカインにとってどれも非常に美味しかった。


「ああ、そう言えばガヌートが昼前には来るって行ってたぞ」


 朝食を食べ終えて、お茶を飲んでいるとブラドがそう切り出した。


「お昼前ですか。困ったな、なにも用意出来てないや。ブラドさん、何を用意したら良いですか?」

「ああ、それなら心配するな。ガヌートが昨日任せて下さいって張り切ってたからな、必要なものはあいつが揃えてくれるってよ。それとあいつには初めてだから余り無理をさせるなって言ってあるから大丈夫だ」

「そうですか、ありがとうございます」


 ガヌートが来たらお礼を言わないと、とカインが考えていると、


「そうだライラ、悪いが俺も昼前に三馬鹿の所に行ってくる。ネイも連れて行くが、少しの間一人で頑張っててくれないか?」


 ライラがブラドを見る。


「どうしたのお爺ちゃん? 別に大丈夫よ、どうせ誰もお酒飲んでるだけだし。ほっといても勝手に何とかするでしょ」


 何だか無茶苦茶だなあとカインは思ったがそれを口に出すほど馬鹿では無い。

 ブラドも同じ事を考えたのか苦笑いを浮かべている。


「一応お客なんだからな、大丈夫だよな?」

「大丈夫よ、私が何年酔っ払いの相手してると思ってるのよ」


 それ以上ブラドは何も言わなかったが、その表情は心配しているのが丸わかりであった。


※※※※※※


 ブラドに言われてカインはガヌートが来るまで寝ていた部屋で待機することとなった。

 実際はライラに下でいられると邪魔だからと追いやられたのだが。


 昨日ブラドに大口を叩いた事に、カインは内心後悔していた。

 カインが力を使った際に生じる痛みは本来人間の許容範囲を超えていると行って良い代物だ。長い年月をその痛みと共に生き、痛みに耐性を得たビッグゲート家の人間だから耐える事が可能だが。


 ただカインの症状はビッグゲート家の歴史を紐解いてもかつて無いほどに重症である。

 カインがここまで死ななかったのは奇跡と行って良いが、その原因の一つに今まで力を意図的に使わなかった点も大きい。

 この先、生きるためにブラドが考えた仮説は死を待つしか無かったカインにとって唯一の光といって良いものではあるが、どうしても不安は拭いきれなかった。


 その不安が知らず知らずのうちに、ベットに座っているカインの大きな身体を震わせる。


 ガヌートがやってくると言っていた時間が来るのが恐ろしくあり、気づけば手が痛くなるほど握りしめていた。

 唐突に扉が叩かれる。

 開けるとそこにはカインより大柄なオーガ族の男が立っていた。


 ガヌートと共に階段を下りていくと既にブラドとネイが酒場を出るところであった。客もおらずライラがネイの準備をしている。

 ブラドは今朝見たときのように普段着で杖を持っている。

 ネイはマントで身をくるんでフードを深く被り、最早前が見えているのかも怪しい。


「なんだガヌート、来てたのか?」

「ええ、俺たちもすぐに出ます。カインの事は俺に任しておいて下さい」


 威勢良く返事をするガヌート。


「それじゃあカイン。ガヌートの言うことよく聞いて頑張れよ。後くれぐれも無理はするなよ。まずは様子見だ、力に慣れていない状態で急に頑張ったらそれこそ死んじまうかもしれないからな」


 それだけ言ってブラドはネイと共に酒場を出て行った。


「それじゃあ行くかカイン」

「き、今日はよろしくお願いします!」

「おう、任せとけ。昨日迷惑かけた分取り返してやるぜ!」


 そう言ってガヌートは歯を剥き出しにして笑った。

 すると後ろで暇そうに立っていたライラが、


「カイン、そいつ馬鹿だから酷い事されたらちゃんとあたしに言うのよ」

「酷えなライラ。お前は俺をどんな奴だと思ってんだ?」


 ライラに話を振られたカインは苦笑いを答えとした。

 ガヌートがライラに抗議し、カインの方に振り向く。


「ライラはああ言ってるが、俺はそんな酷いことする奴じゃねえからな。信じてくれよ」

「あはは、大丈夫ですよ。信頼してますから」


 というより信頼するしか無いのだ。

 ブラドの薦めも大きいが実際カイン一人だと何も出来ない。十年間療養のためとは言え家で引きこもっていた人間が急に外に出てきて、一人で何でも出来るほど世の中は甘くない。


 だからカインは信頼する、生き残るために。


「それじゃあライラさん、行ってきます」

「はいはい、あまり無理しないようにね。頑張って」


 そう言ってカインはガヌートと共に酒場を出た。

 途中何人かとすれ違う。酒場の常連なのかすれ違いざまガヌートが会釈をし相手も仕返す。

 カインはガヌートの後ろで下を向いて、ついて行くだけであった。


※※※※※※


 酒場を出て数分、カインとガヌートは大通りに出ていた。

 何故かガヌートが足を止めてため息をついている。


「カイン、お前それじゃあ門番も疑うに決まってらぁ。迷宮に行く行かない以前の問題じゃねえか……」


 ガヌートの視線の先。

 カインが人間としては破格の巨体を縮こまらせて震えている。


 ガヌートはカインを不審者と間違えた門番に会ったら文句を言ってやろうと考えていたが、その考えを改めた。


「ううう……。ブラドさん達と話せたから何とかなると思ったんですけど、やっぱり僕大勢人がいるところ駄目です……」

「お前なあ……」


 ガヌートが残念なものを見るかのような視線をカインに送り、再度ため息をついた。

 ちょうど昼前で大通りは沢山の人でごった返しており、カインにとって非常に厳しい状況になっていた。


「ブラドさんから聞いたけどお前十年ほど他人と接してないんだって? 俺とも話せてたから大丈夫かと思ったがこりゃ無理そうだな」

「すいません……」


 カインはより一層身体を小さくさせた。

 ガヌートが頭をボリボリと掻きながら何事か考えている。


「ま、初めて迷宮に行くのにこんな状態じゃ危険だな。今日はやめておくか、ただし……」


 ガヌートが言葉を止めたのでカインは何かと思い、ガヌートの話を待つ。


「カイン、詳しい事は知らねえが何か急いでんだろ? 今日は勘弁してやるけど絶対明日は迷宮に行くぞ。と言うことで、多分今頃酒場に何人か客が来てるだろうからそいつ等と話して、ちょっとは他人を気にしなくて良いようになれ!」

「はい頑張ります……」

「……何だか駄目そうな返事だな。しゃきっとしろよ、お前身体でけえんだから普通にしてりゃ強そうに見えんだ。おら! 腰伸ばせ」


 言うや否やガヌートがカインの腰をバチンと叩いた。

 カインの姿勢が良くなる。


「そうそう、それで良いんだよ。それじゃ、まあ酒場に着いたらまずは飯を食うか。迷宮内で食うために色々持ってきてたけど、明日にお預けだな」


 ガヌートはそう言って踵を返し、カインはその後ろについて行った。



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