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明日から

 急な展開にカインは固まってしまい、ただ目の前の大男を見つめるしか出来なかった。


「すまねえ! 何も知らずに因縁を付けちまって。どうか許してくれ、この通りだ!」


 耳が痛くなるほどの大声で謝られ、カインはハッと気を取り戻した。

 どうやら老人達が疑いを晴らしてくれたのだろうか。あまり信じられなかったが、目の前の光景を考えるにどうやらそうなのだろうとカインは思った。


「えっと、あの、別に気にしてませんよ。それに疑われるような事をしたのは僕の方ですし。だからその、立っていただけたら嬉しいかなって……」


 そうカインが伝えると大男は何も言わずに肩をふるわせ出した。

 なにやら嗚咽のようなものが聞こえてくる。


「あ、あんな事をしでかした俺を許してくれるなんて! だから、だからこそ俺は自分が情けねぇ!」


 どうも立ち上がる様子は無い。

 何か話しかけると余計面倒くさい事になりそうで、カインはどうしたものかと頭を上げた。


 カインの視線が入り口に向くと、入り口から頭を出してこちらを見ている老人達が目に入った。


「そんなところで何をしてるんですか?」


 カインがため息をつきながら質問すると、老人達は見つかったとでも言いたげな表情で店内に入ってきた。

 自慢気な表情をしながらカインに近づいてくる三人の老人達。


『やあやあカイン君、ばっちり話は付けておいたぞ。これでもう大丈夫じゃ』


 カインの予想は当たっていたらしく、老人達は短時間でカインの疑いを晴らしてくれたらしい。

 予想はしていたものの、やはり目の前の老人達がそれほど凄い人たちには見えずカインは何ともいえない気分になる。


「あ、ありがとうございます。それでこれは一体?」

『いやぁなに、事情を話してるところを聞かれていたみたいでの。急に走り出したから面白そうで着いてきたんじゃ』


 そう話している横で未だ立たずに嗚咽を漏らす大男。心なしか音が大きくなっている。

 目の前で肩をふるわす大男に、つかみ所の無い老人達。


 カインがどうしたものかと思案していると後ろから大声が。


「五月蠅い! 何を店の中でギャアギャア言ってるの。騒ぐなら外行って騒ぎなさい」


 そこには包丁を持って怒りの表情を浮かべるライラが仁王立ちしていた。

 その剣幕にカインは当然として大男と老人達もピタッと止まる。


「カイン、昼食出来たわよ。食べるならそこの馬鹿達ほっといて食べなさい」

「はい! すぐいただきます」


 半ば目の前の光景から逃げるようにカインは椅子に座った。


※※※※※※


 カインは目の前の光景を見て首をかしげる。

 何故先ほどの大男と老人達。それにブラドにライラ、ネイまで一緒に昼食を食べているのか。

 そして何故大男が一番多く食べているのか。


 考えるのはやめたカインはパンを手に取った。


「いやホントに悪かった。どうも昔からすぐ頭に血が登りやすくてな」


 ハハハッと笑いながらオーガ族の大男は謝る。


「いえ、ホントに気にしてないんで謝らないで下さい。元はと言えば僕が悪いんですし」

「まったくお主は昔から後先考えん所は変わらんの。だから未だに駄目なんじゃ」


 カインが面倒にならないよう言葉を選んでいるというのに、横から老人達が茶々を入れてくる。


「何言ってんだ、お前らが止めないから面倒な事になったんだろうが!」


 そう言ってブラドが老人達を睨むも、どこ吹く風と言った具合にお茶を飲んでいる。

 それを見て疲れたようにため息をつきながらブラドは老人達に話しかけた。


「で、ふざけた事しに来ただけじゃないんだろ。何かあったのか?」

『むっ! 何のことじゃ、別に儂ら隠し事なんか無いぞ』


 ブラドと老人達の視線がぶつかる。

 カインはそれをハラハラしながら見ていた。

 暫くすると老人達が折れたかのように話し出した。


『まあええか、別にそう大層な問題というわけでは無いんじゃがな。なに、帝国の諜報員共が入り込んでるようでの、そんだけじゃ』


 ブラドが眉を顰め、ライラが身体を固くした。


「それは結構な問題なんじゃ無いのか?」

『まあ余り良いとは言えんが、この都市で馬鹿な真似は出来んじゃろ』

「それもそうか……」


 ブラドと老人達が黙り込む。


 どうも余り首を突っ込まない方が良さそうな話なのでカインは気にせずに昼食を食べ続ける。

 すると黙っていたブラドが何か思いついたかのようにカインに話しかけた。


「おおそうだカイン、良いこと考えたぞ!」

「どうしたんですか急に?」

「さっきの話についてだ。おいガヌート」


 そう言ってブラドはカインの横で膨らんだお腹を撫でているオーガ族の大男に声をかけた。


「はい、何ですか?」

「ちょっと悪いんだが、お前の横に座ってるカインは訳有りでな。出来れば一緒に迷宮に潜ってやってくれないか?」


 そうブラドが言うと、ガヌートと呼ばれたオーガ族の大男がカインの方に振り向いた。


「あんた迷宮に行きたいのか?」

「いや、えっと……」


 何とも煮え切らない顔をするカイン。

 すると、


「どうした、さっきの宣言は嘘だったのか? お前の目的のためには迷宮に潜るのが一番手っ取り早いと思うぞ。上手くいけば小銭も稼げるしな」


と、ブラドがカインに言う。

 すかさずガヌートも声をかけてくる。


「おおっ、迷宮に行くなら任せておけ! 罪滅ぼしに俺は頑張るぜ!」


 そう言われるとカインは何も言えなくなってしまった。

 そして横にいるガヌートも何だか凄くやる気に満ちている。


「分かりました、それじゃあガヌートさん、お願いして良いですか?」

「おお。任せておけ!」


 ガヌートは嬉しそうに歯を剥き出しにして笑った。


「えっと、でもその……」


 カインがうつむいて何かを話す。


「なんだ? 何かあるのか?」


 不思議そうに尋ねるブラド。


「出来れば明日からで良いでしょうか? 正直疲れてまして」

「おっと、それもそうか。それじゃあガヌート、悪いが明日からこいつに付き合ってやってくれるか?」

「勿論ですとも。カインっていったな、それじゃあ明日から頑張ろうぜ!」


 カインはガヌートの満面の笑顔を見て、明日から大変そうだと決意を新たにした。



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