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夜の密会

 ガヌートにイリ姉と呼ばれた女性は、ボーガーの曾孫でありイリオーネと言うらしい。

 現在根っこの化け物に襲われた、他の集落の亜人達が逃げてきているため食料の余裕は無かったのだが、簡素ながらもイリの作る料理はどれもこれもが美味しかった。

 少ない食材で美味しい食事を作る力量と、今まで食べた事の無い味にライラは目を瞑り、ウンウン唸っている。

 それを苦笑いしながら見ているイリオーネ。


 食事が終わりお腹が膨れたためか、それとも少し緊張が取れたためか、ブラドとガヌート以外の3人がウトウトとしだす。


「腹が膨れて眠くなったのか? イリオーネ、悪いがネイちゃん達を寝室に連れて行ってやってくれ。カイン君は儂の部屋で良い。ネイちゃんとライラちゃんはお前の部屋で寝させてやれ」

「分かったわ。それじゃあ3人とも、眠たいかもしれないけどベットまで頑張ってね」


 そう言ってイリオーネは立ち上がる。

 落ちそうになる瞼をどうにか開いて、続いて立ち上がるカイン達。

 そのままイリオーネに続いて、家の中を歩いて行く。


「それじゃあカイン君はこの部屋で寝てちょうだい。お爺ちゃんのベットだけど、ちゃんと洗濯してるから我慢してちょうだいね」

「は、はい……」


 カインが顔を赤くし、小声で返事をする。

 それをクスクスと笑いながら、ライラとネイを連れてイリオーネはまた歩き出した。

 扉を閉めてベットに近づいていくカイン。

 牢屋から出る時に返して貰った巨剣を床に置き、糸が切れた様にベットに倒れ込む。

 大丈夫と言ったものの、休まずの旅は今まで長い距離を歩いた事の無かったカインにとって中々厳しいものであった。

 牢屋で寝れば良かったのではあるが、不機嫌なライラや集落の様子など、気になる点が多かったために寝る事が出来なかったのだ。

 それが余計に疲れを増やしたのだろう。

 ベットに倒れ込むと、毛布を被る事もコートを脱ぐ事もせず、カインは深い眠りに落ちていった。


※※※※※※


 声が聞こえる。

 小さな声ではあったが、寝にくい体勢で寝ていたカインを起こすのには十分であった。

 辺りは真っ暗になっているため、何も見えない。

 声が気になったカインは起き上がり、手探りでどうにか扉の取っ手に手をかける。

 静かに扉を開けると廊下の先、食事を食べた部屋から薄らと光りが漏れている。

 その光が微かに廊下を照らしており、話し声もそこから聞こえていた。


 気になったカインが、音を立てない様に大きな身体をゆっくりと進めていく。

 少しずつ進んでいくと不明瞭だった話し声が、小声ながら男女が言い争っているものだと理解出来た。

 耳を澄ませば、その声はガヌートとイリオーネのものである。

 ただ話の内容は分からず、良く無い事だと分かっていながらカインはゆっくりと声の元へと近づいていく。

 その気持ちが集中力を切らしたのだろう。

 カインの脚が木の床を踏んだ瞬間、その重さに床が小さな悲鳴を上げた。


「誰だ!」


 途端にガヌートの慌てた様な声がハッキリと廊下に響き、同時に慌てた様な足音も廊下に木霊した。

 とんでもない事をしてしまったとカインが固まっていると、声のしていた方向から足音が聞こえてくる。

 逃げようにも逃げ場は無い。

 諦めたようにカインが立ち尽くしていると光に照らされて大きな影が現れ、殆ど同時にガヌートが現れた。

 聞き耳を立てていたのがカインだと分かると、ガヌートは分かっていたとでも言いたげな顔をした。


「ちょっと以外だったが、やっぱりお前かカイン。人の話をコソコソ聞くのは良い趣味とは言えねえぜ」

「す、すいません。でも何で僕って分かったんですか?」


 カインは素直に謝ったが、何故自分だとガヌートに気付かれたのか気になり尋ねた。


「あん? 魔力は感じ無いのに、気配は感じるんだ。そんなのお前くらいしかいねぇだろ。どっかの馬鹿は魔力も気配もダダ漏れだから、それはそれで丸分かりだがな」


 ガヌートがそう言うと誰かが廊下を駆けていった。

 ため息をつくガヌート。


「全く、ライラの奴……。それはそうとカイン。隠れて聞いてたみたいだが、内容までは聞いてねえだろうな」


 ガヌートが怖い顔を近づけながら、カインに聞いた。


「は、はい。何言ってるかまでは分からなかったです。ホントすいません」

「そうか、なら良い。お前は嘘ついたり出来そうに無いからな。コソコソ聞いてたのはムカつくが、多分俺たちの声で起きたんだろ? 今回は許してやるよ。分かったならさっさと寝ろ」

「はい……」


 もう一度謝り、カインは真っ直ぐ部屋に戻る。

 明かりが無いと見えないだろうとガヌートが着いてきてくれたので、すんなりと部屋に戻る事が出来た。


「いつ何が起こるか分からねえんだ。寝られる時に確り寝とけ。それじゃあな、おやすみ」


 扉が静かに閉められる。

 真っ暗な部屋の中、魔法を使う事の出来ないカインに明かりをつける術は無く、そのままベットの上で目を瞑る。

 目が冴えてしまい寝られるか心配であったが、直にカインは眠りに落ちていった。


※※※※※※


「カイン、朝ご飯出来たわよ。さっさと起きなさい」


 ライラに呼ばれてカインは目を覚ます。

 歪なガラスの窓からは既に朝日が差し込んで、部屋の中を明るく照らしていた。

 いつ誰が部屋に入ってくるか分からないので、コートは着たままで寝てたためカインは直ぐに部屋を出て行く。

 食事に邪魔な家宝の巨剣は部屋で寝かせたままだ。


「おはようございます」

『おはよう』


 昨日食事を摂った部屋にカインが行くと、既に全員揃っていた。


「すいません、遅れました」

「ええよええよ。皆ついさっき集まったところじゃ」


 恐縮するカインにボーガーが笑顔を向ける。

 ホッとして椅子に座るカイン。

 昨晩の事など無かった様にガヌートは振る舞っている。

 イリオーネも同様だ。バレていなかったのだろうかと、内心カインは胸をなで下ろした。


 朝食は前日と同じく美味しくはあるが、非常に簡素なものであった。

 それでも一晩ベッドで寝たことで身体が休まり、緊張感も和らいだのだろう。

 椅子に座り皆で机を囲んで食べるという行為は、カインの心に余裕をもたらす。

 ただ反対側に座るライラの態度がぎこちないのが少々気になっていた。


 10分もする内に、机の上に並べられていた食料は綺麗に皆のお腹に収まった。

 何時もの癖でライラ達が片付けようと立ち上がると、イリオーネがそれを制した。


「ライラちゃん達は朝食作るの手伝ってくれたから、座って休んでて。片付けは私とガヌートでやるから」


 ガヌートが心底嫌そうな顔をするが、イリオーネに睨まれると急いで立ち上がる。

 調理場はカインの後ろ側にある。

 お皿を運ぶイリオーネがカインのそばを通る時、小声で呟いた。


「カイン君。夜中に聞き耳立てるのは、お姉さん良く無いと思うわよ……」


 ダラーッと脂汗があふれ出るのをカインは感じた。

 視線が定まらなく、あちらこちらを泳いでいるとライラを捉えた。

 ライラは俯いているが、その視線はカインと同じようにあちらこちらを彷徨っていた。

 昨晩カインがガヌートに怒られた様に、ライラはライラでイリオーネに絞められたのだろう。カインは直感した。


 カイン達が暫く休んでいると、片付けを終わらせたガヌートとイリオーネが戻って来て、先ほどまで座っていた椅子に腰をかける。


「それでブラドさん。この後どうしますか?」


 ガヌートが戻って早々切り出した。


「急がないといけないのは分かってるがな、正直このままだと行きようが無いからなあ。もう少しボーガーと話し合ってみようと思う。それまでちょっとお前等外でぶらぶらしててくれるか? カインは当然として、ライラもネイも無事な亜人の集落は初めてだからな」

「ちょっとお爺ちゃん! そんな悠長な事してる場合じゃ無いでしょ。それに昨日の様子からして、どう考えたって私たち歓迎されてないじゃない」

「そこんところは大丈夫じゃ」


 ボーガーが口を開いた。


「君らが寝た後、もう一度集落の皆に話は付けておいたから大丈夫じゃ。折角だからイリオーネとガヌートに案内して貰いなさい。君らが暮らしてたフィルシーに比べるとちっぽけな所じゃが、以外と面白いものがあるかもしれんぞ」


 そう言ってボーガーは笑みを浮かべる。


「それは良い考えだわ。ライラちゃんとネイちゃん、それにカイン君。案内してあげるから行きましょ。ちょっとごちゃごちゃしてるけど、散歩したら気分も晴れるわよ」

「それにお前等が居た所でブラドさんと爺の邪魔になるだけだしな」


 イリオーネが楽しそうにカイン達を誘った後に、ガヌートが余計なことを言ってイリオーネに一発殴られた。


 


 

 

 


 

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