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話し合い

「ちょっと! いつまでここに入れとくつもりよ!」


 牢を挟んで目の前に立つボーガーに、ライラがいきなり噛みついた。

 見張りの顔が明らかに引きつる。


「ブラド……。お前一体どういう育て方しとるんじゃ?」


 姿を見た途端、怒りをぶつけるライラを見て、ボーガーが呆れた様にブラドを見る。

 ブラドは目を反らすが、またライラが爆発した。


「そっちの都合は知らないけどねぇ、何もしてないのに牢屋入れられたら誰だって怒るに決まってんでしょ! そんな事も分からないでお爺ちゃんに文句言うなんて、爺! あんた呆けてんじゃないの!」


 ボーガーが再度ブラドを見た。


「ガラの悪い探索者に囲まれて育ったんだから、口が悪くなるのは仕方ないだろ。俺のせいじゃない……」


 ぼそぼそ呟くブラドを見ながら、ボーガーがため息を吐いた。


「すまんな、ライラちゃんだったか? 一応話はついたから今出してあげよう。おい、鍵を開けてやれ」


 見張りにボーガーが命令すると、渋々といった様子で鍵を開けた。

 未だ怒り心頭といった様子のライラが先に牢屋から出て、続いてカインがコソコソと出てくる。

 後ろでビクビクしているカインを見て、ライラの目つきが悪くなった。


「カイン! あんたねぇ、何も悪い事してないのに何ビクビクしてんの! しっかりしなさい!」


 その場にいる全員がライラを怖がっているのではと考えたが、それを口にする者は幸いにもいなかった。


「一応集落にいる者にも話はつけてあるが、未だにお主等の事を信じとる者は残念ながらおらん。今から儂の家で詳しい事を話すが、頼むからくれぐれも怒鳴り散らさんでくれよ」


 ボーガーが未だに怒っているライラに、そう忠言した。


「私は牢屋から出られたら別に文句は無いわ。何もしてないのに、辛気くさいところに入れられたのがムカついただけだし。それに周りの空気くらい読めるわよ。それじゃさっさと行きましょ」


 ある種傍若無人といった態度に、ボーガーがブラドとカインを哀れみの混じった表情で見つめた。


 外に出ると、今まで薄暗い牢の中で居たため、カインとライラは日の光に目を細める。太陽は既に、少しだけ傾いていた。

 ボーガーを先頭に一行が歩いて行く。

 集落にいる様々な亜人の視線は、少しではあるが敵意が薄くなっている様にカインには思えた。

 その代わりこちらを疑っている様な視線は増えていたが。


 少し歩くと、他の家より幾分大きな家の前へと辿り着く。

 大きくはあるが、木造のこぢんまりとした家である。


「ここじゃ、入っとくれ。お前さん等はここまでで良いぞ」


 扉を開けながら、ボーガーは着いて来ていた見張り2人に声をかけた。

 オーガ族の見張りが頭を下げて去って行った後に、カイン達は家の中へと足を踏み出す。

 中も外と同じで、装飾品の類いは無く非常にシンプルな内装であった。


「こっちじゃ」


 そう言って先頭を歩くボーガーの後ろを着いていくと、直ぐに広い部屋へと辿り着いた。

 先ほど居なかったガヌートとネイはこの部屋で待機していたらしく、既に椅子に腰をかけていた。

 ネイは机に突っ伏して寝ているが、ガヌートの方は重い空気を漂わせながら頭を抱えている。

 カイン達が部屋に入ったのを察知すると2人とも顔を上げた。


「どうしたのガヌート? 頭なんか抱えて」


 態度のおかしいガヌートにライラが尋ねた。


「まあ座りなさい。色々と話さないといけない事があるから」


 ボーガーに促され、カイン達は大きな机を中心に各々椅子に座った。

 ライラに声をかけられたガヌートは、未だ一言も発さずに頭を抱えている。


「よし、それじゃあ何が起きてるか話そうか」


 ボーガーが一同を見回してから口を開く。


「先ずはライラちゃんにカイン君だったね。牢屋に入れた事を謝ろう、済まなかった」


 そう言ってボーガーが頭を下げる。


「別に良いわよ。カインもそうよね?」

「え! あ、はい。僕は気にしてません。それより一体何があったんですか? どうにも怪我をしてる人の数が異常に思えたんですが?」


 それに答えようとするボーガーを遮って、ブラドが話し始めた。


「察しは付いてるだろうが、今この集落にいるオーガ族以外の亜人はよその集落の者だ。どいつもこいつも俺たちを襲った根っこの化け物に追われて、この辺りで一番力のあるこの集落に逃げ込んだんだそうだ。こないだ見た、半壊した集落に済んでたゴブリン達もやっぱりここに来ている」

「お陰で集落の密度がえらい事になっとるがな」


 ボーガーが付け足す。


「でまあ、ボーガーと話してあの化け物の正体がだいたい掴めたんだが……」

「ブラド、儂にも喋らせろ」


 ブラドが言いよどんだので、ボーガーが代わりに話し出した。


「君らが根っこの化け物と呼んでいる存在は、大体1週間程前に突然現れた。儂はこの森に住んで100年近いが、今まで一度もあんな化け物を見た事も無い。当初は他の土地から流れてきたのかとも思ったが……。ブラドに聞いたが、奴はこの森に生えている木を変質化して襲ってきたんだな?」


 カインとライラが頭を縦に振る。


「知っての通り、魔法を扱う時にその属性と同じものが周りにあれば、それを使って魔力の消費を抑えたりする事が出来る。例えば湖の水を使って雨を降らすとか、辺りが火に囲まれてたら、その火を集めて大火球を作るとか。要は何も無い状態から現象を起こすより、元からあるものを利用すれば無駄が省けるって事じゃ。木の魔法が得意なら、辺りに生えてる木々に魔力を与えて自由に動かすなんて事も出来る」


 ただ、とボーガーは呟く。


「それは自然に存在してるものか、自身で生み出した現象にしか作用出来ない。実力差が大きく離れてるのなら他者の魔法に干渉する事も一応可能ではあるが、まあそんな事するぐらいなら普通は力押しするじゃろう」


 カインは真剣な顔をして聞いてるが、ライラはだからどうしたという顔をしている。


「詳しい事は分かっておらんが、他人が生み出した現象は本人の魔力、つまり自然物と違い一定の波長があるからだといわれておる。これも当然だが、魔力の波長は人それぞれ違う。だから他人の魔法で出来た物体を魔法で弄くろうとしても、その波長の違いのズレで上手くいかないというわけじゃ」

「それで、それがどうしたって言うのよ?」


 ライラが分かりきった事を述べるボーガーに、少し苛立ったかの様に尋ねた。


「まあまあ、そう慌てなさんな。さっき言った通り、実力差があれば実のところ不可能では無い。そのズレをより大きな魔力でもって、無理矢理帳尻合わせる事で他者の魔法を乗っ取る事が出来る。で、ここが重要じゃ。もう一回確認するが、今回現れた化け物は森の木々を魔法によって変質かしたんじゃよな?」

「そうだけど……」


 ライラが怪訝そうにボーガーを見た。


「ライラ、エンテの森が出来た経緯を昔、話してやった事があっただろ? 少し考えて見ろ」


 ブラドがライラに話しかけた。

 一同の視線がライラに集まる。

 目を瞑って考え込むライラであったが、何か思いついた様に目を見開いた。

 少々顔色が悪い様に、カインには思えた。


「で、でも、あの話って作り話でしょ?」


 引きつった笑い顔を作るライラ。


「いんや事実じゃ。エンテの森はその名の通りエンテが、遙か昔に魔法によって創りだしたものじゃ。寿命の短い人間の間じゃ迷信みたいになっとるらしいが、亜人の中には非常に長寿な者もいるからの。確りと事実として残っておる」

「ちょ、ちょっと待って……。それじゃあ結構ヤバい状態じゃないの? だってそれじゃあ、今回暴れてる化け物の正体って……」


 ライラの顔色が真っ白になったところでブラドが口を開いた。


「いや、多分それは違うと思う。まあ当たらずといえども遠からずって所だが」

「でもお爺ちゃん。今の話を聞いたら、それ以外に無いんじゃないの?」

「正直俺もお前と同じ事考えてたんだがな。でもその場合、根っこの化け物がもっと強くなければおかしい」


 続けてボーガーが話し出す。


「ブラドの言う通り、広大なエンテの森を一夜にして創り上げた大魔王エンテが今回の首謀者なら、あの化け物から発せられる魔力は弱すぎる」


 大魔王と聞き、流石に状況が理解出来たのかカインの顔色も悪くなる。


「だがハッキリ言って魔神並に力を持ってなきゃ、エンテが創り出した木々を変質化する事は出来ない。とはいえ、長年静観を決め込んでる大魔王を刺激する様な事考える馬鹿はいないだろ。そうするとだ、理由は分からんが辿り着くのはただ一つ……」


 カインとライラがボーガーを見る。

 2人とも顔色が非常に悪く、汗を掻いている。


「大魔王エンテの子供達。つまりは森の子供達と呼ばれる存在が、今回の鍵を握っているというのがブラドと話して出た結論じゃ」




 


 



 

 

 




 

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