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ガヌートの故郷

 ライラが非常に苛立った様子で床に座っている。

 少し離れて座るカインはその様子に恐怖し、視線を合わさない様俯いて座っていた。

 辺りは昼間だと言うのに薄暗く、どうにも陰気臭い。

 なにせ今二人がいるところは牢屋なのだから。


 二人を監視するオーガ族の見張りも、ライラの余りの怒気に引き気味だ。


「なんで私が牢屋に入れられなくちゃいけないのよ……」


 小さな呟きであった。

 ただ、その小ささがライラの怒りを表している様で、カインはビクッと身を更に竦ませた。

 二人が牢屋に入れられたのは1時間ほど前。

 話はオーガ族の集落に辿り着いたところから始まる。


※※※※※※


「止まれ! お前等何もんだ! 見たところ人間みたいだが、何の様があってここまで来た!」


 ようやくオーガ族の集落に辿り着いたカイン達一行を迎えたのは、労いや歓迎の言葉では無かった。

 木で出来た大きな門の上から、オーガ族の若者2人がカイン達に敵意の籠もった声で尋ねる。

 見たところガヌートより少し年下と言ったところか。

 後ろで立っていたガヌートが、慌ててフードを捲りながら前へ躍り出た。


「ちょっと待て、お前等! 俺だ、ガヌートだ」


 門の上でオーガ族の若者2人が目を見開いた。


「ガ、ガヌート兄ちゃん!? な、なんで人間なんかと一緒にいるんだよ?」

「ちょっと訳ありなんだよ。悪いけど爺呼んでくれるか」


 どうやら2人はガヌートと親しい関係にあるらしい。

 門の上で思案するかの様に、2人は目線を交わす。


「悪いけど兄ちゃんの頼みでも、人間を入れるわけにはいかないよ。今面倒な事になってるんだ。というか、何で人間といるんだ?」

「いいから爺呼べって言ってんだろ。昔みたいに尻ひっぱたくぞ」


 ビクッと身を竦ませる2人であったが、それでも門を開ける気は無い様だ。


「訳ありって兄ちゃん言ったな。さっき言ったけど、こっちも今困った事起きてんだよ。そんな時に怪しい人間共入れるわけにはいかないよ、怒られちまう」


 ガヌートが相手だからだろうか、話し方は初めに比べ険が取れている。

 それでもカイン達に厳しい目を向けるオーガ族の若者2人。

 カインは、若者が自分達に向ける敵意の強さに驚いていた。

 フィルシー大迷宮都市では沢山の亜人が歩いていたが、敵意を向けられる事は無かった。

 ようやくブラドが言っていた、人間と亜人の仲が悪いという意味を理解し始める。


「だからさっきから言ってんだろ。爺呼べってよ! 仕舞いにマジで怒るぞ!」


 ガヌートの大声で我に返るカイン。

 ブラドはガヌートに任せた様に動かず、ライラは固唾をのんで事の成り行きを見ている。

 ネイだけはこの状況でチットの上で寝ていた。


「全く帰って早々、喚き散らしおって。さっさと開けてやれ」


 すると年寄りのしわがれた、だが力強い声が門の内側から発せられた。


「爺ちゃん、人間だぞ! 本気で言ってるのかよ?」


 その声に門の上にいる青年の1人が驚きの声を上げた。


「ええよ、知っとる奴じゃ。それにそろそろ開けんと、門ごと吹っ飛ばされるぞ」

「そんな事するか!」


 門の内側から聞こえてきた声に、ブラドが抗議した。

 カインはどうやら、知り合いというのがブラドの事を指しているのだと理解する。

 すると今まで固く閉じていた門が、重たい音を立てながらゆっくりと開いてゆく。

 門の上の2人は未だ不満らしく、苦々しい表情でカイン達を睨んでいた。


 開いていく門の先、オーガ族の集落が見え始める。

 ゴブリンの集落より遥かに大きい規模である。

 森を切り開いて作られた集落は20近くの家が建ち並び、所々に急ぎで作ったかに見える簡素な小屋が、それと同じくらい建てられていた。

 その中をオーガ族を初め、他の種族も忙しなく動き回っている。

 だがどうも空気はピリピリしており、人々の半分近くが怪我を負っている様にカインには見えた。

 そして入り口の前に1人の老人が、集落を守るかの様に立っている。


 見たところオーガ族で間違いないだろう。

 赤黒い肌に大きな体躯。そして頭頂部から生える2本の角。

 ただその肌は歳のために皺だらけで、ガヌートよりも大きな身体は腰の辺りで曲がっている。

 そして右の角が根元から折れ、そのまま右目まで傷が伸びていた。


 ただ身体から発する雰囲気はブラドに似ている。

 腰が曲がり背が低く見えるにも関わらず、カインには目の前の老人が大きく見えていた。


「久し振りだの、ブラド。戦争の時以来か? 龍皇にやられたと聞いてたが、どうやら片足だけで済んだ様じゃの。運の良い事だ」

「ああ、久し振りだなボーガー。悪いな、忙しそうな所に来ちまって」

「ええよ、別に。どうせ後ろで図太く寝取る嬢ちゃんの事じゃろ?」


 ブラドが驚いた顔をして尋ねた。


「分かるのか?」

「ああ、昔見た姫様によく似ておる。ここまで図太くは無かったと思うがな。ブラド、どんな育て方したんじゃ?」

「分かってんなら、話が早い。ちょっと話したい事があるんだが、中に入って良いか?」

「立ち話するだけなら、門を閉めたままで出来るじゃろ。馬鹿な事言ってないで、さっさと入ってこい」

「助かる。それじゃ皆さっさと入るぞ」


 そう言ってブラドが一向に指示を出した。

 ブラドは気にしていないがカインは当然として、ライラも集落から自分達に集まる敵意の籠もった視線に、おどおどとしながら門をくぐる。

 ようやく起きたチットが寝ているネイを起こさぬ様に、ゆっくりと着いてきた。


「ただし……」


 全員が門をくぐったところで、ボーガーと呼ばれたオーガの老人が呟いた。


「そっちの2人は別じゃ」


 その言葉と同時に、門の影に隠れていた屈強なオーガ族の青年達が、カインとライラを取り囲んだ。


「爺! 何しやがる!」

「ボーガー……。どういうつもりだ?」


 ガヌートが吠え、ブラドも静かながらも怒りの籠もった声で問いただした。


「さっき上のガキンチョ共が良っとったじゃろ、困った事が起きとるって。集落の者はそれでピリピリしておる。そんな時に人間のお前等が来たんじゃ。この短時間でお前等が原因なんじゃないかと疑う者まで出る始末での。悪いが人質という形で、集落の者の緊張を解いておきたいんじゃ。勿論、危害を加えられんよう見張りは付けておく」


 ブラドとボーガーの視線がぶつかり合い、重苦しい沈黙が落ちる。

 先に口を開いたのはブラドであった。


「ライラ、カイン。悪いがボーガーの言う通りにしてくれ」

「何でよお爺ちゃん!」

「頼む……」


 ブラドが懇願するのを見て、ライラは苛立ちながらも従う事にした様だ。

 そのまま何も言わずに大きな足音を立てて、先導するオーガの男に着いていく。

 それを見てカインも慌てて、その後を追った。


「ボーガー。いっとくがあいつ等に何かあったらただじゃ済まさねえぞ」

「分かっとるよ……」


 そう言ってブラドとガヌートはボーガーに連れられて、カイン達が歩いて行った方向とは別の場所に向かって歩き出す。

 ようやく起きたネイはブラドに背負われ、チットはまた別の方向に連れて行かれた。


 そして話は冒頭に戻る。


※※※※※※


「まったく、いつまでここにいてたら良いのよ!」


 牢屋にライラの怒鳴り声が響く。


「五月蠅いぞ、人間。ちょっとは黙ってろ!」


 ライラの声に苛立ったのか、見張りの1人も怒鳴り声を上げた。


「五月蠅いですってー! 何もしてないのにこんな陰気臭いところに放り込まれたら文句の一つや二つ、出るに決まってんじゃ無い!」


 言い返すライラの眼光に、怒鳴った見張りがたじろいだ。


「何て女だ。オーガの女の方がまだ可愛げがあるぞ……」


 小声で呟いたのだが、聞こえていたらしくライラの眼光が一層鋭くなる。

 一方カインは、側で起きているもめ事に巻き込まれぬ様、黙って考え事をしていた。


 牢屋に連れて来られる途中、カインは集落の状態に何か嫌なものを感じていた。

 そこかしこに怪我を負っている亜人がいるのだ。

 オーガ族だけでは無い。

 カインは亜人を詳しく知らないので種は分からなかったものの、明らかに外見の違う様々な亜人が、怪我を負って集落を歩いていた。

 そしてそのどれもが、カインとライラに向かって敵意を放っているのだ。

 一体何があったのか……。考えれば考えるほどに謎は深まるばかり。


 ふとカインの思考が途切れる。

 遠くから足音が、自分達の方へ近づいてくるのが小さくはあるがハッキリと聞こえる。

 暫くすると、地下の牢屋へと続く扉を開ける音が聞こえた。

 そこに至ってライラにも聞こえたのか、ピタッと静かになった。


 階段を下りる音が地下に響き、見張り達が姿勢を正す。

 カインとライラが入れられている牢屋の前に誰かがやって来た。

 それは難しい顔をしたブラドとボーガーであった。





 




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