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ライラ爆発

 暗い森の中を煌々とした明かりが駆けてゆく。足場の悪い森の中とは思えない速度で。

 目指す目的地はオーガの集落。ガヌートの生まれ故郷だ。

 その為、一行の中で一番道に詳しいガヌートが先頭に立って進んで行く。


 オーガ族の頑丈な身体に小枝など障害になるはずが無く、殆ど最短の距離で目的地に進んでいると言って良いだろう。

 足下を取ろうとするかの如く所構わず地上に顔を出す木々の根っこも、若手の探索者の中では腕が立つと言われているガヌートの進行を止められるはずも無い。


 その後ろを走るレクトブルの子供。ブラドにライラ、ネイに加えて旅の荷物を括り付けられながらもチットの足取りが遅くなる事は無い。

 希に生まれてくる強力な魔獣、特異個体。その子供であるチットは少し抜けた顔をしているが、間違いなく親の血を継いでいた。

 飼い主であるウァーナムが可愛さの余りに食わせすぎたのか、それとも特異個体の特徴である大きな身体が原因かは分からないが、縦にも横にも大きな身体を揺らしながら短い足で走り続ける。


 ただ森の中を走った事が無いカインだけが唯一、木の根っこに引っかかりながら最後尾を走っていた。引っかかった木の根を蹴り千切りながらではあるが。

 ビッグゲート家特有の魔力放出障害を患う者は例外なく逞しい身体に育つ。鍛錬など積まなくてもだ。

 内に溜まる淀んだ魔力に耐えられる様に身体が適用する為に。

 その為ビッグゲート家の長い歴史で一番症状の重いカインの身体能力は、力を使わない素の状態であっても人間のそれを凌駕している。

 お陰で木に躓きながらであっても、どうにか前を走る一向に着いていく事が出来ていた。


 既に2時間ほど走っているだろうか。

 幸い一行は魔獣にも、それにあの根っこの化け物にも襲われる事無く進む事が出来ていた。

 魔獣はともかく、根っこの化け物の襲撃が無い事が不気味に思われたが。

 ただそんな事よりも、一行はブラドの押し黙った雰囲気に不安を感じていた。


 カインはブラドに会って時間が経っていないから比較的マシではあるが、ライラとガヌートは今まで見た事の無いブラドの表情に、不吉な予感が胸中で増していくのを押さえる事が出来なかった。

 2時間ほど前に根っこの化け物に襲われ、出発を早めてからブラドの調子は一向に変わらない。

 ずっと難しい顔をしながら何かを考えている様であった。

 状況からして根っこの化け物が理由なのは明白であるのだが、ただそれがどういう理由があってブラドを悩ましているのか分かる者などこの場にはいない。


 何せブラドは見た事も聞いた事も無いと言いながら、根っこの化け物に一切苦戦していなかったのだ。

 確かにブラドに気付かれずに近づいたと言う点は、一行の中でブラドの実力を一番知っているガヌートからしてみれば驚愕に値する。

 魔獣の中にも魔法を使う種がいるのは別に珍しい事では無い。ただ魔獣の魔法は基本的に単純な物が多い。

 その点で言えばもし魔獣だと考えるとすると、木々を魔法によって変化させ攻撃するというのはなかなか頭が働くとも言える。

 ブラドに気付かれずに近寄れる気配の消し方。そして姿を現さずに周りの物を駆使して戦う魔獣としては知性を感じさせる戦い方。

 もしブラドがいない状態でガヌートが出くわしたとなれば、なかなかの強敵だといえるだろう。


 そこまで考えてガヌートの頭に一つの、考えたくも無い仮説が浮かび上がった。

 そんなはずは無い、と過ぎった考えを打ち消そうとするが頭にこびりついて消えてはくれない。

 どうにか進む速度を落とさずにいたが、その雰囲気をブラドは明らかに感じ取った。


「どうしたガヌート? なんか変だぞ」

「いえ、ちょっとあり得ない事考えてしまいまして。何でもありません」


 そうは言うもののガヌートの声色は明らかに震えていた。


「そうか……。なら良い。体調が悪ければ言えよ」

「大丈夫です。問題ありません」


 そう言って二人の会話は終了した。

 二人の間におかしな空気を残して……。


※※※※※※


 どれだけ走ったのだろうか。既に日の光が薄暗い森の中を照らし始めていた。

 様子のおかしかったガヌートはあれ以降口を開かず黙々と走り続け、ブラドも一切詮索をしなかった。

 ライラやカインからすれば非常に居心地が悪かったといって差し支えないだろう。

 ずっと走り続けていたガヌートとカインは汗まみれで、着ているマントとコートは色が変わっている。

 チットも疲れたのか息が荒い。

 唯一ネイだけがライラに抱かれ寝息を立てていた。


「ブラドさん、もう少しで集落に着きます」


 唐突にガヌートが口を開いた。

 強行軍ではあったがようやく辿り着くのだと、カインとライラは息を吐く。


「そうか……」


 それにブラドは未だ何かを考えている声で応えた。

 再度沈黙が蘇る。

 その重い空気に耐えきれずにライラが爆発した。


「ったく、何なのよ! お爺ちゃんもガヌートも! 馬鹿みたいに黙りこくって。何かあるなら言えば良いじゃ無い」


 後ろの方でカインが顔を引きつらせた。


「悪いなライラ」


 意外にもブラドは落ち着いた声で返事をする。


「ただなぁ……、あんまり口に出したくないというか、何というか。早い話が余り信じたくない事を俺は考えちまってるんだよ……」


 ブラドが力なく答えた。

 何時ものライラなら、ブラドの元気が無い様子を心配してそれ以上聞く事は無いだろう。

 ただ祖父であるブラドが自分に隠し事をするかの様に黙り込んでいたのが気にくわなかったのか、それとも寝不足で苛立っていたのか。今のライラは止まろうとしない。


「何よ! 一人で考えてるから悪い方向に考えが行っちゃうのよ。私たち一緒に旅してんでしょ。心配事があるんなら言えば良いじゃ無い。言えば勘違いだって気付くかもしれないんだから!」


 ライラの無茶苦茶な理論にブラドとガヌートが少し笑った。


「はは、まあそうかもしれないな。確かに俺らしくも無かったか。それじゃあガヌート。まずお前から言って見ろ」

「ええっ! お、俺ですか! なんかそう言われると間違ってる事で悩んでたみたいに考えちまう」

「いいから言ってみろよ。正直俺が考えてた事と同じか気になるしな」


 ブラドに促され渋々ガヌートが自身の考えを語り出した。


「なんて言ったら良いのかな……。おかしいと思ったのは根っこの化け物が、俺等の周りに生えてた木を魔法で自分達に似た形にしたって所ですかね。確かエンテの森って……」

「ガヌート、もう良いぞ」


 ガヌートに考えを話せと言ったブラドが、何故か話の途中で止めさせた。

 話せと言ったり止めろと言ったり、ブラド以外の面々が何が何だか分からないという表情を浮かべる。

 一人、ブラドだけが長いため息を吐いた。


「え! 俺変な事言いました?」


 ブラドのため息を聞いたために、自分が余りにも的外れな事を言って呆れられているのかとガヌートが慌てる。


「ああ、違う違う。やっぱりお前も同じ考えなんだなぁと思っちまってな。でもまあ二人とも考えが同じでも、間違ってる可能性もあるし……」


 苦笑いを浮かべながらブラドが否定した。

 そして真剣な顔をして、また黙る。


「ちょっと! 答えになってないじゃない。それにまた難しい顔をして!」


 結局黙り込んでしまったブラドにライラが爆発した。


「あ、悪い悪い。ガヌート、もうすぐ着くだろう?」


 しまったという顔をして、ブラドがどうにかごまかそうとガヌートに話しかけた。


「はい、もうじき着くと思いますよ」

「そうか。ライラ悪いがオーガ族の集落に着いたら、あっちで色々聞くつもりだから話はそん時で我慢してくれ」


 ブラドが話す気が無いのを悟ると、ブツクサ言いながらもライラは引き下がった。


 日の光が完全に森の中を照らし出す。

 目的地であるオーガ族の集落は直ぐそこまで迫っていた。





 






 

 

 

 

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