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戦い明けて

 その後2日ほどカインは寝て食事を取るだけの生活を送った。

 1日寝た後は痛みは酷いものの多少動ける様になっており、どうにか下の世話を他人にされず済んでほっとする。


 どうもカルカンとの戦いの後、3日寝たっきりだったと見舞いに来たガヌートからカインは教えて貰い、戦いの激しさと力を使った場合のリスクを再確認する事となる。

 ガヌートはガヌートでカルカンの一撃で死にかけており、助けに来た酒場の常連に治癒魔法をかけて貰ってどうにか助かったらしい。


 その話の中でカインは自身が回復魔法を殆ど受け付けないという事実を教えて貰った。

 どうにも体内で溜まった淀んだ魔力が、壁になって魔法を通しにくいらしい。

 因みにガヌートは助かった後、ネイを連れてきた事でブラドにこっぴどく怒られたとカインに語った。

 残念な事にライラとはあれ以降少し話したが態度は元に戻っており、カインは残念な気持ちになる。


 とにもかくにも2日経ちカインは痛みが少し残るものの日常生活に支障は来さないくらいには回復していた。


※※※※※※


「おはようございます」


 ようやくまともに動ける様になったカインが朝、階段を下りると既にライラが起きて朝食を作っていたので挨拶をする。


「おはよう。動ける様になったのね。朝食作ってるから座っといて」


 ライラに言われた通り、カインは椅子に座る。

 カルカンと戦い倒れていたネイもすっかり元気になった様で、その小さい身体を動かしながらライラの手伝いをしていた。

 カルカンと戦った時薄らと見た明白な意思が宿る瞳は無く、以前の人形の様な瞳をしていた。


 とはいえ、考えたところで答えが出るはずが無いとカインは気にする事を止めた。

 何もしていないのは疲れるが、動いて怒られるのも避けたい。

 暫くそうして座っていると杖を突く音が聞こえてきた。


「ブラドさん、おはようございます」

「おお、おはよう。動ける様になったか、良かったな」


 階段から降りてきたブラドがカインに笑いかける。


「お爺ちゃん、もうすぐ出来るから座ってて」

「おう、ライラにネイおはよう」


 二人に挨拶をしたブラドが、カインの反対側の椅子に座った。

 同じタイミングでネイがライラの作った朝食を運んできたので、カインがそれを受け取り机に並べた。

 あっという間に準備は終わり、朝食の時間となった。

 出てきたものはいつも通りのパンにサラダ、そしてスープ。

 誰もが数日前に死闘を繰り広げたとは思えないほどに自然体である。


「それじゃあカインも動ける様になったし、今後の話でも後でするか」


 朝食を食べ終えたブラドがカイン達に話しかけた。


「今話したら良いんじゃ無いの?」


 ブラドの「後で」、と言う発言に疑問を持ったライラが尋ねる。


「三馬鹿達にも聞かせたい話があるんでな。どうせ暫くしたらガヌート達が何時も通りやってくるだろうし、その時話そう」


 そう言い残してブラドは階段を上がって言った。


「まあ良いか。それじゃあ洗い物するからネイとカイン、手伝って」


 ライラがそう言い、目の前の食器を持って厨房へと歩いて行く。

 やる事も無いのでカインはライラの言うとおり食器を持ってその後へ続く。

 大抵の食器を二人が持ったのでネイが運ぶ物は少なく、何故かカインの目には少し不満そうに見えた。


 カインが厨房に入ると水を出す為の手押しポンプは無く、ライラが魔法によって水を作り出していた。

 カインはブラドから、ライラに精霊が寄りつかないと聞いていたので不思議に思い尋ねた。


「あれ? ライラさん魔法を使えるんですか?」

「あれ、カインその事は覚えていたの?」


 ライラはカインの前で自分の変わった体質を話していなかったので、昔の記憶が戻ったのかと笑顔になる。


「いえ、ブラドさんに聞きまして」


 カインがそう言うとライラが肩を落とす。


「ああ、そういうことね。お爺ちゃんが言ってたと思うけど、私には精霊が近寄ってこないし当然精霊の力は借りられないわよ」

「それじゃあ何で今魔法を使えてるんですか?」


 魔法とは精霊に自身の魔力を与える代わりに、様々な力を行使する事を示す。

 だからカインは精霊の力を借りられないライラが、どう見ても水の魔法を使っている事に疑問を覚えた。


「結構ズバズバ聞いてくるわね、あんた。良く分からないんだけど、あたし簡単な魔法なら精霊に力を借りなくても何故か使えるのよ。変でしょ? これもあたしが周りから気味悪がられてる理由の一つ」


 そう言ったライラは少し悲しそうな顔を浮かべた。


「凄いですね! そんなの初めて聞いた!」

「何あんた、気持ち悪くないの?」


 カインの表情に不快な物は一切無く、それに驚いたライラが尋ねる。


「いや、だって凄くないですか? 僕そんな話初めて聞きましたよ。実は何か変わった精霊が付いてたりして」


 興奮するカインを不思議そうに見ていたライラであったが、不意に笑い出す。


「ふふふっ、本当は記憶が無いって嘘じゃ無いの?」

「え、何でですか?」

「だってカイン、昔遊んだ時に同じ話をして今言った事と同じ事言ったもん」


 そう言ってライラは嬉しそうに笑い続ける。

 その笑顔にカインが見取れていると下から声がかかる。


「お姉ちゃん、洗い物しよう?」


 ネイがカインを少し睨みながらそう言った。


「そ、そうね。馬鹿達が来るまでに洗い終わらなくっちゃ」


 ネイに指摘されたライラが慌てて洗い物を再開する。

 カインも手伝おうと近寄ると、その間にネイが割り込んできて一言。


「あっち行ってて」


 逆らいがたい物を感じたカインは、怖ず怖ずと元いた椅子へと歩いて行った。

 椅子の前まで辿り着いたカインは家宝の巨剣の事を思い出し、辺りを見渡す。

 すると酒場の隅の隅、壁際に置かれているのを見つけた。


 そして薄らと記憶に残るカルカンとの戦いの最中、何度もその巨剣で相手の攻撃から身を守っていた事を思い出した。

 不格好な剣ではあるが家宝であるため、傷が無いか確かめると幸い刃毀れやヒビも入っていないので安堵のため息をつく。


 すると外から足音が聞こえだしたので、カインはそちらに集中した。

 足音がしてすぐに酒場の扉が開き、数人の男達が入ってくる。その中にガヌートと三人の老人達の姿をカインは確認した。


「おう、カイン。動ける様になったのか?」


 そう言ってガヌートがカインに声をかけてきた。


「おはようございます。まだ少し痛いですけど何とか動ける様になりました。


 カインがそう答えると、


『良かったの。助けに行った時はもう無理かなと考えとったが、流石に身体が丈夫じゃの』


と、老人達がカインに声をかけた。


「おはようございます。ブラドさんから聞きました、助けて頂いてありがとうございました」


 カインが老人達に頭を下げると、気にするなと言わんばかりに手を振る老人達。

 枯れ枝の様なウァーナムが口を開く。


「ええよ、儂等は何もしとらん。それより今酒場にいとる奴らがカイン君達を連れ帰ってきてくれたんじゃ。礼を言うならあいつ等に言ってやりなさい」


 そう言って既に酒を飲み出した客達を見やる。

 ライラはまだ居らず、どうも自分達で勝手に飲んでいるらしい。


「あ、あの、皆さん。助けて頂いてあ、ありがとうございます」


 カインが礼を言うと、老人達の様に気にするなと客達が手を振った。

 すると杖を突く音が聞こえブラドが現れた。


「おう、お前等来たのか。爺どもは酒を飲みたいかもしれんが、カインが動ける様になったし話をしたいから二階に上がってくれないか? あとガヌート、悪いがこれから重要な話をするから酔っ払った馬鹿が二階に上がってこない様見張っててくれ。それとネイの面倒も見ててくれ」

「分かりました、任せて下さい」


 ブラドが老人達とガヌートを見るなりそう切り出した。

 ガヌートはブラドに頼まれたのが嬉しいのか胸を張っている。


「カイン、お前はライラを俺の部屋に来てくれ。それとお前等、今から話しに二階に行くから勝手に飲んでくれて良いぞ」


 そう言って階段に向かうブラドに客達の歓声が浴びせられた。


※※※※※※


 カインがライラを呼んで、二階のブラドの部屋に入ると部屋がスペースが無くなる。

 元々狭い部屋なのでカインの様な身体が大きい人物が入ると、そうなるのは当然の事であった。


 カインが扉を閉めるとブラドが話し始めた。


「それじゃあ話を始めるぞ」


 何を話すのか気になったカインが集中して耳を傾ける。

 するとブラドは単刀直入に切り出した。


「亜人の中央国へ行こうと思う」

「「「「「はあ?」」」」」


 ブラドの突拍子も無い発言に、その場にいる全員の声が重なった。




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