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決意

 カインはガヌートの言葉に即座に答えることが出来なかった。

 まさか自分が着いてきてくれと言われるとは考えていなかったからだ。


「カイン、てめえ何ですぐ返事しねえ?」


 ガヌートが唸るような声でカインに尋ねる。


「い、いや、僕が言っても役に立てるか分からないですし……」


 カインのその一言でガヌートの赤黒い肌がより赤く染まる。


「てめえ! あれだけ大口叩いておいて、そりゃあどういうつもりだ!」


 ガヌートが勢いよく立ち上がり、座っていた椅子が転がる。

 目の前の机など関係ないと言わんばかりにカインに飛びつこうとしたガヌートを止めたのはブラドであった。


「ガヌート落ち着け。そもそもカインからすればライラは昨日出会ったばかりで他人同然だ。いくらライラが昔の知り合いだと言ってもな。そんな相手のために命をかけろってのは少々酷だ。お前の気持ちは嬉しいがここは俺に任せてくれ、お前等も良いな?」


 ブラドはガヌートにそう言った後老人達を見た。


「分かったお前さんに任せる。儂等はここで待っとるから2人で話してこい」


 ヨウムがそう言い、他の老人達も了解したとうなずいた。


「悪いな。それじゃあカインちょっと悪いが俺の部屋に来てくれないか?」

「分かりました……」


 返事をした後カインはブラドの後ろを追って階段を上がっていった。

 後ろからはガヌートが老人達となにやら言い争いをしているが、カインの耳には入ってこなかった。

 聞こえるのはブラドが歩くたびに響く杖を突く音だけ。


「それじゃあ入ってくれ」


 ブラドにそう言われカインはハッとする。

 気づけばブラドの部屋の前にいた。

 拒むわけにもいかず部屋に入るカイン。


「そこの椅子に座ってくれ」


 そう言われてカインは椅子に腰を下ろした。

 その反対側、机を挟んでブラドも椅子に座る。

 暫くの沈黙が流れ、その沈黙を破ったのはブラドであった。


「悪いなカイン、来て早々面倒事に巻き込んじまって。これじゃあお前の病について手を貸す事も出来そうにねえ……」

「えっ?」


 カインは絶句した。

 まさかブラドに謝られるなど考えていなかったからだ。

 むしろあれだけ偉そうなことを言っておきながら碌な返答が出来なかったことから、ガヌートのように怒っているものと考えていた。


「い、いやそんな。ブラドさんが悪い訳では無いですし」

「それでもだ。そもそもネイを預かった時点でこうなる可能性は考えられた、まあ魔神は想定外だったが……。それなのに俺は何の準備もしてこなかった。そのツケが来たって事だな。俺がもうちょっとしっかりしとけばお前の手伝いも出来たが、こうなっちまった以上正直難しい。せっかくここまで俺を訪ねてきてくれたお前には悪いことをしたと思っている……」


 そう言われてカインは黙ることしか出来なかった。


「……ライラさんの事はどうするんですか?」


 カインがゆっくりと口を開いた。

 ブラドが少し難しい顔をして答える。


「正直言えばお前に手を貸して貰いたいのが本音だ。とはいえさっきガヌートに言った通り、お前からしてみればライラは初めて会った赤の他人だ。そんな相手の為に命をかけろとは俺には言えない」


 ブラドはそう言って黙る。

 カインもまた黙り込み、暫く2人の間に沈黙が落ちる。

 少ししてカインがブラドに問う。


「ブラドさん。言いにくいかもしれませんが、何でライラさんを誰も助けに行かないと言ったんですか?」


 カインの問いにブラドは一つ息を吐いた。


「隠してても仕方が無いか。まず魔神と戦おうなんて考える馬鹿がいないことが一つ。で、もう一つの理由はライラの変わった力にある」

「ライラさんの力ですか?」


 そうだ、とブラドが頭を縦に振った。


「本当に変わった力でな。あいつに何かあると周りの精霊が混乱するんだ、下級上級に限らずな。で、それによって周りにいた奴らの魔法が暴発したやら、本来の威力より遥かに強力な魔法が発生したりして色々面倒ごとが起きてな。それに加えて本来変化させる事が出来ない魔力の波長を自由に変えられる、つまり個々の精霊が好む魔力を自在に生み出すことが出来るんだ。なのにライラには精霊は寄りつかない。その結果周りの人間に気味悪がられてな」


 ブラドはそう言って、嫌な事を思い出したように頭をガシガシと掻きつつ話を続けた。


「でだ、あいつは生まれが少々ややっこしくてな。元から人間不信気味だったのがここに来て周りの奴らから避けられ、より悪化。それで仲の良い奴が殆どいないって訳だ、助けに行く奴がいない位にな」


 そう言ってブラドは再度黙った。


「……僕がついて行って勝算はどれ位有りますか?」


 カインが尋ねた。


「そうだな……。ライラとお前を無事逃がす事が勝ちとすれば、さっき言ったライラの力が発動してお前がそこそこ動けて半々ってところか」

「……それじゃあ僕が行かなければ?」

「そうなるとライラの力が上手く発動して漸く2割あるか無いかって所かな。俺の身体は10年前の後遺症がまだあるし、年だしな」


 ブラドは困った様に笑った。


「ブラドさん、僕が助かるには力を使って身体に負荷をかけろって言いましたよね」

「ん? ああ、だが実際どうなるか分からんぞ。正直そうは言ったが自信は無い」


 カインが大きく息を吐いた。


「それだけ危険な相手なら嫌が応にも力を使わないといけないと思うんです」

「言っておくが変な使命感で手伝う必要は無いぞ。ライラは大切だがガーラの孫を死なせたら死んでも死に切れんからな」


 ブラドは真剣な目でカインを見た。


「そんなんじゃ無いですよ。ただ覚えてないとは言いましたがライラさんに会ったとき、どこかで以前会った気がしたんです。それに昔の僕を覚えていてくれた数少ない人ですし。ここで助けに行かずに病をどうにか出来たとしても、きっと見殺しにしたって一生後悔すると思うんです」


 そう言ってカインは苦笑いを浮かべた。


「それにこのままだと、多分力を使うのが怖くて上手く行く気がしないんで。どうしようも無い状況になったら嫌が応にも力使うことになるだろうし、僕としても助かるんです」

「まあそういうことにしておくか」


 ブラドはそう言った後、立ち上がってカインに頭を下げた。


「頼むカイン。ライラの祖父として頼みたい、どうか俺と一緒にライラを助けてやってくれ」

「や、止めて下さい。僕は自分の為に行くだけです」

「そうか」


 カインを見ながらブラドが微笑む。


「それじゃあ今日の夜出る。準備はこっちでしておくから、お前は少し休んでてくれ」


 それだけ告げるとブラドは部屋を出て行った。







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