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厄介は続く

「カイン、お前本気で言ってんのか?」


 ガヌートが信じられないといった顔でカインを見る。


『カイン君、本気で言っとるのか?』


 老人達もガヌートと同様に凄い顔をしながらカインを見た。

 そこにブラドが助け船を出す。


「ガヌートは仕方ないとして、爺ども。お前等カインがどういう状態にあったか多少は知ってるだろ?」


 ブラドの叱責に老人達は「しまった」という顔をしてカインを見る。


「済まんカイン君。儂等無神経すぎたようじゃ。君の境遇を忘れとった」


 老人達の1人、小柄なヨウムがカインに謝り他の2人も頭を下げた。


「いえ、えっと、気にしないで下さい。物を知らないのはホントなんで」


 カインの言葉に老人達がホッと息をつく。

 それを見た後ブラドがガヌートに説明した。


「ガヌート、昨日も言ったがカインは少し訳ありでな。色々と物を知らないが出来れば見過ごしてやってくれ」

「分かりました、ブラドさん。カイン、悪いな。何も知らねえで馬鹿にする様な事言って」


 ガヌートがカインに頭を下げた。


「いえ、ホント気にしないで下さい。それに皆さんに頭を下げられると気まずいんで、頭を上げて下さい」


 カインのその言葉でガヌートがこちらもホッとした顔で頭を上げた。

 そこでブラドが話し始める。


「それじゃあ俺が簡単に説明してやる。魔神ってのは迷宮から這い出てくるとされる化け物だ。一説によると神々がいた時代に、主神に反逆を起こして封印された悪神達の成れの果てと言われている。因みに前言ったとおり魔王は基本的に害は無いが、魔神はお前が本で読んだ通り人類の 大敵 (アーチエネミー )だ」

「それじゃあ、なんでそんな危険な存在が帝国と?」


 カインが聞くとブラドはまた難しい顔をして黙り、暫くしてから話し出した。


「なあ、確か帝国は自治領にある迷宮の管理を独自にしていたはずだよな?」


 ブラドが今まで黙っていた老人達を見てそう聞いた。


「ん? おお、そうじゃ。帝国には探索者ギルドの支部は無いぞ。って、もしやブラドお前さん!?」

「ああそうだ、帝国は自分たちで迷宮の管理をしている。だから迷宮から魔神を呼び出して手を組んでいると俺は睨んでいる」

「あの、探索者ギルドって何ですか?」


 カインの質問に場の空気が固まる。


 カイン以外のその場にいた全員が何か言おうとして、グッと飲み込む事に成功した。

 またもブラドがカインに説明をする。


「探索者ってのは迷宮に潜って過去の遺物や迷宮内部でしか取れん特殊な素材を取ってくる奴らのことだ。半ば忘れられてるが、本来はさっき言ったとおり迷宮から這い出てくる魔神を事前に止めるのが仕事なんだがな。魔神が顕現する際に必要となる迷宮の核の魔力に、迷宮で活動することによって干渉して封じるんだよ。というよりこの都市に探索者ギルドの本部があるんだ」


 ブラドの説明をカインが真剣な顔で聞いている。


「それじゃあ話を戻すぞ。たしか俺は帝国と魔神が手を組んでいると思うってとこまで言ったよな?」

「おおそうじゃ。しかしブラドよ、お前さん何か確証があって言っとるのか? 俄には信じられん」

「まあそうだろうな、俺だって馬鹿な事言っている自覚はある。だがだ、もし帝国と魔神が手を組んでいると考えれば色々と帝国の周りで起きたことが説明出来るだろう? 亜人の姫様の失踪とか、龍王の襲撃後の復旧とかな」


 ブラドの答えに老人達はまた難しい顔をしながら押し黙った。

 そして暫くして口を開く。


「ううむ、確かに帝国が魔神と手を組んでいるとなると今まで不自然だった点に片がつく。しかしそうなると少々どころかかなり厄介な話になるぞ。ところでブラド、お前さんの考えだと帝国と組んでる魔神は何体くらいじゃ?」


 ヨウムがブラドに聞く。

 質問は受けたブラドは苦々しい顔をしながら絞り出すように答えた。


「亜人の姫の実力を考えると一体じゃ済まないだろうな。まだ若いと言ってもハイエルフだ。戦時中にバレない様に攫うとなると魔神とはいえ2体は必要じゃ無いだろうか。」


 そう言ってブラドは押し黙り、老人達も同様に黙り込んだ。

 その横でカインが色々聞きたそうにしていると、


「カイン悪いな、色々聞きたいかもしれんが今は話している暇は無い。事が済んだら教えてやる」


と、ブラドがカインに言った

 そう言われるとカインは黙るしか無い、諦めて下を向く。


「しかしどうする?」


 枯れ木の様な体躯のウァーナムが再度ブラドに質問した。


「魔神がいると仮定して、正直お前さんといえど今の状態で魔神と戦って勝てる見込みはあるのか? それに帝国と組んでいるとなると帝国の者も同時に相手することになるぞ?」

「この都市にお前等以外にライラを助けるために魔神と戦うって奴がいると思っているのか? それにお前等だって帝国の事で残って色々やらなきゃいけないだろ? もしお前等が着いてきて魔神にやられたとなったら、それこそ都市が混乱する。それは避けたい」


 ブラドの語気が強くなり、余計なことを言ってしまったという顔をして老人達が押し黙る。

 それに反応したのはカインであった。


「な、なんで誰もライラさんを助けてくれないって決め付けるんですか?」


 それに対して誰も答えない。ガヌートでさえ心苦しそうに顔を歪めている。

 するとブラドがカインになだめるように話しかける。


「カイン、残念だがこの都市にライラを助けるために魔神と戦う奴なんていない。勿論魔神と戦うって時点で拒否する奴が大半だろうが、色々と面倒な事情があるんだ。残念だがな」


 それを聞いてカインの頭にカッと血が登る。


「な、何でなんですか!?」


 それに対するブラドの答えは沈黙であった。

 そして悲しげな表情。

 カインは自身の血液が沸騰するような感覚を覚え、同時に全身に酷い痛みが生じた。

 そんなカインを見ていたブラドがおもむろに口を開く。


「それじゃあカイン、お前が一緒に着いてきてくれるか?」


 ブラド以外のその場にいる全員が驚いた顔をする。

 カインに至っては理解出来ていないような顔をしていた。

 

「ちょ、ちょっとブラドさん! カインを連れて行くなんて正気ですか?」


 ガヌートが信じられないという様子でブラドに詰め寄るが、ブラドはそれを気にする様子も無く言った。


「ああ、本気だ」

「なんでカインなんですか? それなら俺を連れて行って下さい!」


 ガヌートが大声を上げたところで、太っちょの老人バッチェがそれを止めた。


「落ち着けガヌート」

「これが落ち着いていられるか! なんで俺じゃ無くてカインなんだ、どう考えたって無謀だろうが!」

『落ち着けと言っとるじゃろ!』


 老人達の一喝。

 驚いてガヌートが静かになる。


「ガヌート、カイン君はガーラの孫じゃ」


 バッチェの言葉と同時にガヌートはカインの方を見た。


「カ、カイン本当か? お前が本当に?」

「はい。僕はガーラ・ビッグゲートの孫です」


 それを聞いてガヌートはよろよろと椅子に腰を下ろした。

 それを見てブラドが話し始める。


「なんだガヌート、お前カインと一緒に迷宮に行ったんじゃ無かったのか?」


 ブラドの問いにカインがおずおずと答えた。


「すいません。大通りに着いた時点で僕が進めなくなってしまって……。それでガヌートさんが徐々に慣らしていこうと提案してくれた後に酒場から魔力を感じて……」

「つまりガヌートはお前の力を見てないと」


 ブラドはそう言うとため息をついてガヌートに話しかけた。


「ガヌート、お前もガーラのことは聞いたことがあるだろ?」

「……はい」

「普通に迷宮に潜るなら俺だってお前と行く方が良いと思う。だが今回は相手が悪い、だから俺はガーラの孫であるカインの火事場の馬鹿力って奴に期待したいんだ。お前もガーラの戦い方は知ってるだろ?」

「で、でも!」


 ブラドの言葉にガヌートが反応した。


「でもブラドさん、幾ら英雄の孫だからってカインがそこまで強いか分からないじゃ無いですか!」


 ガヌートの問いにブラドが答える。


「大丈夫だ。ガーラを長年見ていた俺を信じろ。カインは今はこんな有様だが間違いなくガーラの力を継いでいる。昔から、ビッグゲートの戦いに経験や技はいらない、身体と心さえあれば事足りるって言うしな。それにだ」


 ブラドが一呼吸置いてガヌートに語りかける。


「もし俺がライラを助けに行って死んだ場合ネイを誰が守る。あいつが懐いているのは俺とライラ、それとあいつを長い事世話してたお前かジジイ共だけだろ。その場合ジジイ共はこの都市のことで精一杯だ。そうなるとネイを守れるのはお前しかいない」


 ブラドがガヌートの目を見る。

 諦めたかのようにため息をついたのはガヌートだった。


「分かりましたよ、確かにブラドさんの言うとおりです。言われたとおりにネイを守りますよ。でも、でも絶対戻ってきて下さいよ!」


 ガヌートはそう言って次ぎにカインを見た。


「カイン頼むぞ! 絶対ブラドさんとライラを死なせるなよ。もしそんなことがあったら俺はお前が死んでも恨み続けるぞ!」


 ガヌートの鬼気迫る願いと共に十の瞳がカインを見た。







 

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