5.お願い
幸は少女と共に森の中を走っていた。
しかしアニエスは長いドレスを着ているためそんなに早く走ることも出来ず少女の走るペースに合わせることにした。
(この世界にきて早々に人助けなんて…誰が思うだろうか)
♦♢♦
「お願い?」
「はい」
幸は不思議でしかなかった。何処の馬の骨とも知らない奴に頼み事なんて…。
あれこれ考えても仕方がないと判断し、とりあえずアニエスの言葉を待つことにした。
しかし余程言いにくいことなのかアニエスは黙ってしまった。
「私に出来る事があれば何でも言ってくれ」
幸はアニエスが話しやすいように少ししゃがみ込み出来る限り優しい声で問いかけた。
するとアニエスは小さいしゃくりを上げ泣き出してしまった。
そんなに怖い顔をしていたのだろうか!?などと見当はずれのこと考えながら幸はパニック状態になっていた。
そんな中アニエスが何か呟くようにしゃべった。凄く小さな声だったが辛うじて聴きとれただけだが自分の兄を助けてくれと言った気がした。
「え…」
「ぉ、ねが、ぃ、おに、い、さま、を、た、すけ、て…」
今度はしっかりと聞き取れた。
それにしても兄を助けてくれとはどういうことだろう。もしや先程の男たちに仲間がいて捕まっているのだろうか。
「ぉ、にい、さま、わ、たし、にがす、ため、に……うぅ」
「…君のお兄さんはどっちにいるの?」
するとアニエスは自分が先程走って来た方向を震える手で指した。
あっちか。
幸は走りだそうとしたがふとあることに気が付いた。
(こんな所にこの子一人置いていくのは不味いか)
踏み出した足を止めアニエスの方に体を向けた。
「すまないが君一人をここに置いていけない。道案内を兼ねて一緒に来てくれ」
先程からずっと泣き続けているものだから聞いてないかと思ったがアニエスは泣きながらも首を縦に振ってくれた。
幸はホッと胸を撫で下ろすとアニエスの手を取った。
「お兄さんの元へ急ごう」