4.アニエス
「センゴクユキ?」
少女は頑張って私の名前を呼ぼうとしていたがどこで区切っていいのか解らないようだ。
「幸が名前で仙石が苗字なんだが」
「えっと、センゴク様?」
「ユキでいいし様もつけなくていい」
少女は少し困った顔で幸の顔を見た。
「その…命の恩人をそのように呼ぶのは……」
「様付けは慣れていないんだ。せめてさん付けにして貰えないか?」
少女はさらに困った顔をしたがこれだけは譲れない。私はそんな様付けで呼ばれるような人物ではないしな。
譲る気はないぞという意味を込めて少女を見つめた。
私が譲らないと分かったのか少女は諦めたように項垂れた。
「うぅ…分かりました。ではさん付けで呼ばせて頂きます」
「助かる」
しかし少女は納得がいかないのかしばらくの間項垂れていたので頭を撫でてやった。
(なんかゴールデンレトリバーを触ってるみたいだな)
しばらく撫でていると気を取り直すかのように姿勢を正したので幸は撫でるのを止めた。
幸は自分を真っ直ぐ見つめる少女からただ事ではない雰囲気を感じたからだ。
先程の事があってか何となくだが
「ユキさん。突然ですがお願いがあるのです」
少女は服の裾を摘み少し持ち上げながらお辞儀をした。
「私の名前はアニエス・ミラネージと言います。先程は山賊に襲われているところを助けて頂きありがとうございました。ユキ様のその強さを見込んでお願いしたいことがあるのです」