その7
「これね、ドライシャンプー。頭洗えないときに使うといいよ。こっちは体を拭くやつね。それと、テレホンカードに、小銭も持ってきといた」
姉はトートバッグの中から取り出したものをテキパキとキャビネットに納めていく。
「あれ、百円玉なんて、いっぱいあったのに」
そう言って眉をよせながらも、母はどこか嬉しそうだ。
「あ、これ、浴衣の寝巻。ガーゼのが売ってたから、こっちのほうがいいでしょ」
「あれまあ、よく見つけたな。この辺にはなくってなぁ」
「それとね、美咲と大悟から、じいちゃんにプレゼントがあるんだよね?」
そう促されてまず大悟が、丸めて青いリボンをつけた画用紙をおずおずと父に差し出した。
「あれ、これは、なにかな?」
父の問いかけに、大悟はクレヨンで描いた丸を指差しながら、
「じーじのおめめ!」
と笑顔で叫んだ。
「そっか、大ちゃんはじーじの顔描いてくれたのか」
父は今まで見たことのないとろけそうな笑みを浮かべている。
「美咲も、あるんだよね?」
姉がうながすように笑顔を向ける。
が、美咲は口を固く結んだまま動こうとしない。
「ほら、鶴じゃなくだってじーじは喜んでくれるよ?」
姉のことばに、美咲はますます体をこわばらせる。
「いいじゃない、風船だってがんばって作ったんだから、ちゃんと渡そうよ」
かすかにいら立ちをにじませながら、姉は美咲が肩からかけていたポシェットに手を伸ばそうとした。
ところが、
「いや!」
美咲はからだを折って、ポシェットをお腹に抱えて座り込んでしまう。
「まったく……」
姉が大きくため息をつく。
「いや、ゆうべね、じーじは病気だから鶴を折ってあげるんだって言いだしたのよ。で、教えてみたんだけど、やっぱりうまくできなくてね。まあ、まだ四歳なんだし、折れないのが当たり前なんだけど、なんだかへそ曲げちゃって……」
その時のくやしさを思い出したのか、美咲は顔を真っ赤にして姉をにらんでいる。
「なーんだ、美咲、鶴が折れなかったのか」
母がからかうように笑いながら、美咲の頬をツンツンとつついた。と、その瞬間、美咲が堰を切ったように泣き出した。
「こら、美咲。泣くようなことじゃないでしょ!」
姉はあわてて病室を見回し、
「すみません」
と同室の患者たちに謝りながら、美咲を廊下に連れ出した。
「あらら、お姉ちゃん泣いちゃった。困りましたねぇ」
そう言って母は笑いながら、きょとんとしている大悟を抱っこした。
「まったく、美咲ちゃんは、むずかしい子でしゅねぇ」
大悟を見つめ何気なく口にした母のことばに、わたしの胸はズキンと痛んだ。