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5.教室で

不定期投稿中です。





 王立学園は神学、騎士学、教養学、魔学の4学部に大きく分類されている。

 一学生は教養が中心となり歴史、語学、倫理、算術、芸術、マナーなどを学んで二学生から専攻中心になるらしいのだけど。

 わたし算術と語学は得意よ。それ以外はちょっと…

 芸術、マナーは特に無理だぁ。そんな教科に当たりませんように!


 なんて念じながらダニエル先生に連れられて教室へ移動。この先生、わたしのことなんかいませんよってな感じでだかだか歩いていってしまう。さっきのメラーク様とは大違いだ。


 可愛い生徒に対する思いやりはないのかっ!


 クマのようなでっかい背中に向かって心の中で叫んでいたけど、わたし体験入学だもんねぇ。思いやり半分かもねぇ。


「お、ここだ」


ダニエル先生が足を止めた。

扉には黄色でゴールドと書かれたプレートがある。


「君が通う教室だ。ゴールドってのがクラス名。この学園は色の名前でクラス別けしているんだよ」


曰く、ゴールド、シルバー、ホワイト、ブラック、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、というクラス名があるとのこと。


「ピンクはないんですか」

「俺がピンククラスの担任だったらどうする?」

「変なこと聞いてすみませんでした」


速攻で謝罪!

必要なら土下座も……


「土下座は要らん」


苦り切った顔で拒否られましたっ!






「ロザリンド・アナフガルです。1ヶ月ですがよろしくお願いします」


 言いながら深々と頭を下げる。

 顔を上げれば、背筋がピンと張った姿勢の良い方々ばかり。しかも口許には微笑、でも目は笑ってないというスゴ技を皆様お持ちのようで。

 似たお面をつけてるみたい……一言、怖っ!


 その中に、魔力測定室まで案内してくれたイケメン、メラーク様発見!

 おお、輝く金髪に緑色の瞳の美少女もいる。同性なのに目が惹かれちゃうよ。スゴいスゴい!

 それに……

 何故かその美少女を睨みつけてる美男イケメンさん。

 銀髪に紅い目……うわ。ありゃ王位継承者だ。水の国の王位継承条件は「銀髪と紅い目」。水の国の王位継承日が近づくと、この大陸では「銀髪と紅い目」の人物はただ一人しか存在しなくなるのだ。いやぁ、不思議だね。

 現時点で銀髪と紅い目の人物は現王と第一王子と第二王子だったはず。

 ということは王子様なんだ。なら、あの人には絶対近寄らないようにしよっと。あの目で睨まれたくないもの。

 それにしてもなんで王子様があの美少女を睨んでるんだろう?


「じゃあ君の席はあそこで」


 首を傾げているうちにダニエル先生に示されたのは後方、窓際にぽつんとある机。

 やった!良かった、一人の空間だ!


「あ、でも、小さくて前が見えない……」

「あそこでいいです」


 先生無視して歩き出す。

 歩きながら考える。

 貴族様たちとできるだけ関わらないようにしよう。公爵家のお嬢様と友達にって言われても、身分が邪魔して簡単になれる訳ないよね。団長様には悪いけどね。

 ってことでメラーク様と美少女と目付きの悪い王子様の三人を目の保養にしつつ、自分の席に移動した。





 最初の授業は地理。続いて言語学。それから算術。

 んで午前の授業は終了。

 授業を終えて先生とお師匠様の凄さが身に染みた。今日の授業、わたしが十二歳位の時に習った内容だったから。

 地理は薬草鉱物と各地の気候と歴史に交えて教わったし、本読むのに他国の語学は必須だったし、薬草の分量計算で算術も必須だったからね。特に算術は自信あるの。先生が珠が並んだ見かけない道具で計算方法を教えてくれたから、暗算が上達したのよ。

 さて。お腹も空いたし、魔力測定室行ってご飯食べよーっと。

 あれ?急に日が陰った……


「貴女、平民の薬術師なのでしょう。なのにロイデック伯爵家メラーク様に目を付けましたの?」


 平民、薬術師ってわたしのことよね。

 顔を上げてみれば、赤毛の美人があたしを見下ろしていた。貴族様って美男美女が多いなぁ。

 それよりも貴族様が庶民に絡んできた! 大丈夫って言ったくせに、団長様の嘘つきっ!


「メラーク様を連れて歩いていい気になってたのですってね」


 あ。単に迷子を案内してくれただけなのにそういう言い方されちゃうんだ。別にいい気にはなってなかったよ。イケメンイケメンと心の中で喜んでたくらいだよ。あれ? 他所から見たらいい気に見える? 見えちゃった?


「それは多分道に迷ったわたしを親切に案内してくださったときのことだと思うのですが、目を付けたというのは誤解です」


 メラーク様って名前知らないです誰ですかとさりげにアピり、あのときは不安だったんですぅと涙なんて浮かべてみる。わたし、一瞬で泣けるのよ。お師匠様のお怒りの顔を思い浮かべるだけで、心から震えて泣けるのよ。


「……本当に?」

「本当です」


 胡散臭そうにわたしをみているけれど、それ以上の突っ込みはなさそう。行動も遅そう。

 よし。逃げるぞ。

 わたしは自慢の脚をフルに使って魔力測定室へ向かった。





「ってことがあったんですよ。団長様って嘘つきです!」

「やー、それはあいつのせいじゃねぇわ」


 なんだと。ダニエル先生は団長様の味方する気か?

 あげようと思ったパン、わたしが食っちゃうぞ。


「赤毛美人ってことはリリア嬢だろ。彼女はミドルクラスの時からメラークの婚約者気取りだからな」


 あの人リリアって名前の人なのね。要チェーック!


「婚約者“気取り”ってことは、婚約はしてないんですか?」

「メラークには幼い頃から想い人がいるからな。そう公言してるんだが、リリア嬢はファルツィー子爵家にしちゃ思い込みの激しい子なんだ」

「ファルツィー?」


 最近どっかで聞いたな。どこだったかな。

 えーと、うーんと……あ。

 アルが夜這いかけて失敗した相手か!

 アルってああいう美人がお好みなのね。でもリリア様はメラーク様に夢中だから夜這いしても無駄だって今度アルに教えとこ。


「ファルツィー家は貿易交流に長けていて、特に人を見る目と交渉術に関しちゃ一流でな。あそこの上のお嬢様二人は父親の素質を受け継いでいるが、末っ子のリリア嬢は甘やかされてきたせいかそっち方面は得意じゃない。貴族社会向きのお嬢様だな。っちゅーわけで、アンドレイが悪い訳じゃないんで……」


 ダニエル先生の団長様へのフォローの言葉がノックの音で遮られた。


「失礼します」


 入室してきたのは黒髪に浅黒い肌、ってことは砂漠の国の出身者だ。で、魔道科専用の黒衣のマントを着けた男子学生。

 珍しい。神官と剣術が主な砂漠の国で、魔道を目指している人なんて。


「おう、ローレンか。どうした?」

「レポートです。新たな魔法陣の文字式を作ったので」

「ああ、預かっておく」


 ローレン、と呼ばれた男子学生がわたしを見ながら用紙をダニエル先生に渡した。そしてローレンさんが訝しげにダニエル先生を見る。


「お、こいつはちっこいがこう見えて十六歳だ。優秀な薬術師だぞ。決して俺が幼少趣味で連れ込んだ訳じゃねぇぞ」


 誤解すんなよとダニエル先生が苦笑し、あたしにローレンさんを紹介してくれる。


「ロザリー、こっちはハイクラス二学生の魔道科首席のローレンだ」

「ええ?」


 魔道科首席? 学園に滅多に来ない首席さん? でも背、高いよ?どうみてもおちびじゃないよ?

 砂漠の国はもしやこの背丈がチビなのか? どんだけ巨人な国なんだ!


「ロザリー。ローレンは“二学生”の首席だ」

「……あ、そうですか」


 わたしの考えを見透かしたようにダニエル先生が訂正を入れた。

 ビックリした。そうだよね。砂漠の国の人は巨人じゃないよね。


「それでは失礼します」


 ローレンという黒衣の学生は部屋を出ていった。


「かなり優秀な魔道師候補だぞ。学園内ではサプスフォード公爵家アイリス様の護衛も兼ねている」

「サプスフォード?」


 って団長様から友達になれ、って言われたアイリス・サプスフォード公爵令嬢のこと?


「お前のクラスにいただろ? アイリス様が。金髪で緑の瞳のクラス一の美少女だ」


 あ、あの綺麗な人? あの人がアイリス様?

 どう考えてもあの人と友達なんて無理でしょう、団長様っ! 視覚的な問題が発生しますよっ!

 それより髭面親父が美少女と言うのは、犯罪に見えます。危険人物に見えて……


「お前がなに考えてるのか何となくわかるが、俺は至ってノーマルだぞ」

「はぁ」


 胡散臭すぎて納得しきれないけど、まいいか。


「これ、どうぞ」


 ダニエル先生がとてもおいしいお茶を煎れてくれたので、お返しにサンドイッチを渡す。めっちゃ美味しいですよ。だって先生の手作りだもの!


「へぇ。お前が作ったのか?」

「まさか。作れませんよ。わたし包丁は扱えません」


 包丁は苦手だから切るならザックザクか、いっそ包丁使わず手でばっさりぼっきり。大抵は野菜も果物も手で。しかも『食べれるか食べれないか』の味付けだからアルには笑われお師匠様には怒られて、結局わたしの料理の役目は焼く、煮る、蒸すの調理だけ。でもね、薬草の煮出しとか得意だから、そっちには自信があるの。

 人間、得手不得手ってあるのよ!


「午後の授業は何ですか」

「ああ、そうだった。これな」


 ダニエル先生がパンを口に挟んだままわたしに紙を渡してきた。ざっと見てみれば、日付と教科が書かれている。


「この先一ヶ月の日程表だ。今日の午後は……ああ、ダンスとマナーだなってどうした?」


 頭を抱えてしゃがみこんだわたしを不可思議そうに見るダニエル先生。


「ダンス……よりによってダンス……」


 忘れもしない、ダンス! 

 団長様に焚き付けられて一度踊ったことがあるけれど、振り回されて終わったよっ?

 先生が同情の目でわたしを見ていたよっ! アルは大笑いして、お師匠様は鼻で笑ってたよ。

 あの無様な踊りを見せなきゃいけないの?


「あ、でも」


 一ヶ月後にはお別れする人たちばかりで、無様な踊りを見せても口うるさい知り合いは誰も見てないから、いっか!

 気を取り直して元気に食事を再開したわたしに、ダニエル先生が呟いた。


「おまえ、いろいろと面白いな」


 放っといてください!








お読みいただき、ありがとうございました。

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