10.お茶会に行こう!
お読みいただいている方、本当にありがとうございます。
フィーちゃん楽しかったねっ アイリス様と遊べてよかったね! マナーの授業頑張ったよねっ!
なんてキャッキャとガックリを繰り返して寮という名のダニエル先生家にフィーちゃんと一緒に帰った。
扉を開ければ今日のお出迎えはドラコちゃん。
「ただいま、ドラコちゃん」
フィーちゃんはわたしの頭からドラコちゃんの所に飛んでいき、その場で二人、いやいや二匹で何やら楽しげに話を始めた。しばらくすると揃って同意を求める瞳をわたしに向けて……アイリス様の話をしてたのかな。
「アイリス様のこと?」
こく、とドラコちゃんの首が動く。
「良い人だねって話?」
今度はフィーちゃんの首が、こくと動いた。
「そうよね。綺麗で上品ででも気さくで。遊んでもらえてよかったね、フィーちゃん」
わたしが言えば、ドラコちゃんが少し寂しそうな仕草を見せた。ドラコちゃんは姿を見せるわけにいかないからね。フィーちゃんみたいに形態変えることもできないしアイリス様とは遊べないんだよね。
「ドラコちゃんは、今日は美味しいご馳走ずっと食べてたんでしょ? おあいこにしておこ?」
闇だか光だかの高位魔法を食べていたおかげか、白さに磨きがかかったみたいでいつもよりお肌が艶々で綺麗よ、ドラコちゃん!
それでもなんだか不満そう。
「あ、フィーちゃんお茶会の話をドラコちゃんにしたんでしょ」
てへ、と首を傾げるフィーちゃん。
アイリス様お誘いのお茶会。フィーちゃんと一緒に行くつもりだったけどドラコちゃんも行きたいのかぁ。
「うーん。でも大丈夫? 有能な魔道師候補さんもいるみたいだけど」
ドラコちゃんに聞けば大丈夫大丈夫と瞳をキラキラさせている。
ドラコちゃんもアイリス様大好きだもんね。不公平は可哀想だよね。
「よぉし、わかった。じゃあ、ばれないようにみんなで協力して……」
「サプスフォード家に行くってか? やめとけやめとけ」
わたしたち三人で協力し合おうと結論付けようとしたら、いつの間に帰ってきていたのか呆れ顔のダニエル先生が背後に立っていて異議申し立てされた。
えー、なんでダメ?
「そんな不服そうな顔すんな。サプスフォード家にはローレンだけじゃなく、有能な魔道師も数名仕えてる。王宮魔道師レベルの奴らだぞ。インコもどきはともかく、小竜が大人しくしていられるわけねぇだろうが」
魔力察知して解除したくなって暴れるに決まっている、というのがダニエル先生の見解。
でもね。
「大丈夫です!ドラコちゃんは自分の欲望に忠実なので、そんな魔力よりもアイリス様を優先させますからっ」
ググッと手を握って力説するわたし。頭ではフィーちゃんが、足元ではドラコちゃんがそうだそうだと激しく頷いて私を応援してくれている。
うん、わたし頑張るよっ!
「ほら、見てください! ドラコちゃんも大丈夫だと言ってますっ! ほらっ!」
「いやお前、欲望に忠実だからこそやべぇんだろうが」
「いーえ! ドラコちゃんはですね―――」
その後もダニエル先生との口論が続いたけれど、ドラコちゃんの尻尾フリフリを見たら妥協してくれた。
「―――わかった。ただし、充分気を付けろ。絶対に気は抜くな」
溜息混じりだけど、ふっかい溜息まじりだったけど、気遣いのお言葉までいただいちゃった。
ありがとうございまーす。
「ドラコちゃん、よかった……」
ね、という言葉とバンッ、という大きな音が重なった。これは玄関のドアが開いた音、だよね。
玄関を見れば、ドア傍にハァハァ言いながら目が据わったアルの姿が。
「……ロザリー。何がたかが五百枚の紙と三十冊の本だってぇ?」
「お帰りなさい。今日は遅かったんですね」
あれ? こめかみに青筋があるねぇ、アル。何怒ってんの?
アルは呼吸を整えながら、担いでいた荷物をどさりと床に置いた。そしてその荷物を指差してぎゃんぎゃん怒鳴り始めた。
「おまえ、こんなの聞いてなかったぞ! レポートと参考の本だって話だったろっ! なんなんだよこの荷物! この量、この重さっ!」
だからなんで怒ってんの。
「え、わたし言いましたよね。五百枚くらいの紙と三十冊の……」
「紙は良いぞ、紙は。確かに五百枚くらいだからな。けど、本がこんなに分厚いなんて聞いてねぇ!」
「でも言った通り三十冊ですっ!」
嘘ついてないもの。厚さが一冊二十センチはあるけど、三十冊だもの!
「くっそ重てぇもん持たせやがって。ここまで重いと思わねぇから診療所まで歩きで取りに行っちまったよ」
「なあ。これ全然読めねぇぞ」
喚くアルの足元に座り込んで、ダニエル先生がアルが運んできた本をペラペラとめくっていた。
いつの間にそこに行ったんですか、ダニエル先生。
「それが読めないのはダニエル先生の勉強不足でぇーすっ」
ちなみに今ダニエル先生が手にしているのは、薬草の辞典ですよ。
わたしはそれらの本を読むために、お師匠様と先生による語学の勉強を毎日受けていたのだ。あの二人の厳しい授業に何年も耐えた。マナーの授業と同じくらいすっごい頑張ったんだから。
ビシリ、とダニエル先生を指差し。
「それを読みたかったら、ダニエル先生も勉強を……」
「お、懐かしいな。その腕のアクセサリー」
手の動きで腕にあるブレスレットのジャラ、という音で気付いたのか、わたしの腕を懐かしそうに見ていた。
「これ? 今日ダニエル先生に貰ったんです」
「ふぅん。昔、そういうヤツお前よく着けてただろ」
「え?」
そうだっけ?
「出かける時は絶対着けろって言われてたのに邪魔だとか言って置いて行って、サキ先生にお仕置き受けただろうが」
「……あー、そんなことも」
あったあった、そうだった。お仕置きで思い出したわ。あの頃はクリスタルの珠だったけど、野山へ行くのにブレスレット着けていけとお師匠様に怒られてたっけ。でも手首に何かがあるのが邪魔に思えて外してたんだよね。
あれ? じゃああれも『身代わりの珠』だったの?
いやいやまさか。魔法具はとても値段が高い物だから、先生たちに買えるわけがない。今身に付けているコレだって団長様の計らいがあるからだし。
「あ、アル。その本全部わたしの部屋まで運んで下さいね」
「はぁあっ? 何で俺がっ」
「運んでくれないのなら、明日フィーちゃんがジェイキンスのところへ遊びに……」
「運ぶっ! 運ぶからっ」
それだけはダメだ、と強い口調で両肩を掴まれて言われた。どんだけ面倒なの? いじけたヘルマン様って……
今日も豪華で美味しそうな食事を食べながら談話するダニエル先生とアルとわたし。フィーちゃんはわたしの食事をつまみ、ドラコちゃんは満腹だからお肉イラナイ~とわたしの足元で寝転んでいる。
そして定例、安全確認してからの報告会。
「あ? お茶会?」
「今度サプスフォート家で行われるんですって。アイリス様とヴィーセル様だけのお茶会と言ってました。それからサプスフォード公爵が、わたしに寄付の話をしたいって」
「寄付、ねぇ」
ふむ、とアルが珍しく真面目な顔で数秒思案する。
「オマエ、それ受けんの?」
「そういうお話はお師匠様に聞かないと決定はできませんけど、聞くくらいはと思ってます」
「ま、団長はロザリーの好きにさせろって言ってたから、好きにすればいいんじゃね」
「お前軽いな。少しはロザリーの心配をしろって」
わたしたちがサプスフォード公爵家に行くことを止めたいダニエル先生。さっき『わかった』って言ったくせにぃ。
顔を顰めたダニエル先生に、アルは無駄に色気ある笑みを浮かべ。
「してますよ。ロザリーがサプスフォード公爵の館を破壊するんじゃねぇかって」
んま、失礼な!
「でもまあロザリーはアイリス・サプスフォードを気に入っていて、彼女の為に何かしたいって思ってんだろ? してこいしてこい」
「しかしなぁ」
「ダニエルさん。ロザリーなら大丈夫です。護られてるから」
ひひひ、と笑うアル。
護られてる? まあ、確かに。ドラコちゃんとフィーちゃんという強い友達に護られてるよね。
「ああ、でもサプスフォード家に行くならロザリーにお願いがある」
「え?」
「館で『変だな』って思ったことがあったら些細なことでも教えてほしい」
「変だな、って思ったらでいいんですよね」
わたしの質問にアルはそうだ、と答えた。
「お前の野性の勘は当たるからな」
んまっ失礼なっ! 野性は余計よっ!
「……わかりました。教えます。そうそうフィーちゃんドラコちゃん。今夜はアイリス様について語ろうの会を開くから、後で部屋に集合ねっ! 徹夜になるかもね!」
「バカ言ってんじゃねぇ。子供は早く寝ろよっ!」
ぎょっとした顔でアルが却下してきたけれど、誰が言うことを聞くものか。
大好きなアイリス様の話だ。そう簡単にわたしたちが寝るわけないでしょ。そしてアルは寝かさない。絶対にだ。なんせこっちには日中寝溜めしたドラコちゃんがいますからね!
ふははっ とりあえずマナー授業二枠の倍返し!
お読みいただき、ありがとうございました。




