或る戦闘機乗りの話 1
ーー北歴1928年 7月16日 眠陽海洋上ーー
太陽が容赦なく照りつける中、大海原を航海する軍艦群。
空母4隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦12隻で編成されたその艦隊は、空母を守るように車輪の形を維持しながら航海している。
それぞれの艦のマストには、白い背景の下半分を埋める、日の出を表した朱色の半円と、そこから延びた日の光を表す四本の朱色の斜線が描かれた旗が、風を受けて雄々しく翻っている。
この艦隊は、この世界を二つに分ける大陸の一つ、モノランドの東の土地を有する「ヒタチ帝国」からある作戦を遂行するために派遣されたものだった。
30分前、塊土型重巡洋艦三番艦「皇土」、四番艦「赤土」から発艦した水上偵察機「昇」が敵機動艦隊を発見した。
そのため、四隻の空母の甲板上では、戦闘機が出撃体制を整えており、ぞくぞくと自分の愛機へと搭乗員達が乗り込んでいく。
その中の一隻。
孤峰型正規空母一番艦 「孤峰」の甲板上も同様に、いくつもの戦闘機が肩を並べ、出撃の時を今か今かと待っていた。
そして、 孤峰の艦橋前では、仕事の終わった整備班達が、自分の手掛けた機を期待と不安の表情で見守っている。
その整備班にまじり、戦闘機を見つめている一人の男がいた。
パイロット用の防寒服に飛行帽を身に纏った彼は名を、ハヤト・キサラギといった。
彼は本来この場ではなく、離艦直前の機の中で待機しているはずだった。
彼もそれを強く望んでいたが、上官から言い渡されたのは空母の直掩隊への配属。
帰る場所を守るのも立派な任務だが、やはり直接任務に関わるのとは訳が違う。
彼は発動機が回り始めた戦闘機隊を苦虫を潰すような表情で見ていた。
「キサラギ少尉、そんな顔しないで、もうちょっと笑顔で送りだしたらどうですか?」
「ん…? ああ、 ヒダカ上等か」
少し機嫌の悪いハヤトへと横から声をかけたのはサキ・ヒダカ上等整備兵だった。
この上等兵は言うまでもなく女性だ。
なぜ女性が乗艦しているかというと、ヒタチ帝国の教訓に理由はある。
ヒタチ帝国は、「男女一塊」をスローガンにし、女性の兵士も採用しているこの世界でも数少ない国家だ。
これは、ヒタチ帝国が歩んだ歴史にも理由があるのだが、それはまたの機会に説明しよう。
女性兵士の採用方法だが、男性のように徴兵制ではなく、女性はあくまで志願制だ。
そして、職場まで自分で選べるという。
だいたいは、衛生兵や事務を志願するものが多いが、サキのように整備兵や前線兵を志願するものも少なからずいる。
「立派じゃないですか直掩隊。だって私達整備班や、烹炊班、衛生班や上官の命をその命をかけて守るんですよ? 半端な人ではやれませんよ」
「しかしな……、やはり任務に直接関わる方がな……」
「フフ…、少尉の心はまだまだ子供ですね」
ただの上官と部下の関係ならこんな会話はないのだが、ハヤトの機体の専属整備員がサキであるし、年齢も近い為、二人はただの上官と部下との関係ではなかった。
「なんだと? 言うようになったなヒダカ上等兵…?」
「ハッ! 申し訳ないであります! それより少尉、発艦ですよ」
その言葉の通り、甲板上に並んだ艦上攻撃機「海燕」の先頭が発艦しようとしている 。
上空には、すでに他の空母から発艦した海燕の攻撃隊護衛任務に就く艦上戦闘機「陽昇」が綺麗に編隊を組んでいる。
こうして、芸術美さえも感じてくる編隊が組めるのも、日頃の厳しい訓練の賜物である。
先頭の海燕が発艦しだすと、サキとハヤトを含めた艦橋前の人々は帽子をとり、海燕達が行く方向の空へその帽子を何度も振った。
ヒタチ帝国海軍伝統の送り出し方である。
数分間後、全ての航空機が発艦し、飛行甲板には静けさが戻った。
「さて、次はあなたの番ですよ。キサラギ少尉?」
「そうだな……」
「それでは、私は陽昇の最終チェックがあるので、これで失礼します」
それだけ言うと、サキは少し笑みを作りながらハヤトに向かって敬礼をし、足早に去っていた。
辺りをにも、さっきまで帽を振っていた整備班達も、艦内に残る第二派の艦爆を出すため、次の作業へと移っている。
「俺を置いていくからには、絶対成功させろよ……」
海燕が飛びたった大空に向かってそう呟き、船内へと戻った。
□□
第一波の海燕、第二波の艦上爆撃機「千風」が飛び立ってから十分後経った頃、三機のカーキ色の機体が孤峰の甲板上にあがった。
その翼には日の出を意味する朱色の半円が描かれ、機首にはプロペラ軸の通った20mm機銃が太陽の光を浴び、鈍く黒光りしている。
これこそ、日立の国の最高傑作であり、主力の艦上戦闘機「陽昇」である。
プロペラ軸及び、機首の左右に備えられた計三挺の20mm機銃に加え、エンジンがその後ろに設置されているため、操縦席はやや後ろの設置されている。
しかし、翼内及び、内部のオイルタンクが大きめずば抜けた航続距離を要する。
最高速度も534.8kmと申し分ないため文字通り最高傑作の戦闘機となっていた。
ハヤトは三機の中で一番先頭の陽昇に乗っていた。
現在、その翼にはサキが乗っている。
「キサラギ少尉、御武運を」
機械油で頬を汚したサキが敬礼をする。
「御武運……か。敵が来なくちゃなぁ」
「愚痴こぼさないでくださいよ。この時の為に私達が汗水垂らして整備したんですから」
「分かったよ。サキの流した汗の為にも、この機体で絶対にお前達を守る」
その言葉を聞くと、サキは満足そうに笑った。
「それでは、発動機を回します」
サキがそう言い、翼から降りた。
その数分後、ハヤトの全身に振動が伝わり、低い唸り声のようなエンジン音が響きだす。
ハヤトは、その音を聞くと同時に各種チェックを手早く済ませ、真ん中にある操縦桿を握る。
「さて……行くか」
前方の離艦管制班の白旗が降り下ろされた。
離艦の合図である。
艦橋及び、機銃部に降りている整備班が帽を振っている。
ハヤトはその人達に対し敬礼を返した後に、風防を閉め離艦を始めた。
機体は徐々に速度を上げ、甲板が見えなくなった時、体が軽くなった。
離艦成功。
離艦にもそれなりの技術が必要だが、ハヤトにとっては息をするようなものだった。
そして、すぐにあがってきた後続の二機とともに即座に編隊を組む。
ハヤトは今回孤峰直掩隊の隊長を任されている。
“「ハヤト小隊長~。なかなかサキ上等と見せつけてくれますね~」”
“「スズタカ? それはどういう意味で言っているんだ?」”
上がってくるなり無線で絡んできたのは三番機ヒロ・スズタカ軍曹である。
“「はぐらかさなくてもいいですよ隊長。隊員内ではもう二人のために祝儀袋用意しているんですから」”
ヒタチ帝国は一般に訓練は厳しいが、上下関係は厳しすぎるほどでもなく、ちょっとしたジョークが時たま会話に入ることもある。
なので、ヒロのような兵士も時にはいる。
ヒロは腕はいいのだが、その点が気にくわない上官が少なからずいるので昇格は遅い。
まあ、その性格がムードメーカーとしての彼の地位を確立させておるのだが……
“「スズタカ。今は多目に見といてやるが、戻ったら覚悟しとけよ…?」”
ヒロが帰艦した後ハヤトから 蹴りが入れられることが確定した。
“「ヒロ。そのへんにしとかないと、またキサラギ少尉に蹴られるぞ」”
“「……もう遅えよ。シュウ」”
ヒロへ喝が決まったその時に、会話に入ってきたのが、二番機シュウ・タマキ軍曹。
ハヤトやヒロよりかは操縦技術は劣るが、何より場の空気が読める男だ。
しかし、いつもタイミングがワンテンポずれている。
“「いいか、俺らの直掩任務は母艦を守ることということを忘れるな。撃墜数を稼いでも帰る場所を失うようなら撃墜されたも同然だ。本来の目的を忘れるなよ!」”
“「「ハッ!」」”
ハヤトはその言葉で無線を締めくくった。
ハヤト達の編隊の後方には三機の陽昇が同じように編隊を組んでいる。
孤峰型正規空母三番艦「高峰」から出た直掩機だ。
航行している四隻の空母の内、二隻から三機づつ、計六機が交代で直掩に就く。
ハヤト達はそのローテーションの一回目。
機内の燃料が少なくなるまでの護衛である。
予定では次のハヤト達が上がった直後に任務を遂行している部隊が帰ってくる。
純白の雲が太陽とじゃれあう中、ハヤト達の長い哨戒が始まった。
□□
「結局来なかったか……」
ハヤトは陽昇の中で残念そうに呟く。
現在、ハヤト達を含む六機は、補給の為一回帰艦した後に、再度空母直掩任務に就いていた。
“「いいじゃないっすか、隊長。戦争は始まったばかりっすよ? 今から活躍の場なんてごまんとありますよ」”
“「だがなぁ、スズタカ。この作戦は日立の歴史に残る大作戦だぞ?」”
“「隊長。確かに私たちは攻撃任務には関われませんでしたが、現に作戦には参加し、こうして一任務を遂行しています。それでも充分誇れるのではないでしょうか?」”
“「……そうだな、タマキ。俺たちは誉れ高いこの作戦の一員として参加している。」”
そこまで言うと、ハヤトは口を閉ざした。
ハヤトが目を細める先の空にはいくつかの機影が見える。
カーキ色の機体と薄水色の翼を持った明灰色の機体。
ヒタチの国の任務遂行してきた部隊だ。
「成功……か。」
ハヤトが呟いた通り成功だが、中には軌道のおかしい機体など、首の皮一つ繋がったような機体が数機もあり、未帰還機もハヤトが予想したより多い。
激戦だった証だ。
しかし、任務成功という報は入っていたので、さすがと言ったところだろう。
空母の後方には着艦失敗機に備え、駆逐艦が控えている。
そして、それぞれの空母の甲板には着艦の為の、整備員が出ている。
ハヤトがいる位置では視認することはできないが、孤峰の甲板上にはサキも出ていることだろう。
そして数十分後、任務を終えた機が着艦する。
その中には着艦失敗する機も少なからずいた。
普段なら、日頃の鬼のような訓練のお陰で、着艦失敗は着任したてのひよっこでない限りは無かった。
だがここにいるのは日々の訓練で、鍛え上げられた一流達。
そんな搭乗員さえ失敗しているのだから、今回の攻撃がどんなに厳しいものだったかが伝わってくる。
しかし、作戦は成功に終わった。
このまま着艦を終え、多大なる戦果と共に本国に帰還し祝福を浴びる。
誰もがそう思い、一息ついたときだった。
““「哨戒していた昇二番機より入電! 7時の方向、九百km先に敵機編隊発見の報! 敵機高度約三千。直掩及び攻撃機三十機は下らないとのこと。現在上がっている空母直掩機はこれを迎撃にあたれ!」””
バッドタイミングとはこのことだった。
それぞれの直掩機の陽昇の中に緊張が走る。
ハヤトもその中の一人だ。
待ちに待った迎撃任務。
敵機と戦える。
ハヤトにとっては待ちに待ったとはこのことで、満面の笑みを浮かべててもおかしくない状況だが、今のハヤトは険しい表情を浮かべていた。
それもそのはず、現在こちらの艦戦の数はハヤト達、孤峰隊と高峰隊の三機、合計六機しか上がってない。
孤峰型正規空母二番艦「鋭峰」、四番艦「巨峰」より、緊急発進するとしても、時間がかかる上に、六機しかいない。
第一にその部隊も、帰還した機の収容の関係で、敵機が来るまでに発艦できるかも怪しい状況だった。
結果、ハヤト達はこちらより多い数の敵を相手にする中、空母群を守ることになる。
“「いいか? こちらの数は敵艦戦を相手にした上攻撃機を迎撃するほど多くない。だから肝に命じろ。最重要目標は雷撃機及び爆撃機だ。なんとしてでも艦を守るぞ!」”
“「「了解!」」”
“「孤峰隊行くぞ!」”
ハヤトを筆頭にした三機が敵機の報があった7時の方角へと機首を向ける。
後続の高峰の部隊もハヤト達の後に続いた。
それを確認するとハヤトは無線機を取った。
“「こちら孤峰直掩隊隊長ハヤト・キサラギ少尉。高峰直掩隊応答願う」”
“「ーーこちら高峰直掩隊隊長、イチタ・ニキシ少尉だ、どうぞ」”
“「ニシキ少尉。これからの迎撃にあたり少し、私に考えがあるんですが、いいでしょうか?」”
“「聞こう。後、階級同じなんだからニシキでいいぞ」”
“「分かりました、ニシキさん。これより、我が部隊の方は報告にあった高度三千を維持し、正面から敵に切り込みます。なので、ニキシさんの部隊は今から上昇して高度五千あたりまで上がり、私たちが敵戦闘機を食い止めてる間に、敵攻撃隊に上空から奇襲をかけてほしいのですが、よろしいでしょうか?」”
“「蝶の孤鋭が立てた作戦に蛾の高巨が異議を言う気はないよ」”
イチタが言った蝶の孤鋭 蛾の高巨というのは、演習において孤峰 鋭峰に配属された塔乗員の方が、高峰 巨峰の塔乗員より技量が勝ることから、いつしか言われるようになった俗称である。
しかし世界水準で言えば、高峰 巨峰の塔乗員も十分に技量は高く、決して下手な訳ではない。
“「そんなご謙遜なさらずに。頼りにしてますよ。それでは、お願いします」”
“「了解した。そちらも武運を祈る。通信終わり」”
通信が終了すると、後続の高峰隊三機は上昇を始めた。
ハヤト達はそのまま直進する。
□□
飛び続けて一時間と十分が過ぎた頃だった。
目前に広がる青い空に紺色の小さい斑点が浮かんだ。
それは数を増し、どんどん大きくなっていく。
“「隊長見えました!」”
“「そうだな……」”
それは自然現象ではない。
ハヤト達にとっては敵である、ヒタチ帝国と戦争をしている、ヘウルムヴェル共和国の艦載機だ。
全身が紺色に染まり、所々に赤紫色のラインが描かれた機体郡。
胴下に魚雷を抱えているのが艦上雷撃機ホーン、抱えていないのが艦上戦闘機ジークだ。
それは三機一組の編隊を組み、こちらへと向かってきている。
“「ひい…ふう…み……隊長、どうも敵はジーク九機、ホーン九機の18機ですぜ?」”
“「報告より大分少ないですね……。誤認か、それとも……」”
“「どちらにしろ俺達はジークを高峰隊に行かせないようにするだけだ。突っ込むぞ!」”
“「「了解」」”
敵機が目の前に迫っている中、少ない敵機の事など考えている余地もない。
これからどうやって敵機を墜とし、そして生き残るか。
ハヤト以外の二人も同じ。
空の上ではただそれだけだった。
陽昇の速度を巡航速度から操縦席に伝わる震度が増し、ハヤトの全身に徐々にGがかかるにつれ、豆粒程の大きさだった敵機が拡大されていく。
そうすると、ハヤトの真正面より一機のジークが突っ込んできた。
しかしハヤトは避けようとはしない。
それどころか、ジークに向かってぐんぐん加速をかけている。
ジークとの距離が約2000m、ジークの風防越しに敵塔乗員の顔がはっきり見えた時だった。
ーーダダダダダーー
陽昇の機銃が火を吹く。
計三挺の20m機銃がジークの主翼、胴、風防へと風穴を開けていく。
数秒の掃射の後、ハヤトは操縦桿を手前へと引き、機首を上へと上げた。
すれ違った時には、ジークの風防は赤い斑点に染まり、胴体から黒煙を吹きながら、高度を落としていった。
ハヤトにより先頭を失った敵一編隊は散り散りになる。
それと同時に、他のジークの編隊はホーンの直掩を離れ、ハヤト達陽昇に追ってくる。
「ついてきたな……」
後ろから追ってくる敵を確認したハヤトは機体を左右に振る。
それを合図に後ろの二機の陽昇は散開した。
散開と同時に、ハヤトの機体が縦ロールを描く。
瞬く間に後ろを飛んでいたジークの上を取り、ジーク目掛けて奇襲をかける。
照準にジークが入る瞬間、機銃口から閃光が煌めく。
その光はジークへと吸い込まれると同時に、機首から風防へと幾つもの弾痕を空け、紺色の機体先端から紅く染めた。
火だるまとなった僚機を見て、敵を打つため、近くにいたジークがハヤト機目掛け、12.7mm機銃を撃つ。
しかし、70度近い角度で降下するハヤト機へは掠りもしない。
ハヤトが墜としたジーク以外にも二機黒煙を吐き墜落寸前のジークがいる。
それがヒロとシュウによってやられたと想像するのは容易いことであった。
まさに圧倒的としか表せなかった。
九対三、本来ならハヤト達よりも三倍の機体数があるヘウルムヴェルが勝って当然だ。
しかし、最新鋭機陽昇と蝶の孤鋭の搭乗員の前ではこの常識は通らなかった。
現にまだ一機の陽昇も墜ちていない。
ヘウルムヴェルの方も、搭乗員の練度が高かったら結果も少しは変わっていたかもしれないが、戦争にifはなかった。
残り五機。
ハヤトがその内の一機に狙いを定め、瞬時に後ろについた。
そして機銃が火を吹く。
機体から発火し、墜ちるジーク。
最後の輝きを放ち、弧を描く。
しかし、今回は輝きは一つではなかった。
ハヤト機の上方、太陽光が降り注ぐ中、もう一つの光源が輝いた。
ーーババババババッーー
機銃音。
それと共に穴が開けられていく陽昇。
そして、すれすれでハヤト機を上から下へと抜けていくジーク。
完全な奇襲であった。
確かに、ハヤト達は強かった。
しかし、どんなに優れた搭乗員でも戦場全ての状況を判断出来るわけではない。
乱戦中だったら尚更だ。
空では運の無いやつが墜ちていく。
一度、空へと上がった者なら誰もが感じる事だった。
ハヤトを襲ったジークはハヤト機が健在なのを確認すると、反転し、上昇を始めた。
もう一度機銃掃射をかけ確実に仕留める気だ。
ハヤト機はというと、死角から入っているためか回避行動どころか、水平飛行をしたままだ。
そして、ジークの射程内にハヤト機が入る直前だった。
ジークが爆散した。
その残骸の中を飛んでいったのは、間一髪のところで間に合ったのはシュウ機だった。
シュウ機はそのままハヤト機の隣へとつく。
戦闘中に二機も水平飛行するのは危険なのだが、もう空には三機の陽昇しか飛んでいなかった。
残り四機はシュウとヒロが墜としていたのだ。
“「隊長大丈夫ですか!」”
しかし、ハヤトからは応答はない。
シュウの頭に戦死の言葉が頭をよぎったが、ハヤトの機体は安定している。
だったら、なぜ返答が帰ってこないのか?
それはハヤト機の通信機器が先程の奇襲で破壊された為であった。
それに加え、ハヤトは奇襲による動揺で疲労が頂点に達していた。
シュウの届かない通信から少し遅れハヤトは左を飛んでいるシュウ機に気づいた。
通信機器は繋がらないことが分かったので、手信号を送ろうと操縦桿を握る左手を上げた。
しかし、二の腕は上がっているのに、左手は操縦桿から離れなかった。
ハヤトが改めて自分の左腕を見ると、ひじから下が離れていた。
恐らくジークの機銃掃射の時にやられたのだろう。
それを確認した途端、ハヤトは左腕から想像を絶する激痛に見舞われる。
一瞬にして、意識が飛びそうな激痛に耐えながら、何とか右手で“帰投”の指示をだす。
シュウはハヤトの様態が気になりながらも、機体をハヤトの後ろにつけ編隊を組んだ。
それからまもなくヒロも加わり、もと来た空を引き返した。
□□
帰投の路についてからしばらくたった頃だった。
ハヤト機の右隣にヒロ機がついた。
ハヤトは朦朧とする意識の中、虚ろな目で、ヒロの手信号を見る。
“貴機燃料漏レ”
ハヤトは血糊がついた燃料計を擦り、残りの燃料を確認する。
その数値は確かに燃料漏れでも無い限り表示されない数値だ。
本来、陽昇の航続距離なら往復千八百kmに戦闘を加えてもお釣がくるぐらいだ。
しかし、今ハヤトに残された燃料は母艦まで戻れるかどうかすら、怪しい量だった。
ハヤトは一瞬考えた後、ヒロへ“帰投ニ支障無シ、編隊ニ戻レ”の指示を静かに出した。
□□
また、ハヤト達が航行を続けしばらく経った。
水平線から黒煙がうっすらと見える。
ハヤト達の母艦孤峰を、はじめとした日立の機動部隊の各艦の煙突排煙と思われた。
しかし、近づくにつれ様子がおかしいことに誰もが気づいた。
船体から黒煙が出ている。
船体から黒煙が出ているということから考えられるのは、攻撃を受けたか、事故かだ。
しかし、煙が上がっているのは一隻ではなく、複数だ。
そのことから、事故の可能性は薄くなり、出てくる結論は、敵の攻撃。
ハヤトは血を流しすぎたせいで回らない頭で、目の前で何が起こっているのか把握しようとする。
艦攻隊は高峰隊が止めた。
なのになぜ、損害が出ているのか?
そして、ハヤトは脳の片隅にあることを思い出し、何が起こっているのか悟った。
ヘウルムヴェルに開戦告げた時に行われた爆撃作戦。
その時、高高度から日立の艦隊に奇襲をかけた爆撃機があると言うこと。
そして、報告より低空を飛んで、尚且つ少なかった敵機。
敵艦爆隊による奇襲。
しかし、今さら悔やんでも仕方がない事だった。
今は自分が生き残ること精一杯であった。
しかし、ハヤトの運もここまでしかもたなかった。
そして最後は一瞬の出来事であった。
発動機が止まり、自然降下を始め、ハヤト機は海面へと吸い寄せられていった。
一話読んで頂きありがとうございました。七都と申します。
兵器や戦闘などに関してはまだまだ未熟なので、おかしいと思う点、アドバイスがある方は遠慮せずに、どんどん言ってくだされば嬉しいです。
これからの投稿にあたって、後書きには登場した架空兵器のスペックを載せようと思います。
これも、まだ初心者の域を出ていない自分が考えたので、おかしいと思う点があれば指摘をくだされば嬉しいです。
以下 架空兵器スペック
・艦上戦闘機 陽昇(正式名称は陽昇一式)
全幅 12.9m
全長 9.58m
全高 3.84m
自重 3266kg
発動機 真鷺製宝エンジン(馬力1950)
最高速 534.8km/h
巡航速度 262.5km/h
最高上昇高度 9800m
上昇性能 6000mまで八分二十秒
航続 3015km(増槽装着時3745km)
乗員 1名
武装
プロペラ軸内部20mm機銃 1挺
機首20mm機銃 2挺
爆装 不可
生産機数 6000機以上
ヒタチ帝国が開発した艦上戦闘機。
遠くの場所まで飛行できる航続と、敵を圧倒する火力を両方持ち合わせる戦闘機をコンセプトにして作られた。
その結果、航続距離3015km(増槽装着時3745km)という、戦闘機としては過去に類を見ない航続距離を持つ戦闘機に仕上がった。
陽昇を作るにあたって、艦上戦闘機では珍しい液冷式エンジンを採用、搭載している。
それに加え当時最新技術の、沈頭鋲、電気溶接などが惜しみ無く使われ、軽量化に成功し、自重量からは本来できない高機動性を会得した。
形状としては、機首に20mm機銃三挺、その後ろにエンジンを搭載しているので、風防を基準として見たとき、機首の方が長くなっている。なおかつ、航続距離の増強の為翼内及び機内のオイルタンクを大きくしているので、機体が艦上戦闘機にしては大型化している。
上記の通り、高水準にまとまってるが、弱点としては、上昇可能距離が高いが、可能距離までの上昇時間がかかることと、燃料タンクが大きい分燃えやすいことである。それに、大型な上に両羽端が60cmしか畳めない為、艦載機ながらも、空母への搭載が難しかった。
機体特徴が強く、使用場所も制限があったが、その性能から熟練からの需要は高かった。しかし、戦争の長期化により、海上ではより整備が楽で、扱いやすい機体が求められるようになり、その点をクリアした陽昇三式へと艦載機としての座を譲っていき、自分は陸上機としてその名を轟かせていく。