5人の父
太陽。
ここには誰もいない。そう考えるのは当然。しかし、もしこの灼熱地獄のなか生くる者があり、同じ世にいるとて幽霊などと同じく、わかる者しか知り得ぬ存在としたら…?
ここは太陽の「黒点」。黒点とは、そこも光ってはいるが、周りより温度が低いため暗く見える太陽表面の斑点。
彼らはそこを「島」として暮らす。彼らは自分たちを、むろん彼らの言語で「太陽族」と呼び、この星に生い育つ、地球でいう樹(6000℃の熱にも耐える)を用い、いつかは消えてしまう黒点上から炎の海を、次なる島を求め航るための巨大船を造りながら暮らす文化をもつ。
彼らの特徴だが、一番はやはり男(雄)しかいないことだろう。
彼らの子孫の残し方は、まず(彼らの文化でいう)風呂に、地球時間で約8ヶ月入らない(超臭い)。たいていだ、と判断したところで風呂に入り、たまりにたまったアカを、湯に落とし、それをかき集め(かなりの量になる)、大体の人形を作る。あとは少しの間待つだけ。
みるまに命が吹き込まれ、体のかたちがはっきりとあらわれると、すぐに産声を上げる。あとは、生んだ張本人が父親として育てる。
2つ目に、炎を自分の体から、自在に放出させる能力があること。
3つ目は、かなり好戦的な戦闘民族であること。
あるとき、五人(と数えることにする)の太陽族の猛者で、しかも知能もそこそこ高い、父親志願者たちが、偶然ひとところに出会い、戦りあうことなく意気投合し、色んなことを(地球でいう酒屋のような場所で)語り合っていた。 その1人がこんなことを言い出した。
「俺らの垢5人分混ぜて子作りゃすげぇ子ができるんじゃないか?」
他が反論する。
「これまで複数人で作るのは試みられたが他人同士の垢はなぜか混ざらない。混ぜた瞬間に崩れてしまうのだ」
また元のやつが、
「俺ァ8人ほど子作ってわかったんだがよ、なっがいこと風呂入らねぇで作ったヤツほど、産まれるとき頑丈になるんだ。8人目んとき7年風呂入らず作って、呪われる覚悟で垢半、命半の瞬間に渾身のパンチ打ち込んだのよ。けど崩れも何もせずそのまま誕生。今じゃ俺らの船で一番の強ささ。1人目は8ヶ月だったが何もしなくても崩れそうだったのによ」
それを聴き、沈黙する他4人。
やがて。
「つまりお前は、俺らで仲良く激臭ライフを送り、混ぜても崩れないと言う説を以て、最強の子を作ろうと?」
「なァ乗らねぇかこの話。うまくいけば出会うヤツら片っぱし仲間にできるし、統治できる」
「俺も賛成だ。風呂入らねぇのは慣れっこだろ。俺らの安泰のためにも。」
「できないだろうがものは試しだ。もしできて、俺らの脅威になりそうならその前に殺す覚悟だけできるなら。」
その言葉で一同わずかに迷いを見せたが、この世でものをいうのは強さだ。彼らは決心した。
その日から5人は12年風呂に入らなかった。二千年生きる彼らにとってそんな長くはない。暑苦しい臭いには慣れていたけども、さすがにある日一人が限界を訴え、ふたたび5人は集まり、事に掛かった。
洗い落とした垢をまず2人が各自のを組み合わせて練り込む。崩れない。期待半分だった彼らの顔はもはや期待しかない。3人目、4人目と混ぜ込んでいくが、一向に崩れない。ついに5人目が混ぜ込むが、崩れなかった。一同から小さな歓声が湧く。
異常にデカい垢の塊ができると、もっとも技巧に長けた1人が人がたに整えていく。
「ワンパンいっとく?」という言い出しっぺの発言は却下され、完成した人形は、すでに命を持ち始めていた。あっという間に見目かたちが整うと、ばちっと目が開き、辺りを見わたす。そして最初に発した言葉は、
「5人も父親がいるのかよ…」
だった。
彼らは驚いた。まずやり方に成功したこと、そして彼らにとってもあり得ないことに、生まれたての赤ん坊が喋ったことに。赤ん坊といっても見た目は彼らの歳で、8才くらいの子にいきなり生まれできたことになり、それにも驚いていたが。
彼らは、体も頑強なら知能も高く生まれたのだと解釈したが、彼はただ単に、色んな次元に一瞬にして対応できてしまう能力を持って生まれたのである。
彼はその世界に来ると、ある程度の(そこでの)言語や常識が勝手に頭に流れ込み、覚えたこととして記憶される。だからコミュニケーションに困ることはない。そんな能力を生まれもって手にしたため、喋れたのである。
彼は産まれた瞬間に全てを悟り、軽く死にたくなってしまったが、覚悟してすぐに働き出した。百人力の子とすぐに呼ばれるようになった。
むろん彼の父親らは、この生ませ方を秘密にした。知られたら真似をされるから。この子は拾った子だと言い続けた。名は父親みなで考えて、「サザン」という名が付けられた。「船」とか、「闘いの場」とかいう意味を表す彼らのことばだった。
サザンは父親5人から5様の教育や特訓を受け、島の仲間内で催すリングでの勝負にもよく出た。彼はその行動の全てに於いて、力を制御せねばならず、かつ全力でやっている演技もせねばならなかった。彼にとって皆が弱すぎた。この星屈指強さの父たち5人に掛かられたらひとたまりもないだろうが、サシなら普通に勝てるだろう。彼はそれくらい強かった。しかしありのままだと父たちに殺されてしまう。産まれた瞬間から気付いていた。
彼は父が何も言わずとも彼らの思惑通りのことをした。(他集団と戦っては勝ち、仲間(部下)にして父たちが望むような豪華船や城を作らせた。)嫌だったが。
いくら制御しても強いものは強いし、自立心も芽生える。島で(父を除き)実力でてっぺんを獲ると、一人で炎の海へ(いかだらしきやつで)駆り出し、しばらく日が経って、彼の仲間だと誓うボロボロの別の船団と共に彼らの船で帰って来るなんてことがザラになった。
父たちは警戒するようになった。が、これも彼の作戦の内。いつかは父たちと衝突しなければならないとわかっていたから。ただ半分自棄もあった。自分の人生を嘆いたのだ。父に殺されるなら別の奴に殺される方が…と、父たちより強い者探しでもあった。が、父たちがこの世で屈指というのはまんざらでもないと気づき始め、いよいよ覚悟は強まった。
日々孤独を感じる彼にも、親友がいた。ただ建築中に知り合っただけだし、遊びでやり合うこともあったが、この種族らしくぶつかりあって仲良くなるのとは違い、この二人は会話で繋がれていた。
彼は弱かった。ものすごく。だからか、常に他人と同じ仕事をこなすには、強さで繋がる彼らに異質な自分が溶け込むにはどうすべきか、と考えていた。
まったく極のような境遇に自分に無いものを見出だしたのか、自分は異質だと自覚している者どうし気が合ったのか、とまれ頭を他の仲間より使う二人は、会話の上で関係が成り立っていた。
話は変わるが、サザンはまた 別の世界にも想いがあった。自分のこの瞬間言語習得能力とも呼べるちからは、(もちろん彼は自覚しているが、環境にまで適応できるとはまだ知らない)この世界で生きるためだけとしてはいささか余りあると考えていた。
傲慢にではなく、この世界はほぼ知りつくしてしまったので、ただ広い世界を見てみたいだけだった。
気になったのは、たまに知らない言語が頭に流れ込んでくることだ。明らかにこの族の言語ではなく、それが起こるのはいつも真上に小さな惑星が見えるときだった。(彼らの口継承の歴史では、行った者はなく、それは「太陽のカス」という意味の名が付けられていた)
別の文化がある!彼はそう考えていた。
彼の能力ならどうにか飛んで行けそうである。ちからを制御していても桁違いなのだ。彼はまだ自分の本気を試したことがない。そこに辿り着くまでに死んでも構わなかった。どうせこの星最強の父たちを蹴散らしていくのだ。帰る場所などない。
ともかくここにさよならして最初に行くべき場所はそこと極めていた。
彼は親友のセンユに、旅に出るつもりでいること、一人が父の振り担当で、実は5人父親がいること、自らの出生の秘密を明かした。
彼はあまり驚かなかった。
一緒に来ないかと誘ってもみたが、君が行くのは止めないけど、外の世界は未知数、僕のせいで足を引っ張ったり戻る気にはさせたくない、というようなことを言った。が、君の決意には全力で応援する、戦うとき発つときには必ず協力するとも。
それから3週ほど経ったある日。(あの日から彼が出掛けるときにはほとんど親友の彼がついていた)彼はまたその3週まるまる島を留守にして別の船団を探し、見つけ(今回は島でも厄介だと噂されていたかなり強いと有名なヤツが頭だった。彼も珍しく面白く戦えた)、強さでねじ伏せ仲間にし、彼らの船でまた島に戻ってきていた。が、今回は岬がいつもと様子が違った。誰もいないのだが、禍々しいほど殺気が漂っている。
彼は、その頭につべこべ言いたいだろうが取り敢えず逃げろというと、それからは自分のいかだを下ろして、約束通りだよと言う親友は振り切れず一緒に載せ、そこから二人で浜までいかだを漕ぐ。そうわかっていた。そこにいる5人は誰か。
浜に着くと同時に、樹々の影からその姿を一斉に現す。
5人5様、しかし恐ろしい強さを湛えたオーラはみな共通だ。
「わかってるな?」
「お前は出過ぎた。」
「素直で頭もキレてかわいかったが、限界だ」
「悪いな。俺たちも、生きなきゃならん。心配要素は摘み取りながらな」
「お友だちにはどいててもらえ。お別れを言ってから」
散々な言われようにセンユは怒りを露わにした。サザンはどんな気で自分を生んだか知っていたから平然としたまま、親友を手で制すと、一歩前に出る。
「お別れならもう言ってある。でも、どちらが敗けて誰が別れを告げられたのかは、まだわかんねぇぜ?」
「ほざけ。」
一人が手を振り挙げると、彼の手から、オレンジにかがやく超巨大な蕨が生えたような、渦巻く炎が、糸を曳いて彼ら二人の居た場所を地面や海を、その渦で切り裂きながら猛スピードで通過する。もちろん二人は跳び退いていた。が、二人は目を疑った。地面がえぐれるのは見ていたが、そのまま後ろの炎の海が、水平線のかなたまで真っ二つに裂かれたように、切り込みが入っていたのだ。さっき逃がした船も「半分こ」されて、沈んでいっているのが見える。と、裂け分かれていた炎の波が元に戻ったちからで、水平線からここの位置まで水爆が投下されたような大爆発が起き、無数の炎の渦が巻き上げられる。
しかしここの7人(ごめん、1人例外)はまったく動じていない。
今の攻撃を皮切りに、抗争が始まった…。