仲間
彼女は水球が、どうしてもある大きさより小さくならないとわかると、とりあえず球を潰す力はそのまま、(すっかり小さくなった水球の中では球に押し潰されるままに球の形をした橙の炎が、まだ懸命に出ようともがいている)彼が落としたものに目をやった。
本?この惑星にも本なるものは存在する。彼女は興味が湧いた。どんな内容が書かれているのか…近付き、手に取ってみる。ずっしり重い感覚。木の皮で粗末に作られた紙を、適当に綴っただけのただの冊子。重要なのは中身だ。彼女はページを開いた。そこには・・・
彼女は本を閉じた。そうして、水の中でまだ辛うじて命を保っている彼に向き直り、魔力を切った。
*
あっけない。
だが、後悔もない。
あれだけセンユの前じゃ自信満々に豪語してた俺が…、未知数だなんだ言うセンユを心ん中じゃ小馬鹿にして…だが俺はただの妄想バカだった。
考えを改めさせられた相手だ、せめてもの敬意で、まだ燃え続けている。
が…もう死ぬ。限界だ。
悪いなセンユ、あれだけ協力してくれたのに。
ただ、やっと解放された世界でこれ…もう少しだけ生きてみても良かったと思うのが、一点の後悔だ…。
不意に響く爆音。
爆煙があたりを舞い覆う。
サザンは覚る。術が解かれたことを。色々彼女の魔力や状況を踏まえると、彼女自身が彼女の意思で、解いたとしか思えなかった。体が戻るまで数秒を要する間考えるが、負けは決定なので、情けないとは感じながらもそんな足掻きはせず、俺の運命はわざわざ生かした理由次第で決まるのだと、それのわかるまでは大人しくすることにした。
体が戻ると、彼女は目の前に居、俺の胸に俺の落とした本をポン、と押し付け、
「いいわ。一緒に旅したげる。でもその前に、この星に留まらなきゃいけない理由を消すのを手伝って。」
と言うのだ。
状況を整理した。
まず、彼女はさっきの勧誘の会話の真意をちゃんとわかっていた。
「別の星から来」て、「彼女の強さ」に参り出した頃にその場しのぎ半分で出した提案が、「旅に出よう」ならば宇宙スケールの話だとわかるかな、と思ったが、答えが「いいわね。でも無理。」だったこと、そして今あった発言から、俺の言いたい事は全て伝わった前提、行きたいけど、事情がある、とそう言っているのだろう。
誘いにすぐOKできたことは、よくわからないが、似てるとか何とか言ってたことと関係あるのだろうか?が、俺には都合がいいので別に覆す気などない。
しかしなぜそう突如協力を要請するような考えに変わったのだろう…。それが解せない。
がともかくも俺は敗けてその相手が使い道を見つけて殺さずに置き、頼みごとをしているからには立場は明白。悔しかろうが情けなかろうが口さえ挟めない。 俺はいまどんな顔をしているのだろうか?自分でも想像がつかない…。
と、彼女が俺の考えを読んだように言う。
「あなたもきっと同じ能力を持っているのでしょう?あたしは生まれたときから自由にものを喋った。この本、読ませてもらったわ。」
!!?ウソだろ?!
こんな偶然ってあるもんか!似てるって言ったのはここらへんの事を感じ取って出た言葉なのかもしれない、そうなんとなく思う。 いま彼女は、間違いなく、しかもかなり流暢で逆に気付くのに間が要ったくらい、上手い太陽族の言葉でセリフを綴っていた。
…と、いうことは……俺の境遇に関心を持ち、殺すのを引き留めたってことか?しかし結局のところ同情じゃないか…?と考えるが、
「なんでだろーね…この世に、ここまで境遇が似た存在がいるなんて。同情よ?あなたのことなんて、いまほんの少し知っただけだけど、完全無欠の同情が、あたしにはできたの」
言っている意味はわかった。俺と、世界も考え方も違えど、あまりに何もかもが似すぎている、と。
「あなたについて行けば、きっと楽しい旅ができると、そう思ったの」
俺は、全てを悟った。しかし感覚に頼り過ぎでないか?とも思うが、自分が太陽を飛び出してきたのも、とどの詰まりは我慢できない子どもが痺れを切らして家を飛び出したに過ぎないわけだから、境遇似た者同士なら、確かに理解できないこともない、と思った。
しかし急なことで俺は少しの逡巡をしたが、やがて答えた。
「俺もあんたと旅できたら最高に楽しいだろうと思うよ。あらゆる意味でな。わかった。一度死んであんたに預けられた命も同然だ!あんたほどのモンが外せない足かせとやら外しに、俺が微力なりとも役に立つと思ってくれたんなら、同情だろーがなんだろが全力で協力してやる。これでいいか?!」
「ええ…。助けてくれたら、眠りをぶち壊したことは、チャラにしてあげる。」
そんなこと言ってたなぁ…。
「冗談。あたし寝起きサイアクなの。状況は分かった。あなたは悪くないわ。」
え゛?なんかキャラ違くなってきてね?
「ねぇ、あなたの星ほんとに男しかいないの?」
「あー…おう。この星のジェンダーって考え方からいくと、そうなるな」
「あははマジ!?ウケる…!!じゃ恋愛もしないんだ!」
「恋愛」…うまくいってるときは、とっても甘いもの。としか入ってきてない。男女でするものだそうだ。俺はバカにされた気分で黙った。
「ごめんごめん!でね、あ、寝起きはわかんないけど、もうあなたを殺す気なんかないわ。こんな偶然二度とない。あたしを旅の仲間にして。立場なんてどうでもいいの。兎に角、あたしを楽しませてくれる世界に連れてってくれるなら」
俺はできない、あんたは俺に勝ったんだと言ったが、なら敗けた者としてあたしの言い分も受け容れて、と。仕方ないので「俺の仲間に、彼女が頼んで入れてもらったことにする」という条件(というか設定)で、彼女が仲間になった。そして仲間の自由を奪っている何かをぶっ壊すべく、俺たちの最初の試練は幕を開けた…。




