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時間も時間だし、近隣では知らない者はいない間違いようもない制服姿。

学校サボって出てきてるのが一目瞭然なので、通報されそうな場所は面倒臭い。

だからって、その辺を笑って見逃してくれそうな知り合いの店にでも行けば、話の内容が色々ヤバイ。

知り合いじゃなくとも、特に、敵対関係にあったり訳ありだったりするシマだと尚マズイ。

結局どうするでもなく、適当なカラオケボックスに入って、玲人が適当に開いた頁を上から丸々予約して流しっぱなしにしてしまう。

このカラオケボックスはセルフサービスの飲み放題なので、食べ物注文しない限り店員も来ない。

誰かに邪魔される心配はないかと、うっすいコーラを一口啜る。

「なんか、ドキドキする。私、学校サボるの初めてなんだよね」

だから、そこで嬉しそうにニコニコすんなっ。

「奇遇だね。章吾もだよ」

お前もだ、玲人っ!!

「・・・・・・・そうなの?」

なんなんだ、その意外そうな顔は。

「章吾は真面目だからね。因縁つけられて喧嘩して遅刻とか、学校帰りにお礼参りの待ち伏せとかはよくあるけど、基本学校サボったことはないよ。お姉さんとかおばさんから、よく分からない呼び出しで、結果としてサボることになったことはあるけど」

悪かったな、喧嘩ふっかけるか逃げ出したくなるくなるような顔で。

ババアや姉貴に逆らえなくてっ。

「東條君が真面目なのは知ってるけど、サボったことないとは思わなかった。ここに来るまで凄く堂々としてたし」

「それ、緊張による地顔だから」

コイツ等が、正真正銘兄妹なんじゃないのか?

思わずそう見れば、玲人は笑う。

「まあ、前置きはともかく、本題に入ろうか」

玲人もウーロン茶の入ったグラスを掲げて橘を見る。

橘は困ったように笑ってから、オレンジジュースをストローでかき混ぜる。

「どっから話してイイかわかんないんだけど、まずはゴメンね。嘘言って。そしてあんな話、学食でして」

ストローから手を離し、テーブルに手をついて頭を下げる橘の顔は、笑ってるのか泣いてるのかわかんないような変な顔で。

「嘘?」

思わず反応して、どっからどこまでがと、不機嫌になった俺の声に、橘は首を振る。

「ああっ、ちがうのっ!!」

慌てて中腰になり、そして困った顔でソファにストンと座る。

「あの話・・・・・兄妹かもってのはホント。私が嘘言ったのは寝坊の話」

「いや、俺としてはそっちも嘘で良かったんだけどね」

溜息交じりの玲人の言葉は心の底から真実だろう。

俺も同じ気持ちだし。

「そうだよね。びっくりだよね。いきなりだったんなら」

すまなそうに眉を情けなくたらす橘に、玲人は珍しく素直に笑う。

「別に橘さんが悪いわけじゃないだろ」

そらそうだ。

この話のどこにも、俺も玲人も橘にも、何の問題点もない。

問題なのは親の方であって。

「うん、そうだけど。うちの場合は最初っから母子家庭で、お母さん何も言ってくれなかったから、小学校高校学年の頃には、お父さんには別の家族がいるから言えないんだろうなぁって、わかってたし」

だよな。

言われるよな。

近所のお喋りババアにとっちゃ、子供がそれで虐められようがなんだろうが、自分の子供じゃなければただのネタだ。

弟も妹も、学校で言われてるらしい。

だがまあ、父親の血なのかお袋の教育の賜物なのか、あいつ等は橘以上に図太いのは間違いない。

妾の子って虐められるから学校行かないと散々学校サボってゲーム三昧の生活を送っておきながら、教師とその問題の生徒がもうしないからと謝りに来るとあっさりと学校に通い始めた弟。

間違っても虐められたとは思ってなかったはずだ。

ゲーム三昧出来て、逆に喜んでいたとしか思えない。

次言ったら弁護し立てて慰謝料請求するぞと・・・・・・玲人の親父呼びつけて後ろに立たせた状態で告げた弟は、テレビの見すぎだと思う。

妹達は、それを真似したのだと・・・・・・・思いたい。

兄としては。

「ゴメンね、あんな話を学食でしちゃって」

そんな、逞しくも弟達に比べれば素直で可愛気のある橘に、本当にすまなそうに頭を下げられると居心地も悪くなる。

悪意が一切感じられないから特に。

ここまでの流れを考えれば、悪意がないとは言えないものだ。

だが、すまなそうな橘からは悪意を全く感じない。

兄妹全員に言われることだが、俺はお袋似だ。

直感で物事を決める所がそっくりらしい。

なんと言われようと、橘には悪気はなかったんだろうし、何か理由がある。

その理由を今話すと言ってるんだから、俺にとっては学食での衝撃ぐらいちょっとしたネタでしかない。

だが、玲人は違った。

「それがわからないんだよね。悪いと思うならなぜ、学食であんな話をしたのか? もしかしてヤクザや悪徳弁護士の子供なら、他所に母親が違う兄妹がいて当たり前だと思った?」

「玲人」

笑顔だけど、笑顔だからこそキツい玲人の言葉に口を挟めば、橘はまた頭を深く下げてから、顔を上げる。

泣いているのかと思ったが、橘は泣いておらず、強い眼差しで俺と玲人を見る。

「ゴメン。藤堂君は知らないけど、東條君のお家の話は有名だから、少し、その思いもあった」

そして実に素直だ。

ここまではっきり言われると、いっそ清々しい。

「勝手なのはわかってるけど、お父さんが誰だか知りたいの。探すの、手伝ってください」

深々と頭を下げられても、だ。

「俺達で父親探すって言っても、当人に会わせて確認するぐらいしか出来ねぇぞ」

親父の髪の毛の1本や2本ちょろまかすのは訳ないが、未成年がDNA鑑定を依頼するのは無理だろ。

それにアレ、金かかるし。

「それに、上手く父親探り当てたとしても、認知させて養育費貰うのが関の山だぞ。下手すりゃ・・・・・・・・・・」

流石に、橘と兄妹として暮らすのは勘弁して欲しい。

できるなら、親父以外・・・・・・玲人の親父も外れであってほしい。

刃物や飛び道具での人傷沙汰はなるべく避けたい。

ついでに言うと、そんなのの隠蔽工作も。

そんなこっちの葛藤を妙に誤解した橘は、目元を手で擦って、真っ赤な顔で首を振る。

「違うっ!! 別にお金じゃないのっ」

じゃあなんだ?

橘の要望の真意がよくわからない。

高校入学時から、俺達が兄妹かもしれないと知っていた。

それが1年以上過ぎた今頃になって、父親探しを真面目に始める理由なんざ、金以外の何がある?

母親の店がとか、借金がとか・・・・・・って話じゃねぇのか?

玲人もその考えは同じだったのだろう。

また溜息を吐いてから口を開く。

「僕達への直接的な要望が『父親探しを手伝う』事なのはわかった。『金』を目的にしてない事も。けど、それがどうして学食での話になるのかがわからない」

玲人の言う通りだな。

金ではなく、父親を探したい。

父親を探したいからって、周りに聞こえるように・・・・・・はっきりと聞こえるように話した訳じゃないが、アレだけ堂々と普通に会話していれば、やたら目立つ俺達の事だ。

聞き耳立てていた馬鹿は何人でもいるだろう。

今頃は学校中とまでは言わないが、結構な勢いで広まっているはずだ。

「うん。ゴメン。時間があんまりなかったから、東條君や藤堂君と兄妹かもしれないって噂、広めたくて」

「「?」」

それしか、学食で堂々と話す理由はないのだろうが、玲人じゃないが目的がさっぱりわからない。

そんな噂立てば、橘のお袋さんの店はヤバイだろ。

小料理屋にしろ居酒屋にしろ、バックにヤクザが関係している店にいきたがる一般市民はいない。

客をヤクザだけにしたいなら話は分かるが。

「本当にごめんなさい。最初から話すから。上手く説明できる自信ないけど、とりあえず聞いてくれる?」

そう言って、俺達には訳がわからないまま、橘は話し出したのだが・・・・・・。








高校入学と同時に心機一転。

お母さんの故郷なのよと、引っ越した場所。

そこでお母さんは店を開くことになり、私はお母さんの母校に通うことにした。

古い学校で古い校舎で、歴史があると言えば聞こえはいいが、はっきり言ってボロボロの公立校。

制服だって古臭いし、校則も煩い。

それでも、お母さんから聞いた話そのモノの学校に通ってる事実が楽しかったし嬉しかった。

引越しする前後はそんな事考える余裕は全くなかったけど。

とにかく慌しかったし。

卒業式前に引越しを終わらせ、ダンボールの間で寝て、高校受験に行ったっけ。

その頃にはお母さんも店を慌しく開いていたから、早い時間はお店の仕込を手伝ったりもした。

そこに来る無口なお客さんをお母さんはニコリともせずに接客する。

そんな不自然な態度を観れば、何かあると思うだろう。

後、開店してから週一回は顔を出す弁護士の先生。

先生とは・・・・・・話方って云うか空気が、なんか重いって云うか・・・・・・独特で、間違いなくお母さんと昔・・・・・・だったんだろうなって分かってしまう。

そして1度だけ見た、開店してすぐに来てくれた、ヤクザの・・・・・・東條君のお父さん。

その時は入学前だったし、東條君は知らなかった。

店の前にスーツの人が立っていて、変な感じだとは思ったんだけど、営業時間前だけど看板すら出ていない事に疑問も持たず、何も考えずに扉を叩いて・・・・・。

扉が開いたと思ったら、お客さんの前なのに酷く私を怒ったお母さん。

まるで、さっさと追い出したがってるみたいで、なんだか怖かった。

怖いまま手に押し込められた1万円札をお母さんは引っこ抜いて、オジサンに押し返した。

よくわからないままお母さんに、別に一万円押し付けられて・・・・・そのまま卒業式で引越し前の町に一旦戻ることになって。

その時泊まったホテルで、お母さんが初めて、お父さんのコトを話してくれた。

『本当は、戻らないつもりだったんだけど、約束だから。私のコトはもう、忘れればイイのに。私には楓がいるもの』

シャワーを浴びて、私の事を抱きしめたお母さんがとても悲しそうに見えた。

『ごめんね、お母さんだけで』

泣いてるのかと思ったけど、何も言えないままにお母さんを抱き返す。

『お父さんは、善良とは言えないけど、優しい人なの。だから、探さないでね。貴方と会えば、あの人はまた、無理しようとするから。ゴメンね』

疲れもあったんだと思う。

わけのわからないまま引越しとお店のコトが決まって、ここまで本当に休みなく、お母さんは働いていたから。

本当はその日、お店は休みだった。

だけど、頼まれたお弁当があったとかで、ドタバタでお弁当作って届けて、列車乗ってホテル直行になった。

そのあたりのコトも急だったので、私はよく知らない。

ただ、お母さんは泣きながら寝てしまっていた。

私を抱きしめて。

少しだけ、お酒の匂いがしたのは、何かあって飲んだと思う。

私はまだ終わってない家の片付けとか、久々に会う友達のお土産とかの準備で、お店に顔を出してなかったから、その日お店で何があったのかまったく知らない。

聞こうにも、意味深なこと言って寝オチしちゃうし。

次の日のお母さんは泣いたことを覚えておらず、昨日の話は聞けない雰囲気になっていて、それでおしまい。

卒業式終わって友達とお別れして、そして新しい高校生活始まって、そのコトを考えないようにしていた。

ただ、私のお父さんはまともな職業ではないのかもしれないことと、今回の引越しにお父さんが関係してるんじゃないかってことは何となくわかった。

お母さんが小さなお店を持つ為に貯金してたのは知っているけど、それは故郷に戻ってではない。

引越し前のアパートから出てすぐにある、定食屋さんを見て『ここのライバルになるのは厳しそうね』と笑っていたから。

お母さんがパートの掛け持ちでちょっとずつ貯金をしていたのは事実。

だけど、いきなり土地込みでお店を買えるほどの金額が貯まっていたとはとても思えない。

多分誰かの金銭的援助・・・・・・それがお父さんだったのかなって。

経緯も結果もよくわからない。

故郷の話だって、引越しが決まってから初めて聞いたぐらいだし。

でも、私達は引越ししてお母さんはお店を開いた。

そして、そこで会った男の人達。

お母さんがお客さんに対するの時は全く違う、男の人達が3人。

お母さんと訳ありなのは間違いない。

だけど、それをお母さんに直接聞こうにも・・・・・・・・・聞けば、毎回はぐらかされる。

打つ手なしで、考えないようにしていたら、そのことも忘れてしまっていた。

最初は気になって仕方がなかった。

だって、兄弟かもしれない人が同じ学校の同じ学年に2人もいるんだから。

その上、2人ともすっごくかっこよくて、アイドルみたいに皆がキャーキャー言う人で。

ちょっと嬉しかった。

だけど、クラス全然違って、いきなり姉弟かもって声掛けるのも変だしって、遠くから見てるだけだった。

遠くから皆とキャーキャー言ってるのは楽しかった。

心の中で、2人のどっちかは私の姉弟なのかもよって事を、自分1人で楽しんで。

それだけで楽しかったから、すっかり忘れていた父親の存在。

お母さんも探さないでって言ったし、私はお父さんがいなくても楽しくて幸せだったから。

そして、2年になって、東條君と同じクラスになって、藤堂君もちょくちょく顔を出してくれるから、2人と話すようになってそれがまた楽しくて、それだけで良かった。

良かったんだけど、3者面談で、問題発生。

室井先生がお母さんを見るなり『麗』て、机なぎ倒して抱きつこうとするから。

思わず、先生の事突き飛ばしちゃって、お母さんと逃げたの。

その日は、お母さんのお店の関係で、お母さんだけ特別に昼休みにやることになってたから、空き教室で気絶してる室井先生が見つかったとかで大騒ぎになったらしいんだけど、私お母さんとそのまま帰っちゃったし。

お母さんが帰る途中で気付いて、学校に親戚に不幸がとか嘘電話したしで、何とか誤魔化したんだけど・・・・・・。

それからが大変だったの。

何でも、お母さんが私を産む前に、こっちで水商売してたらしいのね。

室井先生はお母さんの当時のお客さん。

室井さんはお母さんを好きだったみたい。

しつこくアフターだ同伴だって・・・・・・・相当額つぎ込んでたみたいで、お母さんも新任なのにって遠回しに言ったんだけど、それがまた良くなかったみたいなんだよね。

お客なのにお金の心配するなんて・・・・・・って、なんか大きな勘違いした挙句に、ストーカー化しちゃって。

先生はお店出入り禁止になって、お母さんは私がデキて・・・・・・お父さんから逃げるように、引っ越したんだけど・・・・・・・・・。

タイミングが悪い事に、先生に最後にするからって泣きつかれて、お母さんアフター付き合って直ぐの話だったみたい。

付き合ったと言っても、お母さん先生をお酒で潰して、近場のホテルに放り込んで帰ってきたんだけなんだけど・・・・・。

先生、そこでも誤解して、お母さんとしちゃったって思い込んでるらしいの。











なんか、最初は結構シリアスな話だった気がしてたんだが・・・・・・・・・・・。

「あのさぁ、橘さん。その話の終着点って、もしかして」

玲人も嫌な予感がしてるのか、顔が引きつっている。

「ああ、説明下手でゴメンね」

説明が下手とかそう云う話でもないような気がするが、橘は困った顔で笑う。

「先生、私のお父さんだって思い込んでるらしくて、お母さんのストーカー、また始めただけじゃなく、私の事誘拐しようとするの」

「「はっ!?」」

いや、父親だと思い込んでいる所までは予想がついた。

まあ、お袋さんのストーカー再燃も、わからない話でもない。

だがなんで、そこで橘の誘拐・・・・・・・って。

「橘さん、偉く犯罪臭漂う単語を聞いたんだけど?」

「夜女子が1人でいるのは危ないとか言って、毎晩のようにマンションに来て、仕舞いにはエントランスのインターホン占拠するようになったから、管理人に通報されてた。サイレン聞いて逃げ出してその場で捕まりはしなかったみたいだけど」

そりゃ、完全に犯罪だろ。

よく、そんなのが教師やってる・・・・・・・・・・・・・・?

「なあ、玲人。コウの話覚えてるか?」

「は? いきなりなに言い出してんの?」

玲人の眉間に皺がよる。

「確か、コウ、店にうちの学校の教師が来てどうのって」

「・・・・・・はあ? うちの制服着せて、なんか毎回違う女の名前言いながらヤッてるんで調べてみたら、本当にその名前の女生徒がいたとかって奴? それがどうしたの?」

まだ、何かが足りない。

なんだ?

何が気になる?

何が気に掛かって、引っ掛かって気持ち悪い?

何が・・・・・・・・・・・・・・!

「橘っ」

「はっいっ!!」

不思議そうに俺を見ていた橘が、目をぱちぱちさせている。

「お袋さんへのストーカーと、お前へのストーカーどっちが先だ?」

「は? 私へのはストーカーとかじゃないよ。『お父さんがこれからは守ってあげるから』って、夜になると現れてただけだよ。すぐ帰ってたし、最近は通報されたのが効いたのか、学校内で呼び出そうとしたりはするんだけど、他に誰かいるとその話はしてこない。だから、先生とは絶対に二人にならないようにしてるんだけど」

訳がわからないと、書いてある橘の顔。

だが、玲人にも俺の言いたいことがわかったのか、俺を見て頷く。

「橘さん。基本、ストーカーは単独犯だ。余程の財力がない限り、犯罪の片棒担がせるのは無理。ましてや公立教師の安月給じゃ、誰か雇って犯罪の片棒担がせるなんて、無理なんだよ」

玲人の凍て付く笑顔の言葉に、橘はまだわからないのか、首を傾げる。

「橘。お前のいるマンションと、お袋さんのいる店の両方で付き纏うのは、室井には無理だって言ってるんだ。誰か人でも雇わない限り、両方に張り付くことは出来ない」

「へ? で、でも、最初の頃は、私の家に来ても、帰ってくれって言えば何も言ってこなくて・・・・・・・・。その後、お母さんの店に行ってたんじゃないの?」

普通は、そう考えるよな。

だが、普通のストーカーとは事情が大きく違う。

「お前のお袋さんの店、お前の親父が絡んでるって言ってたよな? 土地込みでオーナー兼女将ってなら、間違いない。そうなると、そのお袋さんの店には、お前の親父の息がかかってる。昔のストーカーなんか、近付かせるかよ」

「多分、君のマンション周辺も、君のお父さんが見回りさせてたんじゃないかな。だから、室井は長時間張り付くことは出来なかった。通報された日は、お父さんの指示を軽視してサボった馬鹿がいたか、何かがあって見回りが出来なかったんだろうね」

「あぁぁ。それって、先々週の水曜じゃねぇ?」

玲人の言葉にハッとなって、思い出すままに橘に問えば、橘も頷く。

「それな、消防点検だとか言って、あっちこっちの、風俗店だけでなく下の方の組事務所にまで調査が入ったんで、組全体がバタついてた日だ。お前の親父がうちの組関係者なら間違いなく、忙しかった」

「うわぁ、章吾の野生の勘大爆発。橘さんのお父さんまで絞れてきちゃったね」

玲人、顔引きつってんぞ。

「つまりだ。ヤクザが間違いなく絡んでるのに、あの室井が無駄な根性出してまで張り付いてんのは、お袋さんじゃなくお前の方だって事だ。あの、腐れ変態教師っ」

ぶん殴ってやる。

2度と教師出来ないようにしてやる。

「まあまあ。コウの言ってたうちの変態教師が室井だと決まった訳じゃないけど、コウの言ってた通りなら、橘さんドストライクだしね」

肩を叩く玲人の手を跳ね除ければ、まだ首を捻ってる橘がいる。

間違いなく、こちらの言いたいことが全く分かっていない顔で。

「あぁぁ・・・・・・・なんだ」

言いたくはないが、橘、危機感なさ過ぎる。

言わないと、絶対わかんねぇ。

「イメクラで自分の教え子と同じ格好させる変態が指名してるネエちゃん達ってのが、決まって、童顔チビで巨乳なん・・・・・・・・・ッテぇなっ!!」

何で、殴ると玲人を見て、橘の真っ赤な顔を見て・・・・・・思わず顔を逸らした。

「悪ぃ」

「ええっと・・・・・・うん、あの・・・・・・・・・・」

チラリと視線を戻せば、まだ恥ずかしそうに潤ませた目の橘と目が合い、また逸らす。

気まずい!!

「あぁぁ、そこ、2人でお見合いしないでくれる?」

呆れ顔の玲人に殴りかかりたいのを必死に堪え、携帯を取り出す。

「とりあえず事実確認する。橘、親父云々は後回しで、室井潰し先でイイな?」

つーか、さっさとあの腐れ変態教師をどうにかしねぇと、橘の身が危ない。

「だよね。橘さん、危機感ない上に、思いっきり良すぎ。俺達の兄妹かもなんて噂広がったら、室井の付け入る隙がなくなって暴挙に出るとは考えなかったの?」

玲人のあきれながらの言葉に、深呼吸を繰り返して何とか赤い顔が治まってきた橘が、きょとんとした顔で玲人を見つめている。

「何が?」

やっぱり、危機感なさ過ぎる!!

「相手は、ヤクザが絡んでるのわかってて、付け回してた変態教師だぞっ。手を出せなくなる前にって、明日辺り、ヤバかったんじゃねぇか?」

「だろうね。マンションの方には近づけない。となれば、自分のテートリーである学校でするしか・・・・・・そっちの方が目的かも?」

「玲人っ!!」

これ以上橘を怖がらせ・・・・・・・・・・・・・橘は、まだ不思議そうに俺と玲人を見比べている。

「お前、わかってねぇだろ?」

「何が?」

やっぱわかってねぇ!!

どんっと、安っぽいローテーブルを叩いて橘を見る。

「そんなボケボケしてっと、室井に空き教室引っ張り込まれて犯られるってんだよ!!」

「章吾、露骨過ぎ」

笑いながら言う玲人に説得力はない。

玲人も、そこまで言わないと橘がわからないと思ってるんだろう。

現に、橘はまだわかってないらしく、大ボケ全開だった。

「え? 先生は連れて行きやすそうな私を誘拐して、お母さん引っ張り出そうとしてるだけだよ」

やっぱりわかってないと2人で大きく溜息を吐く。

「お袋さんが狙いなら、ヤクザの見回りない隙をついて、店に向かうときでも買出しでも、接触はできるだろ。生徒に手を出すよりよっぽど安全だろうがっ」

「未成年で自分の生徒にストーカーするよりは、まだその母親の方が救いようあるよね」

「へ? でも、お母さんと私そっくりだよ? 私の方が身長低いぐらいで。同じ感じなら、大人のお母さんの方が」

「橘さん。世の中には真性のロリコンって、危険分子が生息してるんだよ」

「玲人、肩叩くな。つーか、橘にはそれじゃわかんねーよ」

玲人の手を橘の方から払いのけ、溜息一つ。

また、言いたくないこと言わなきゃなんねぇのか?

「あのなぁ、橘。いい加減わかれ。室井は最低な、腐れ変態教師だ。大人の女じゃなくて、未成年の女じゃないと勃たたねぇんだよ。そう云う奴等の為にイメクラはある。いっぺん見てみるか? 幼稚園児のスモックとかスクール水着とかブルマとか、そんなんばっか、衣裳部屋並んでんぞ」

「そこで、お金払って気持ちよく処理するのは合法だけど、橘さんに付き纏ってる時点で、室井は境界線越えてる。一歩そこ出ちゃえば、後は歯止め効かなくなるのは目に見えてるし」

玲人の追い討ちに、耳まで真っ赤に・・・・・全身真っ赤になったであろう橘は、泣きそうになっている。

「だからって、転校したくない・・・・・・・・・」

なるほど。

橘のお袋さんは、橘ほどはボケてないらしい。

良かった、まともな保護者がいて。

「つまり、橘さんのお母さんは、室井の行動に危機感を感じて、橘さんを転校させたがっている。橘さんは転校したくない。だから、ヤクザの父親が出てくれば、変態教師も父親だって付き纏うことはできなくなるって考えたわけだ。安易だね」

「玲人っ」

橘が大ボケなのは分かるが、橘もその変態相手とお袋さんの心配の中で必至だったんだ。

そこまで言わなくてもいいだろ。

危機感なさ過ぎなのは確かだけど。

「ごめん、なさい」

潤んだ目に、居心地の悪さが倍増する。

「お父さんが誰かは、どうでもイイと云うか・・・・・・・その、うん・・・・・・あの、先生がどうにかなれば・・・・・・。ヤクザ屋さんが父親だと知ったら、怖くなって私に近付かなくなるんじゃないかって思って。そうなれば、転校しなくてよくなるし」

なる程。

目的は、父親探しではなく、変態教師の排除か。

なら、あの学食での話も、馬鹿だとは思うが理由だけなら頷ける。




ヤクザやヤクザつきの悪徳弁護士が父親か持って噂が広まれば、早々に手を引いてくれるんじゃないかって考えた橘の心理は。

「橘、心配するな。その腐れ変態教師は、2度とお前の前に近づけないようにしてやる」

「あっ、で、でも、暴力とかそんなのっ!!」

どこまで平和ボケ・・・・・・善良なのか。

「大丈夫だよ。そんな野蛮なことしなくても、もっと簡単な方法あるから」

にっこり笑う玲人に促され、携帯の履歴からコウの番号を探し出す。

腐れ変態教師に同情する気はないが、玲人が敵に回った時点で人生詰んでる。

まあ、自殺してくれた方が世の為人の為になる奴もいるよなと、橘にバレないコトだけを祈りつつ、通話ボタンを押した。

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