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恐ろしいことに、橘は俺と玲人が呆けている間にうどんを完食し「食べないの?」とにこやかに笑う。

その後モソモソと味のしないアジのフライを飲み込むようにしてかきこむのをにこやかに眺めていた女。

律儀にも、俺達が完食するのを待ってから、橘は「図書室に行くから」と笑顔で歩いて行ってしまった。

残された俺達はとにかく・・・・・・・・・何もかもが気持ち悪く、茶を買って屋上に上がる。

初夏の日差しは温かく、屋上にはそれを求めてなのか弁当やパンを持ったやつ等が何人もいたが、俺達の姿を見ると、皆慌てて屋上から逃げ出した。

どたばたとした足音が完全に消え去ってから、体の中から苦いものを吐き出すように、口を開く。

「どう思うよ、悪徳弁護士の息子」

「どうって、広域指定暴力団第2次団体組長息子はどうなの?」

そう、俺は西展開している、誰もが聞いたことがある暴力団会長の孫だ。

本家は伯父、俺の親父の兄貴が継ぐコトが決まっていたので、その子団体のトップとして俺の親父がいる。

つまり、親父と伯父は今現在は正真正銘、血縁で言っても組でも兄弟。

だが、そのうち組としては親子になる。

その暴力団の古くからの顧問弁護士が、玲人の家で、男の8割が弁護士資格を持っている弁護士一家。

そのじーさんは本家の顧問弁護士。

親父同士も俺達と同じく幼馴染。

うちの顧問弁護士は、玲人の親父さん。

話が面倒になると、親父さんの兄貴だのじーさんだのの弁護士軍団が結成されるんだが、そこまで面倒になったことは俺が産まれてからはないはずだ。

多分。

「ウチはまあ、どっかしらから出てくるだろうって思ってたからイイけどな」

兄妹が増えることに対して驚きは・・・・・・・・・・ないとも言わないが、その可能性が常にあった。

それが橘だったってことが驚きではあったのだが、玲人の所はマズイのではなかろうか?

確かに玲人の親父さんは、ウチの古くからの弁護士だ。

弁護士は弁護士でも、世間様では悪徳弁護士といわれる分類に当たる。

まあ、突出して悪徳ではないはずだが、バックに暴力団いるんだから、世間に大あんの風当たりは強いはずだ。

玲人のじーさんは本家の弁護士で、玲人の親父の他に息子が3人いて、そいつ等全員弁護士になって、本家だのうちだのの法律関係に対処してくれているんだから当然と言えば当然。

まあ、そう云う仲ではあるんだが・・・・・・・・・。

「絶対マズイ」

玲人の顔が珍しく青褪めている。

「母さんが知ったら・・・・・・・・・」

「だよな」

そう、玲人の親父さんが古くからの弁護士であると同時に、玲人のお袋さんは俺の従姉弟だ。

本家の現若頭・・・・・親父の兄貴の長女が、玲人のお袋さんである。

「伯父貴許しても、じーさんがなぁ」

「ああ、じーさんが許してもひーじーさんが」

そう、俺のじーさんが、玲人にとってはひーじーさんとなる訳で、普通に話してるとややこしい。

じゃなくっ!!

初孫で女の子である、玲人のお袋さんを猫可愛がりしてるじーさん。

俺達にもそれなりに甘いが、玲人のお袋さんは別格だ。

その旦那の浮気が・・・・・・・・・愛人の子なんてもんまでいるとなると・・・・・・・・。

「橘、マズくないか?」

玲人のお袋さんは、まあ、才女だ。

小さな小児科医をやっている。

頭がいい。

そして自立しており、沈着冷静・・・・・・・・・・と同時に、怒らせると、トンでもない事になる。

あくまでも沈着冷静に、完璧に復讐をやり遂げる頭と金と権力に人材が至れり尽くせりで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

それがなくてもじーさんが何を言って何をやりだすか・・・・・・。

「ヤバいのは、橘さんの母親だろ。仮にも小児科医が、子供に手をかけることはしないと・・・・・・・・・・・思いたい」

「玲人。橘は、見た目はともかく、小児科医の範疇外だろ?」

「嫌、あの身体的サイズは範疇内だよ」

「そうか」

「そうだよ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

嫌な沈黙が広がる。

と同時に昼休み終了のチャイムが鳴るが、とても動く気にはなれなかった。

だからと言って、何か考えがあるとかそう云うわけでもなく、訳のわからない言葉が漏れた。

「・・・・・・・授業、初めて自分の意思でサボるわ」

溜息と同時に出た、どうでもイイ感想。

「章吾は柄も悪いし喧嘩上等だけど、根は真面目だからな」

玲人からも、この状況とは全く関係ない、相槌なのか小馬鹿にしているのかわからない言葉に溜息が一つ。

「「・・・・・・・・・・・」」

またお互いから溜息が一つ。

「実際の所どうよ? オジサンの可能性は?」

玲人の言葉には、肩をすくめるしかない。

「親父が貸切にする店で、女1人しかいないとなれば、間違いなく親父の愛人の店だ」

手切れ金代わりだったり、その他・・・・・・なんたりで店を持たせるのはよくある話だ。

最近は流石にそっちの元気がなくなっているのか、マンションに囲ってるってのは聞いたことないが。

「ただ、ウチの場合、今までのパターンだと子供が出来たら即引き取ってるぞ」

そう、俺には母親の違う兄2人と姉、母親が同じ兄と、母親が違う弟と妹が2人がいる。

が、全員、家族として赤ん坊の頃から生活している。

妹の時は赤ん坊が時間差でやってきた。

年は同じで、同時に愛人2人にできたようだ。

お袋曰く「去勢でもしない限り種バラまくの止めさせるのは無理だね。だったら、いきなり子供ですって押しかけられるより我が子として愛情注いだ方が建設的だろ。赤ん坊から育てれば情も湧く。後からゴチャゴチャと無駄な争いにも発展しない。願ったりかなったりじゃないか」との方針で。

もちろん、中には自分で育てたがる女もいるようだが、その場合は認知はなし。

裁判で財産がと後々色々・・・・・・・・普通の家なら起こりそうな問題も、うちの場合は関係ない。

ヤクザに女個人で喧嘩吹っかけられるはずもないし。

何より、お袋の考え方はかなり特殊だ。

子は、育てはするが、母親でない事実は変えられない。

私は家族にはなれるが、母親じゃない。

会いたければいつでも、母親として堂々と会いに来いってのがお袋の言い分だ。

現に、姉貴の母親は自分の娘である姉貴との相性は悪いが、お袋との相性はいい。

時々一緒に旅行にいってるぐらいだし。

女は良く、わからない・・・・・・・・・。

「だよな。となると、認知しない方向の娘か?」

自分で育てたがり、認知はいらないと突っぱねた?

橘を見るに、その・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「橘のお袋さんが、そんな女であるとは考えにくくないか?」

「そうかな? ボケてはいるけど、肝は据わってると思う」

だよな。

あんな話を平然と学食でにこやかには、普通は話せない。

見かけはともかく、かなり図太いってことだろう。

あわせて、相当ボケてると・・・・・・。

「俺としては、父さんがそこまで馬鹿だとは思いたくないね。うちの方針は、『浮気はわからないようにやれ。子供作ったら即去勢の上、コンクリ詰め』だしな」

うん、冗談じゃなくマジでやるだろう、あの人なら。

「一番平和的解決なのは、死んだオッサンだよな」

ヤクザが貸切にするような店の女将に入れ込む男に、死んでいる男が父親かもと疑う女子高生・・・・・・。

どんだけベタなんだ?

ドラマじゃあるまいし。

「それはそうだが・・・・・・・・・・・・・・・・・橘さんの意図がわからないね」

「は?」

「何で、いきなりあんな話したのかってことだよ」

玲人が眼鏡を弄りながら話す時は、苛立ってる時だ。

後、考えがまとまらない時。

「成り行きじゃねぇの?」

話の展開と云うか・・・・・・・かなり、いきなりだったが。

「話の展開が、強引過ぎだ。あんな話誰が聞いてるともわからない学食で、する話じゃないだろ」

「橘が大ボケだからじゃないか?」

「その大ボケが妹だかお姉さんかもって話なんだけど?」

嫌だ。

物凄く・・・・・・・・・・。

「それはともかく、橘さんらしくない気がする」

「そうか? わりと図々しいぞ、アイツ」

人が寝てようとお構いナシに、用があれば起こす。

クラス女子が飴配ってたら、普通に貰いに行ってる。

ついでになぜか、俺の分まで貰ってくる。

自習プリントを、友達と問題分担して写しあってたりとか。

持ち物検査では見て回ってる教師の死角で監視役の風紀委員ににっこり笑い、終わった奴の鞄に菓子類押し込んでるのを黙って見逃させたりもする。

「アイツ、結構狡賢いとこあるぞ」

「だからだよ」

玲人の言わんとすることがわからない。

「俺が思うに、寝坊したってのも嘘じゃないかな・・・・・・と」

弁当は作れなかったんじゃなく、作らなかったと言いたい訳か。

俺達と、昼あそこで話をする為・・・・・・に?

「それこそおかしくないか? それなら放課後茶でも飲みながら話せばいいだろ」

態々人目のある、誰が聞いてるのかわからない学食でせずとも。

「そこなんだよね。何かが、物凄く引っ掛かる」

橘は俺達と、兄妹かもしれない話をしたかった。

だが、それはどうしても学食でしたい・・・・・・?

「おい、弁当云々疑うとしたら、さっきの兄弟どうのってのも、話として怪しくないか?」

「だよね。けど、そっちは確かめようがあるじゃない」

「は?」

「ウチはともかく、おばさんなら、あっさり話してくれるんじゃないの?」

そういや、そうだな。

お袋なら、俺と同じ年の認知してない兄妹の有無ぐらい、簡単に話すだろう。

その話を家族全員が揃った晩飯中に振ったとしても、たいした問題には発展しない。

そう云う事実があるって知って終わりだ。

それに、玲人の親父さんが関知してるって話を気付かせなければ、の話だが。

あのババアの事だ。

玲人の親父さんの浮気疑惑なんて知ったら、面白おかしく玲人のお袋さんに話すはずだ。

何しろ、玲人のお袋さんと俺のお袋は仲が悪い。

玲人のお袋さんは学歴があり、高収入。

芸妓上がりで学歴も現在収入もなく、親父の金で遊興するお袋を鼻で笑ってたからな。

浮気で出来た子供を引き取る偽善者とかなんとかも、言ってた気がする。

お袋に言わせれば、学歴鼻にかけて30歳過ぎて行き遅れ、押し売りした挙句に女王様気取りの痛い女云々・・・・・・・・・・。

親父と玲人の親父さんの仲がイイだけに、お袋同士の舌戦は正直引く。

まあ、だからと言って、俺が玲人のお袋さんに何かを言われることもなければ、お袋が玲人を悪く言う事はない。

お互いの家を行き来しつつ、悪戯すれば怒られ、お袋は玲人を「要領のイイ子」だと褒め、玲人のお袋さんは俺を「素直なイイ子」と褒める。

学校帰りにお互いの家に行けば、両方の母親がやれ飯を食って行け泊まって行けと毎回言い、当たり前にお互いの着替えが常に用意してある。

お袋同士に思うことはあっても、その子には何の蟠りもないらしい。

やっぱり女ってのはわからない。

「絶対に、玲人の親父さんの話は出せねぇよな」

「当然。だから、上手くやりなよ」

「うっ」

そう、お袋は玲人のお袋さんと違って、学がないから本能で生きている。

論理的思考とは大きくかけ離れてるわけだ。

つまり、妙にカンがいい。

お袋に如何に怪しいと思われず、聞きたいことだけ上手く聞き出すのは、結構な難問だ。

要領のイイ玲人に代わりに聞き出してもらいたいが、そんな事をすれば間違いなく、何かあるのがバレる。

俺が聞いてバレちゃマズイ、都合の悪い何かがあると・・・・・・・・・・・。

「親父達が帰ってくるの待たないか?」

そう、親父達に聞くのが何より手っ取り早い。

が、この肝心な時に、親父も玲人の親父さんも本家の会議に行っている。

戻りは早くても3日後だ。

「その時間はないんじゃないかな」

にっこり笑い、玲人は屋上の扉を見る。

「ねぇ、橘さん」

玲人の言葉に続くように、アニメのワンシーンのようにひょこっと扉を小さく開けて顔を出す橘。

「バレた? 音立てないようにしたつもりだったんだけどなぁ」

やっぱり橘は大物だ。

全然悪びれてない。

それどころか本当に楽しそうな笑顔だし。

「音はしなかったけどね。橘さんが学食でわざわざ、あのとんでもない話をすることだけが目的とは思えないからね。そうなると、俺達に何か頼みがあると考えるのが自然だろ。そして、橘さんちょっと焦ってるのかなぁとも感じたし」

「うわぁ、なんかお見通しだね、藤堂君」

ニコニコと、橘は屋上に・・・・・・・・・・鞄三つを抱えていた。

体がちまいだけに、学校指定の三つの鞄がやけに大荷物に見える。

「という事でね、今からサボって東條君のお母さんの所行かない?」

笑顔の意味も、言ってる意味もわかんねぇよっ!!

やっぱり女はわからん!!

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