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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■シン編
90/112

シン 2



シンが目を開くと、そこは荒れ果てた町の一角だった。

夕暮れ時なのか、僅かに差し込む日の光も赤く、周囲は薄暗い。


真っ白な空間から一気に変化した情景に、呆然と周りを見回しながらも、先ほど掴んだはずの細い手を思い出し、はっと己の手を見下ろした。

しかし、そこには何の感触もなく、リュウキの姿すらない。

一度掴んだものを離してしまった己の不甲斐なさに、シンが大きく舌打ちをした。

何も無い掌をぐっと握り混み、狭い路地の壁に背を預けて悔しげに眉を顰める。

と。


「……っ!」

「…………せっ!!」


シンのいる狭い路地から出た、少しだけ広い道から言い争うような声が聞こえた。

狭い路地にいても、どこか荒んだ空気の漂う町は、決して治安のいい場所とは言えなさそうだ。

シンは音を立てないように、そっと路地の端にすり寄って、声の方向を伺うように壁からそっと顔を覗かせた。


「はなっ…離してっ!こ、のっ!!」

「おら、暴れんじゃねぇ!!」

「ったく、売り物のくせに手間かけさせやがって!!」


女の声と男の声。

女は少し高めの声で、何となく聞き覚えがあったが、大きな布を深く被っているせいかよく姿が見えない。

男二人は形からするに奴隷商人か何かだろう、シンは不快を全面に浮かべて眉を顰めた。

どうやら女は彼らから逃げてきたらしい、三人は揉み合うようにしていたが、そこは男と女の力な上に男の方は二人がかりである。

髪を掴まれた女は、そのまま引きずられるように地面に倒され、押さえつけられていた。


が、シンはその髪の色に目を見開く。

それは薄暗い中でなお暗く夜の闇を思わせる、見事な程の黒髪だった。

未だ逃れることを諦めない女が、更に身を捩った瞬間、顔を覆っていた布と髪がさらりと落ちる。


その白い面を確認した瞬間、シンは路地を飛び出していた。









「大人しく…ぐっ!!」


なおも暴れる女に、男の一人が拳を振るおうとしたとき、突然受けた腹への衝撃に喉の奥からおかしな音をたてながら、もんどり打って地面へ倒れた。


「何だぁ!?てめぇっ!!」


突然のことに驚いたもう一人の男が、蹴りを放ったシンを確認した途端、醜く顔を歪めて彼に襲いかかる。

しかし、男が腰の鞭に手を掛けた瞬間、シンの拳が男の鳩尾にめり込んだ。


「ぐっ…がぁっ!!」


その衝撃に腹を庇うように崩れ落ちた男が、口から吐瀉物をまき散らしながら白目を向いて意識を飛ばす。

どちらも一撃で沈めたシンは、既に意識を失った男二人に構うことなく、慌てて蹲る女――リュウキの下へと駆け寄った。


「大丈…」

「っ!!いやああっ!!離せっ!離せーっ!!」


しかし、肩に手を掛けた途端、狂ったように暴れ出したリュウキに、シンが驚いて咄嗟に両腕を掴む。が、彼女の方は両手を拘束された事で、更に追いつめられた獣のように抵抗し始めた。


「やだっ!やだっ!!」

「おい!落ち着け!!」

「は、なせっ!離してっ!!」

「リュウキ!!」

「…っ!?」


ぐい、と腕を取って身体ごと自分と向き合わせながら、シンが大きく声を上げて彼女を呼ぶと、それまで必死に身を捩らせていたリュウキが、ぴたりと動きを止めた。

その顔を見れば、驚きに大きく目を見開いている。

が、シンも別の理由で驚いていた。


「……お前、リュウキ、か?」

「…なんで、私の名前…?」


至近距離で見つめた先の彼女の顔は、シンが記憶しているリュウキの顔よりも数段幼く、いつも人を射抜くような金の瞳は、まるで夜の闇を集めたような、彼女の髪と同じ黒い瞳をしていた。


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