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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
79/112

記憶 2

再び寝台に横になった子供が、不安げにリュウキを見上げた。

彼女は子供のすぐ隣、柔らかな寝台の上に片膝を立てて座っている。

その向かいには、ロウが腰掛けていた。

見守るのみのシンとシキ、コウリの三人は、少し遠巻きに寝台を見つめている。


『なにをするの?』


不安に揺れる黒い眼で、子供がリュウキを見上げた。

その声に、僅かに口端を上げてリュウキが微笑んで見せる。


『お前の記憶を探すんだ。』

『記憶?』

『そう。名前、思い出したいだろう?』


首を傾げた子供が、その言葉に僅かに目を見開き、次いで大きく頷いた。

縋るような目を受け止めたリュウキが、優しく子供の頭を撫でると、彼女は笑みを消し去りロウを見上げる。

強い視線を受けたロウがしっかりと頷き、子供の頭に乗せられているリュウキの手の上に己の手をかざして、すっと目を細めた。


「始めます。」


静かな声とともに、ロウの唇から流れるような言葉が零れ、僅かな呼吸音のみが響く部屋が彼の声で満たされていく。リュウキと子供の耳に届いたその声は、次第に二人の意識を奪っていくようで、彼らはともにゆっくりと目蓋を閉じていった。


子供の身体に入っていた力が抜けると同時に、傍らで座っていたリュウキも、子供の頭に手を添えたままとさりと音を立てて寝台に崩れ落ちた。















足の裏に何かが触れる感覚はなく、己の身体を支えるものはなかったのだが、不思議なことにリュウキの身体はゆっくりと、まるで重力がなくなってしまったかのように下へと進んでいた。

そう、落ちているというよりは、下に進んでいるという感覚だ。


周囲を見回せば、真っ暗な闇。

その中に、ぽつりぽつりと星のような光が浮かんでいる。

それらは、人の顔ほどの大きさのものから、針穴のように小さなものまで様々で、よく見るとうっすら何かしらの色がついているように思えた。

美しいというよりも、可愛らしいそれに、思わずリュウキの頬がゆるむ。


不意に、リュウキが足下のずっと下方を見下ろすと、それなりに大きな光だが、はっきりと輝く周りの光に比べ、どこかぼんやりと輝く光が見えた。

確かに光っているのだが、それは何と言うか、存在がとても希薄で、今にも消えてしまいそうに僅かにゆっくりと明滅している。

眉を顰めたリュウキが、どこか確信を持ってそれに近づくべく、ただ単純に宙に投げ出していた身体の向きを変え、その淡い光の方向へと意識を向けた。すると、その意に沿うように、彼女の身体もするりとそちらへ向かい始める。


まるで、いつか見た宇宙飛行士のようだと思いながら、リュウキは光の前まで近づいた。









淡い光の塊は、近づいてもその希薄さは変わらず、手を伸ばせば届く距離なのに遠くで輝く他の光の方が強い存在感を示していた。

まるで星を取り囲むガスのようにもやが掛かっているようだ。


リュウキは少し躊躇した後に、そっとその靄に手を伸ばし触れてみた。すると、それは抵抗もなく彼女の白い指を通す。水面の波紋のように指の周りに僅かな流れを作りながら、ゆっくりと靄が濃淡を見せた。

リュウキは注意深くそれを見つめながら、靄に差し入れた指をそっと横に薙ぐ。

靄はそれにあわせてすーっと横に流れ、一瞬できた指の軌跡の僅かな隙間から、目映い光が見えた。

それを見たリュウキが僅かに目を細める。


「…すまん、少し手荒にいくぞ。」


そう言って小さく詫びると、彼女は一度手を引き指を戻して、今度は両手をまっすぐ靄へと突き入れた。少し勢いをつけて突き入れられた手は、彼女の細い手首のところまで靄に飲み込まれている。その周りには、先ほどよりも大きな動きで、靄が波紋を作っていた。

リュウキはその状態で大きく息を吐き出すと、両手に魔力を集中させる。

そのまま左右に割り開くように大きく腕を動かすと、大小濃淡のある渦を作りながら、靄が左右へ散った。

腕を突き入れていた中央が大きく開け、そこから他の光よりもずっと強く目映い光が現れる。

あまりの眩しさに片目を閉じたリュウキは、しかし迷うことなくその光の中へと身体を進めた。


真っ白な光に彼女の身体が触れた瞬間、リュウキの身体は霧のように四散し、光の中へと吸い込まれていった。


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