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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
74/112

契約 1

「…どうしたんです?」


昨日、ボロボロの身体で城へ戻ったときよりも顔色の悪くなっているリュウキを見つめ、コウリが訝しげに首を傾げた。

傷も治り、一晩明けて魔力も大分回復したはずなので、もう少しましな顔色をしていると思ったのだ。


「…実は、シキが…。」


そんなコウリに、つい先ほど大将軍が行った暴挙を、口元を押さえたリュウキが簡潔に説明すると、彼は眉を顰めて大きな溜息を吐いた。


「まったく、あの方は…。身体が弱っているときにそんな消化の悪いものを与えるなんて。」


そうなのだ。

朝、シキがリュウキのためにと置いていった大量の食料は、何故か嫌がらせのように油物やら肉類ばかりだった。

シキとしては、血肉をつけろという意味だったのかもしれないが、朝っぱらからそんなものを突きつけられたリュウキはたまったものではない。

流石に少し残したものの、殆ど平らげた己を誰か褒めてほしいくらいだ。


「でしたら、今日は止めておきますか?」

「…いや、行く。」

「大丈夫なんですか?」

「うん、ただの食いすぎだし。」

「結構な顔色ですけど。」

「まぁ…動いているうちに消化するから。」


少し心配そうにこちらを伺うコウリに、そんなに酷い顔をしているだろうかとリュウキは己の頬に手を当てた。

とりあえず、朝食をとってから随分ゆっくりできたし、一応喉の辺りまで詰まっていたものも胃の入り口くらいまで収まったようなので、リュウキはゆっくりと立ち上がる。


実は今日、朝食を済ませてから、子供の様子を伺う傍らシンとコウリと共に、ロウ・ショウの見解を聞こうと思っていたのである。

コウリはその準備が整ったため、彼女を呼びに来たのだ。

ゆっくりと立ち上がり、僅かに首を回して大きく息を吐いたリュウキが、コウリに目を向ける。


「待たせてごめん、行こう。」


言葉に小さく頷いて返したコウリが、小さく笑みを浮かべて踵を返す。

部屋を出るコウリの後を追うように、リュウキは小走りで彼に続いた。








隣室に移ると、そこには既にシンとロウが、寝台の中で眠る子供を囲んでいた。

彼らはリュウキとコウリが入ってくると、すぐに気付いたようで、子供から入ってきた二人へと視線を移す。

まだ少し顔色が治っていなかったのか、シンがリュウキの顔を見るなり眉を顰めた。


「おい、大丈夫なのか?何で青いんだ。」


その言葉に苦笑を浮かべながら、リュウキとコウリは彼らに近づいた。

同じ事を何度も言うのが億劫な彼女は、コウリに説明を任せたいのか、彼に視線を送る。

コウリも彼女の視線の意味をすぐ理解したようで、小さく溜息を吐いて口を開いた。


「シキ様が、ロウの助言を曲解したようで。朝っぱらから大量の肉を食わされたそうですよ。」


溜息交じりのその言葉に、シンは呆れたように目を細め、ロウはしまったと言わんばかりに顔を歪めた。


「申し訳ありません、リュウキ様。私が余計なことを言ったばかりに。」


シキ様に悪気はないのです、と心底申し訳なさそうに謝罪するロウに、リュウキは苦笑を浮かべたまま片手でひらひらと制した。


「いいよ、シキのあれはいつものことだ。」


力のない笑いに、ますますロウが萎縮する。

実を言うと、ロウは根っからのシキ信者なので、密かにリュウキを想う上官に是非とも彼女の力になって株を上げてもらおうと、シキに助言をしたのだが。

どうやら説明が足りず、裏目に出てしまったらしい。

あとでシキ様に追加でしっかり話さなければと、決意を固めつつ、ロウは再び頭を下げた。


「だから気にするなって。それより子供はどんな感じだ?」


困ったように笑ったリュウキが、空気を換えてしまおうと本題に入った。

途端、崩れていたロウの顔が魔将軍の顔に戻る。


「はい、昨日少し潜らせてもらったのですが…。」

「混濁している意識に潜ったのか?」


ロウの言葉に、リュウキが目を見開いて眉を顰めた。

了承を得ている相手の意識に潜るならともかく、知人でもないどんな状態かも判らない相手の意識に潜るのはとても危険な行為だ。

場合によっては、相手の意識に取り込まれ、戻って来れなくなって廃人になってしまう。


「ふふ、ご心配ありがとうございます。ですが、これでも私は術師の長ですので。」


にっこりと笑うロウの紫暗の瞳には、確かな自信が浮かんでいた。

それを見たリュウキは続く言葉を呑み込み、話の腰を折ったことを謝る。

彼女の謝罪に笑みを浮かべて返したロウは、再び口を開いた。


「それでですね、興味深いことが判ったのですよ。」

「興味深いこと?」

「はい、王も宰相様もこちらへ。リュウキ様もこれをご覧ください。」


ロウに促された三人が、彼の長い指が指した先、子供の額を覗き込む。

そのままロウが何事か呟くと、子供の額の中心に何かの模様が浮かび上がった。


「これは…。」


魔術の陣とも違うその模様は、踊り子や盗賊が好んで入れる刺青に似ている。

ただ、何の形を模しているのか判らないが、リュウキには何かの渦のように見えた。


「これは、何だ?」


シンが訝しげに首を傾げながらロウに問う。


「これはおそらく契約の印。この子供はどうやら何者かに契約で縛られているようなのです。それもかなり強力な。魂ごと縛り付ける類のもので。」


その言葉に反応したのはリュウキだ。


「相手は特定できるのか?」

「それが…実は契約の絆がどうも一つではないらしく、しかもかなりの数でどうにも把握できませんでした。」


こんな無茶苦茶な契約初めて見ましたよ、と告げるロウに、リュウキが難しい顔で子供を見つめた。


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