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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
72/112

帰城

「まったく!単独で闇の腕に入るなど、何を考えているのです!?」


あまりにも予想通り過ぎる言葉に、リュウキが小さく溜息を吐いた。

それを目聡く見咎めたコウリが、更に眉を吊り上げる。


「…まったく解っていないようですね。」

「いや、反省してる!反省してるって!!」

「知っていますか、リュウキ。二度以上繰り返す言葉は大抵が嘘なのですよ?」

「はっ!?いやっ、そんなわけないだろ!!」


言葉を重ねるごとに目を細めるコウリに、リュウキは焦ったようにぶんぶんと手を振りながら喚いた。

シンと共に帰城したリュウキは、そのまま王城の自室で手当てを受けたあと寝台に押し込まれたまま動くことを禁じられている。

シンが出るときに手配してくれていたのか、医師を従えリュウキの部屋で待ち構えていたコウリとギィは、傷だらけのリュウキの姿を見るなり二人して鬼の形相に変わった。

治療を終えた後は、それから延々とコウリの説教を受けている。

その隣では、水や身の回りのものを整えているギィが、不穏な空気を漂わせていた。

そのまた後ろで一人椅子に腰掛けているシンは、当然の報いだと言わんばかりに黙り込んで目を瞑っている。

シロはというと、彼は特に外傷はなく、体力と魔力の消耗くらいなので特に何をするともなく、いつものようにとぐろを巻いて寝ていた。

ただし、普段リュウキの枕元で寝る彼は今、途切れることなく続く声から逃れるように窓辺に陣取っている。

そよそよと、心地よい風を受けながら、一人平和に眠る騰蛇を、リュウキは恨めしげにちらりと見つめた。








「あー、疲れた。」


ぼそりと呟かれた言葉に、杯に水を注いでいたギィが僅かに眉を顰めた。

そのまま彼は小さく溜息を吐きながらリュウキに杯を手渡す。

先ほどまで彼女に説教をしていた氷の宰相は、執務が残っているのか王と共に一端部屋を出て行った。また仕事が一段落したらこちらに来ると言い残して。

リュウキはというと、彼らが部屋を出た瞬間、あからさまにほっと胸を撫で下ろして肩の力を抜いたのだ。

そして今に至る。


「ありがとう、ギィ。」


渡された杯を受け取りながら、にっこりと笑顔を浮かべるリュウキに、今度は盛大にわざとらしくギィが溜息を吐いた。


「…もう一度コウリ様をお呼びしたほうがよさそうですね。」

「んな!?いやっ…何でだよ!!」


副官の無情な言葉に、リュウキが大きく目を見開いた。


「まったく反省の色が見受けられませんので。」

「そんなことはないだろ!さっきすっごい反省してたぞ!?」

「過去形じゃないですか。少しは持続させてください。」

「そうは言うがな…どれだけの時間聞いてたと思うんだ?」

「それだけのことをされたんですよ!」


まったくもう、と今日何度となく聞いた言葉を再び繰り返す。

喉元過ぎれば何とやら、おそらくこの上官は、何かあればまた同じようなことを繰り返すのだろう。

一体何人が彼女を心配してはらはらしているか、知っているのだろうか。

今度一人一人書面に整理して提出してやろうか、と本気で思うギィだった。





「で、子供はどうなったんだ?」


リュウキが帰城したとき、リュウキ自身はシンの手でこの部屋に運ばれたが、例の子供を運んだのはギィだ。

細心の注意を払うよう、もちろん警戒も怠らぬよう伝えて任せたが、子供は別室に運ばれたらしくここにはいない。


「お隣ですよ。リュウキ様共々僕がお世話することになってます。」

「あー、ごめんギィ。」

「まったくです。…今はロウ殿が見ておられますが、先ほど覗いた様子では、特に問題ないようですよ。」


リュウキは先達て、大まかにではあったが、子供について一通りのことを治療を受けながらシンとコウリ、それからギィに話していた。

だからこそ、国で一番魔術に精通しているロウ・ショウが子供のもとに呼ばれたのだろう。


「…何かわかればいいんだがな。」


小さな溜息は様々な思いを秘めている。

先ほど、子供について話はしたが、神々の贄についてと己がその次代の贄になるかもしれないということは言えなかった。

ただ、子供が世界の歪みを集めてることと、それが子供の意思ではないこと、子供の溜めていた歪みをシロの炎を使って浄化したことを告げたのみだ。

全てを話したときの反応は解りすぎるくらい解ってしまうのだが、話さないという道は選べない。それは、臣としても、家族としても彼らを裏切る行為だと理解していた。

逆の立場になれば、己とてしっかりと話してほしいと思うだろう。


「はぁ…」

「急いても結果は出ませんよ。今はゆっくりお休みください。」


解っているのかいないのか。

リュウキの頭の中が見えたような言葉に、リュウキは小さく苦笑を零した。


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