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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
68/112

山脈 8

リュウキの放った爆炎により、シロは煽られた風を掴んで山肌を僅かに離れ猛攻は僅かに緩まったものの、それでも突進してくるような風は収まらない。


「まるで子供を追っているようだ。」


眉を顰めたリュウキが吐き捨てるように呟き、腕の中の子供をしっかりと抱えなおした。


――かかってたもんは全部焼き尽くしたと思ったんだがな。


心底怪訝そうなシロの声が頭に響く。


「…魔術の類ではないんじゃないか?」


確かに、リュウキの言うとおり、シロは先ほどからこの攻撃の要となる魔術の陣を探してはいるが、気配すら感じられなかった。

全く訳が解らない。


――いや、待てよ。もしかしたら…


「何だよ、シロ。」


懲りずに雪山から伸びてくる雪と風の腕を避けながら、シロがポツリと呟いた。

その声にリュウキが首を傾げる。


――リュウキ、もしかしたらこれが、歪みの形なんじゃねぇか?


「…っ!」


魔術の気配も感じず、しかし明らかに自然に発生した風ではない。

世界の贄となっていた子供を中心に吹き寄せる風は、確かにそう言われてみれば納得できる。


――なら、俺の炎が効くかもしんねぇ。


シロの炎は浄化の炎。全てを正し、還す、終わりと始まりの焔。

リュウキは僅かに考え込むように顔を伏せた。


――俺のことなら気にすんなよ。まだ全然余裕だ。


「…でも、こんな短期間で二度も開放して、洞窟でも青炎を使っただろう?」


青炎とは、シロが普段使っている真っ白な炎よりもさらに高熱の炎である。

浄化の白い炎に比べ、滅多に使わない青い炎は正も邪も全てを巻き込んで消滅させ、無を生み出す炎だ。


――青炎までは使ってねぇ。だから大丈夫だ。


確かに、先ほど洞窟で使ったものは青白くはあったが、青いというほどではなかった。

リュウキは少しだけ戸惑うも、周囲を見回し腕の子供を見つめて一瞬目を閉じる。次いで開いた金の瞳には、決意の色が浮かんでいた。


「すまない、少し辛抱してくれ。」


――あぁ、気にすんな。その代わりしっかり一掃してくれよ!


その軽い言葉に、リュウキが小さく笑みを浮かべた。

しかしすぐに表情を消すと、大きく深呼吸してすっと目を細める。

赤い唇が薄く開かれ、白い右手がすらりと宙に掲げられた。


「始まりの息吹、終焉のうた、まわるまわる、輪廻の輪。等しく正しく総てを還せ……白炎っ!!」


流れるように、歌うように、魔力を交えながら言葉が紡がれる。

一つ一つが空気を震わせるように放たれたそれらは、最後の言葉が空に消えると同時にリュウキの右の掌に真っ白な陣となって姿を現した。美しく微細な陣は、強烈な光とともに巨大な魔力を放射する。

それは、シロが普段使っている白い浄化の炎だった。


しなやかな掌から放たれた炎は螺旋を描きながら、突風吹きすさぶ雪山の斜面にぶつかり、そのまま四方八方に広がっていく。

雪の大地から来襲していた、どこか淀みを伴った風を真っ白な炎が次から次に呑み込んでいた。

炎は目に見えないものを辿るように、しかし確かに何かを焼き尽くしながら斜面を広がる。

視界に入る範囲の全てを焼き尽くした白い炎が、きらきらと光の粒子を散らしながら四散するころには、先ほどまで荒れに荒れていた空気が嘘のように静まり返っていた。

真っ白な山脈に残ったのは炎で滅され凹凸を残した斜面と、ちらりちらりと天から舞う雪の粒だけである。


――上手くいったみたいだな。


「あぁ…大丈夫か?シロ。」


――おうよ!このくらいどってことねぇぜ。


誇らしげに告げる騰蛇に、リュウキが小さく笑うと、シロも安堵するようにほっと吐息を漏らした。

しばらく雪の斜面を眺めていたが、二人はすぐに表情を改め前方に向き直る。


「今のうちに、さっさと下りよう。」


――あぁ、そうだな。


僅かに警戒を残したリュウキの声に、シロはしっかりと応えると、そのままぐんと長い胴体をうねらせて一気に山を下っていった。











「なぁ、シロもう大丈夫だって。」


――うるせぇ。どうせだから森の入り口まで乗っかってろ。


無事山脈を離れ、闇の腕の上空に差し掛かった頃。

もう4、5回は交わされた問答に、シロが少し苛立ったように胴をくねらせた。


リュウキの予定としては、山脈の麓にたどり着いた時点でシロには通常の大きさに戻ってもらい、そこから子供を担ぎ徒歩で戻る予定だったのである。

彼女とて、このままシロに乗って戻るのが一番速く、安全だということは判っていたが、今回はシロの力をかなり使ってしまっている。それも短時間に、だ。

普段はシロを思う存分こき使っているように見えるリュウキだが、やはり長年連れ添ってきた相棒とあって、大事に思っているのだ。

対するシロも、リュウキの気持ちは解っているし、ありがたいとも思っている。そんな彼女だからこそ、憎まれ口を叩きながらも力になりたいと思っているのだ。

しかし、普段リュウキ自身の無茶っぷりに比べれば、このくらいの無理は無理の内に入らないだろうとも思う。ここぞというときに我侭を言わない彼女を支えられるときくらい、多少無理してでも力になりたかった。

まぁ、そんなことは一切口に出さないのがシロのシロたる所以なのだが。


渋々と口を閉ざすリュウキに、シロは小さく苦笑を漏らして大きく翼をはためかせた。

 

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