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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
62/112

山脈 3

ぎざぎざとそらに刃を向けるノコギリのような山脈の、一際高い一角の中心。

真っ白な雪原の中に、ぽつりと一箇所だけ、まるで黒子のような黒い点が見えた。

風に舞い上がる雪で視界を制限されていたため、リュウキもシロも最初は岩が顔を出しているのかと思ったが、近づくにつれそれがぽっかりと空いた穴、洞窟なのだということに気づく。

そうして、それを確認した瞬間、何故だか判らないが二人とも“そこ”であると瞬時に悟った。


「シロ。」


――あぁ。


リュウキの声にシロが同意を示し、そのまま前方の黒い点に真っ直ぐと向かう。

洞窟に近づくにつれ、それぞれが物凄い魔の気と言い知れぬ何かを感じ取ってていた。

どちらも口を噛み、全神経をそこへと集中する。


その黒い洞窟のすぐ手前、凹凸すら判断できないほど真っ白な雪面にシロはゆったりと着地した。

彼の翼が起こす風圧で、ぶわりと雪の粉が舞う。

そのまま長い尾を伸ばして洞窟前の雪をぐっと踏み固めると、そこに頭部を寄せてリュウキを促した。


「ありがとう。」


軽く礼を告げたリュウキが、シロから飛び降り踏み固められた雪の上にキレイに着地する。

雪は僅かに沈み、彼女の小さな足の形をくっきりと残した。

それを確認したシロが僅かに飛び上がって雪面から離れる。次いで、そっと目を閉じた瞬間、彼の周りを青白い炎が包んだ。

周囲の雪を蒸発させながら現れたのは、いつもの真珠色をした小さな騰蛇だった。

小さな金目をぱちぱちと瞬かせたあと、翼をはためかせてリュウキの横へと戻る。


「お疲れ様。」

「おう!」


にっとリュウキが笑みを見せると、シロも目を細めてにやりと笑った。

しかし、二人はすぐに目の前の洞窟に目を向け、浮かんでいた笑みを消し去る。


腰に揺れる愛刀を確認するように一撫でしたリュウキは、大きく息を吐き出すとそのまま慎重に足を踏み出した。







外から見ると黒い点だった洞窟は、入ってみれば意外と明るく、氷の壁がまるで淡い証明のように青白く輝いていた。とはいえ、入り口の光を反射したものだったので、明るいと言っても何とか視界が利く程度なのだが。

それでも、人より感覚の優れたリュウキやシロにとっては充分な明るさである。


ぱきぱき…ぱき…


先程、洞窟に足を踏み入れ外界の風音が遠のいた辺りから、二人の耳は不気味に響く小さな音を捉えていた。

おそらく氷にヒビが入っている音なのだろうが、洞窟を形成する上下左右の不透明な氷の壁は何処までも分厚く頑丈そうで、崩れているような気配は無い。


「奥からか…。」


緩く蛇行している洞窟は奥に進むに連れて光が届かなくなり、だんだんと視界が暗くなってきている。まるで黄泉への入り口のようだと思いながら、リュウキは何が出てきてもすぐに対応できるよう神経を尖らせていた。

しかし、どれだけ進んでも魔獣は愚か、生物の気配すらない。


ぱき…ぱききき…ぴし…


変化といえば、この音が大きくなるくらいか。





「リュウキ。」

「…あぁ。」


そうこうしているうちに、どうやら洞窟の最深部に辿りついてしまったようだ。

眉を潜めるリュウキの目の前には、前方を大きく塞ぐ分厚い氷の壁が広がっていた。

リュウキは首を廻らせ壁を見定めると、そのまま警戒しつつも近づいてそっと手を伸ばす。

流石に薄暗くてよく判らないが、洞窟を形成する氷の壁とは少し質が違うようだった。

更に、至近で感じるぱきぱきという音と、足元に降り積もった氷の欠片を見て、崩れかけていたのはこれだったのかと得心する。


リュウキは再び壁から数歩はなれて距離をとると、左手を前方に掲げて何事か小さく呟いた。

彼女の言葉が途切れると同時に、上向けた白い掌の上にぽっと温かな光が生まれる。

その光はほんわりと輝き、彼女の周囲、目前の氷の壁の全容が判るくらいの範囲をしっかりと照らし出した。


「…っ!」

「なんだ…こりゃあ…?」


表れたのは、やはり周囲の壁とは違い透明感を持った青みを帯びた氷の壁。

そこには、幾筋もの白いヒビが蜘蛛の巣状に入り、所々が欠け落ちていた。

しかし二人が目を奪われたのは、氷の壁の向こう側。


青い氷の中で、ゆらり、ゆらりと揺らめく黒い影は、まさしく“ヒト”の形をしていた。


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