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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
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調査 2

自室に帰るなり、ギィに先ほどの件を伝えると、見るからに不満そうな顔をされた。

が、理由が理由なので納得しざるを得なかったらしい、いつ出るのかと聞かれたので今日の夜にでもと応えると、彼は大きな溜息を漏らす。


「はぁ。結局また僕が机仕事ですか。」


恨めしげに上官を見上げるギィに、リュウキは少しだけ申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。


「あぁ、毎回悪いな。私の副官になったのが運の尽きと諦めてくれ。」

「まぁいいですけどね…別にもう慣れましたし。」

「ははは、やー、優秀な副官持つと安心して動けるからいいな。」

「煽てても何も出ませんからね。僕じゃできないものはきっちり一週間分残しておきますから。」


そのおつもりで、としっかり告げられた言葉にリュウキが僅かに頬を引きつらせる。この様子では、一週間後帰って来たときには、また先ほどまでの地獄の時間を味わうことになりそうだ。


「ギィ。私の印を預けていくから。全部お前の判断に任せる。」

「そういう問題ではありません。ていうか、ばれたら懲罰ものですよ。」

「ばれなきゃいいんだ、ばれなきゃ。」

「ばれるに決まってるじゃないですか。何で居ない人の印があるのか突っ込まれます。」

「むぅ…何て融通の利かない職場だ。」


唇を尖らせて不満を言うリュウキに、ギィは再び深い溜息を吐いた。

彼女の大らかなところは長所でもあるが、こと書類仕事となるとこの大雑把さが短所になる。それもかなりの。

だからこそ文官を輩出している家の息子である己が、彼女の下につけられたのだろうけれども。


「兎に角、何も判らない以上、もし必要ならちゃんと人を使ってくださいね。お怪我とかなさらないように。」


彼の言う人というのは、“影”の隊員のことだ。


「あぁ、分かったよ。世話をかけるが留守中よろしく頼む。」

「あ、アンクレット。忘れずに持っていってくださいね。」


その言葉にリュウキがピクリと動きを止めた。

アンクレットとは、遠征のときもリュウキがつけていた、装備していればその人間の正確な位置が判るという魔具だ。


「…何だかあれをつけていると、追跡されているようで落ち着かないんだが。」

「持っていってくださいね。」

「…わかった。」


副官の笑顔が怖い。

彼の背後に黒いものが見えた気がして、リュウキは小さく肩を震わせた。





「よし。準備完了。」


少なめの荷物にいつもの草色の外套、中は平民の衣装なので安い布でできている。普段、金色に輝き他を圧倒する瞳は、今魔術を使い当たり障りのない緑に変えられていた。同じく、髪もありふれた茶色に染めている。

“影”としてではなく、旅人として外を回るときのリュウキのいつもの格好だ。

シロは目立つのでこれもいつもどおり外套の下、リュウキの首に巻きついていた。


「取り敢えず、城下を一周してそのまま一気に山脈近くの村へ行こう。」

「闇の腕の近くか?」

「そうだな。検討もつかないから、怪しそうな所から攻めていこう。」


リュウキお得意の数を打てば当たるだろう戦法に、シロが小さく溜息をついた。何度も言うようだが、今回はそれが一番の方法なのだから仕方ない。

何だか釈然としないものを感じつつ、シロが小さく身じろいだ。


「当たればいいんだけどな。」

「一週間もあれば当たるだろう。」

「お前…ヒリュウだけでもどんだけ広いと思ってるんだ。」


気楽なリュウキの言葉に、呆れたようなシロの声が聞こえた。







兵舎横の厩には、それぞれ階級ごとに区切られた馬達が管理されている。

副隊長以上の者には個人用の馬が用意されており、リュウキにも彼女専用として管理されている馬がいた。

その馬はリュウキがヒリュウへ仕官した時にシンより贈られた馬で、少し小柄だが軍馬の中でも一、二を争う駿馬だった。


「今回もよろしく頼むぞ、クロ。」


光沢のある青毛の馬は、先日の奇襲でリーンが用意したものよりも硬質な輝きを放っている。ともすれば、それはまるで毛皮というよりも硝子細工のようだった。

青毛の馬はヒリュウでも珍しく、厩の殆どの馬は明るい色合いを持つものが多かったので、クロは一際目立っていた。

それはまるで己を見ているようで、リュウキは初めて顔を合わせたとき、すぐにこの馬に親近感を覚えたことを覚えている。


「…どうでもいいけど、その感性どうにかしろよ。」


ポツリと、首元から聞こえてきたのは溜息交じりのシロの言葉だ。

シロの名前もリュウキが付けた。そして彼女の馬の名前はクロである。

確かに傍から見れば安易過ぎるかもしれない。

思い返せば、この青毛の馬を彼女に贈った王も、リュウキの名付けたクロという名前に微妙な笑みを浮かべていた気がする。あの時の彼に今の打ち解けた気安さがあれば、間違いなくその感性に突っ込んでいたことだろう。


「何でだよ?特徴掴んでていいだろう、な?クロ。」


しかしその特殊な感性にリュウキ自身は気づいていない。

その上、名付けられた側である目の前の青毛の馬も、特に嫌がっている様子もなく、寧ろ呼ばれれば嬉しそうに駆け寄ってくるので周りはそれ以上何も言えないのである。

今のところ彼女の感性に難癖を付けるのは、被害者であるシロのみだ。

もう片方の被害者であるはずの馬は、シロの味方になるどころか加害者に顔を摺り寄せていた。


「…お前それでいいのかよ。」

「いいんだよ、なー?」


肯定するように鼻息を漏らしたクロに、リュウキは嬉しそうにぺしぺしと彼の頬を軽く叩いた。


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