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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
47/112

同盟

遠征軍が帰還してから五日後、三国の王がヒリュウに集まり今回の戦の終結を宣言すると共に、敗戦国であるレキに戦勝国であるヒリュウとリーンから盟約が提示された。


今回の立場を考えれば、その内容は全てヒリュウに偏ったものになってもおかしくはないのだが、ヒリュウ側が事前にリーンへ提示したものは、意外なことに三国の益を平等に考えたものだった。


中でも特に目を引いたのは、敗戦国に科せられるべき賠償金についてである。

実際に剣を交えることはなかったので、土地や人に対する賠償はなかったものの、二国を動かし、ヒリュウに置いては翼竜隊も出して多大な兵を動員されたので、無粋な話ではあるが、かかった費用はかなりの額になっている。

当然、賠償金としてレキが二国に献上する金銭や物品も相当なものになるだろうと思われていたし、レキ国にとっても頭の痛い問題だったのだ。


しかし、実際ヒリュウが出してきた内容はレキの懸念を裏切るものだった。

その内容は次の通りである。

まず、リーン国へこれまで襲撃してきた国境付近の町や村への復興費や保証金、そこへ派遣された人員にかかった費用を負担すること。そして今回の遠征で二国が消費した予算の半分を負担するというものだった。


確かに額を考えれば相当なものになるのだが、これは今まで類を見ない程の寛大な処置である。

少し甘すぎるという声も上がりはしたが、現在のレキ国で無理な賠償金を集めたところで、レキ国民の不満が高まるだけだということと、その他の条約で今後ヒリュウに有利な方向へ働くようにすることで皆納得させた。


この盟約を結ぶことで、ヒリュウはレキやリーンの国民の多大な支持を受けることになるだろう。

それこそ、名実共にこの大陸を統治する国として。


レキの国主にはリーンから信頼できる人材を送ってもらうことになった。名目上レキはヒリュウの属国となるが、実際支配するのはリーンである。


ヒリュウで行われた三国会談に出席したレキ王は、その王朝の最後の王として用意されていた三枚の書面に調印した。

王の血判を使ったその書面は、盟約が破棄された時以外で紛失しないように魔術がかかっており、そのまま各々の国で大切に保管されることになる。


全てを済ませたレキ王は、何かから解放されたように表情が抜け落ちていた。

それは重責から逃れられた安堵だったのか、はたまた一国の王という地位を失ったが故の絶望だったのか、おそらくそのどちらもだったのだろう。


淡々と進む会談を宰相の隣で見つめていたリュウキには、彼の人は他の二国の王に比べてあまりにも凡庸に見えた。









「それにしても、流石、としか言いようがありませんな。」


リーン国王、カルドゥス・リーンが癖のある栗毛をかき上げながら感嘆の息をついた。


「ありがとうございます。しかし、私などカルドゥス王に比べれば、まだまだ雛鳥の域でしょう。」


ゆったりと笑みを浮かべて言葉を返すのは、ヒリュウ国王シン・ヒリュウである。

三国会談の後、必要な手続きを済ませるために数日ヒリュウに滞在したレキ王は、戦後処理をするため二国の王に失礼でない程度の挨拶を済ませて早々に国へと戻った。

カルドゥス王も明日には帰国することになっている。


帰国を控えた前夜、年は違えど国を治める二人の賢王は、顔を突き合わせて酒を酌み交わしていた。

御年67の老王は、目の前の年若い王に先ほどから感嘆の声を連発している。

その目は心底本気の色を見せており、どうやら世辞ではなく心からの意を伝えているらしい。流石にこそばゆいのか、珍しくもシンが照れたような苦笑を浮かべて杯を重ねていた。

彼の隣には、王弟であるシキが、背後にはコウリが控えている。

リュウキも声をかけられたが、王族同士の席に割って入るのもどうかと思った彼女は丁重に辞退していた。


しばらく取り留めのない話を続けていた二人だが、不意に杯を置いたカルドゥス王がシンを見た。空気の変化を聡く感じたシンも杯を置いてカルドゥス王に目を向ける。


「シン王よ。先日、シャルシュ王女にお会いしました。」


妹姫の名に、隣で聞いていたシキがピクリと肩を揺らす。


「我が最愛の妹は如何でしたか?」

「とても素晴らしい姫だ。」


しっかりと告げられた言葉は、確かにシンを満足させるものだった。

同盟を結ぶ折、リーン王太子の元へヒリュウ第一王女が嫁ぐことは既に彼の国へ打診されてる。

また終戦の宴を開いた際、シャルシュもリーン王に会っていたが、その後改めて挨拶に行ったようだった。


「美しく、知に溢れ、己というものを知っている。」


どうやら自分たちの自慢の妹は、その溢れる魅力を持って彼の賢王をも虜にしたらしい。カルドゥス王の言葉の端々に、シャルシュへの好感が溢れていた。


「是非、我が王太子妃に欲しい。」


すっと細まった瑠璃色の瞳がしっかりとシンを見据える。

己が招いたこととはいえ、シンは少し複雑な思いだった。


王としては望ましい言葉。

兄としては望まない言葉。

救いはシャルシュが未だ恋を知らないということだろうか。

未来の王妃という確かな地位を約束されたことに安堵を覚えつつも、どこか寂しさを感じずにはいられない。

シンはしばし目を閉じて、何かを噛み締めるように小さく息を漏らした後、しっかりと一対の瑠璃を見据えた。


「我がヒリュウの大事な玉。しかとお頼み申し上げる。」






これにより、リーン王太子にヒリュウ第一王女が嫁ぐという、二国間の婚姻による固い同盟が結ばれることとなる。

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