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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
46/112

白い夢と黒い子供



どこまでも白い空間で、小さな影が佇む。


少年とも少女ともつかぬその子供は、闇を集めたような黒髪を背丈よりも伸ばし、白い地面に墨を零したような流れを作り出していた。


子供はこちらに背を向けたままぴくりとも動かない。

ただ、何かを求めるように白いだけの頭上を見上げるのみである。



どこか心を締め付けられるようなその光景に、子供を抱き寄せようと近づくが、いくら足を動かしても子供に近づくことはできず、その小さな命を孤独で縛る白い空間に苛立ちを覚えた。


が、次の瞬間。



――――ざわり



足元から背を駆け上がるように悪寒が走る。

全身が震え、開いた毛穴からぶわりと汗が滲むのが解った。


何だこれは。


身体全体で警戒しながら視線を向けたのは、子供の真っ黒な髪。


ただの黒だと思われたその髪をじっと見つめてみると、その黒の中にぞわぞわと蠢く何かが見えた。

それを認識した途端、更に全身が総毛立つ。


何かが、いる。


白い空間に広がる闇の中に、何かが。


闇がずるりと動くと同時に、子供がゆっくりと振り向いた。





一対の黒い眼が、リュウキを虚ろに見つめていた。















シロと契約してから、リュウキの身体には様々な変化があった。

その最たるものとして、誰が見ても判る黄金きん色の目である。

彼女がシロと初めて出会い、彼と魂を繋ぐ契約をした瞬間からリュウキの瞳は黒から金に色を変えた。

それと共に、彼女の持つ魔力の量もぐんと上がり、身体能力や身体の頑丈さにも影響した。

竜ほどとは言わないが、野生の獣並の動きや回復力を持っている。


その物理的な変化とは別に、精神的な面でも変化はあった。

一つが感受性である。

それは肉体的な感覚ではなく、気配というか雰囲気というか、いうなれば第六感的な感覚だろうか。

リュウキはしばしば、ただの夢とは思えないような何かを見ることがあった。

それは彼女の過去であったり、未来であったり、または彼女の与り知らぬところであったりと様々である。


シロに尋ねれば、どうやらやはり彼の影響らしく。

シロは全知とまでは行かないが、何かを察知する能力に長けているので、それが夢という形で表れたのだと言っていた。

そういうわけで、彼女はいつもたかが夢と決め付けず、何か違ったものを見たときは必ずシロに相談するようにしていた。





「子供…ねぇ。」

「あぁ、多分十歳前後くらいかな。性別は判らなかったが…綺麗な顔をしてたから女の子かな。」

「いや、そりゃあ判んねぇぞ。綺麗な男なんて探せばいくらでもいるだろ?」

「まぁ、確かに…」


探さなくても、身近にいるのだがとリュウキは思う。

王すら言い負かすヒリュウの宰相殿のことである。


「いい感じはしなかったんだよな?」

「あぁ、久しぶりに怖いと思ったぞ。」

「へぇ。」


本当に珍しいと思ったのか、シロが丸い目を更に丸くして驚いた。


「黒い髪、黒い瞳、まるで俺と会う前のお前みたいだな。」

「…確かに、言われてみれば顔も何となく日本人のようだったような…」


そう、夢から覚める瞬間、最後にこちらを見つめた顔は、まるで彼女の知る人種のような作りをしていた。


「私と修也以外にこの世界に落ちた人間がいるということか?」

「うーん、まぁありえないことはないけど…」


でも滅多に無いことなんだと、シロが眉を寄せて唸る。


「落ち着いたらちょっと外を回ってみるか。」


その様子にリュウキも首を捻りながら、溜息をつきつつ呟いた。

明らかに不吉な夢を放って置く訳には行かない。

宰相補佐という重要な地位についているものの、ある程度の自由を許されているリュウキは、影の任務に託けて時々好きに国内や諸国を回っている。

まぁ、そう長い時間城を空けるわけにはいかないので、寄り道程度のものなのだが、それによって彼女が持ち込む情報は、なかなか馬鹿にできないものだった。

そのため、シンやコウリは自重するように度々注意を促すものの、完全に禁止するということはない。

リュウキもそれを理解しているので、害にならない程度の寄り道を楽しんでいた。

実害を受けて迷惑しているのは、彼女の副官であるギィだけである。


直接会話はしないものの、リュウキのせいでいつも書類仕事を抱えている哀れな副官に、リュウキ以外に興味の無いシロにしては珍しく同情した。


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