奇襲 4
「援護しろ!」
声と共に踏み出したリュウキが、エウリュアレーの首に向かって飛び掛り、目にも止まらぬ速さでサーベルを一閃する。
アレーの首筋を切り裂いたと思われた刃は、しかし再び現れた巨大な茨に阻まれていた。
蔓は色も形も巨大なだけの植物のはずなのに、異常なほどの硬度を持っているようで蔓に生えた鋭い棘で彼女の攻撃を受け止めていた。
小さく舌打ちしたリュウキはそのままサーベルを引いて一端着地し身を低くする。と、そこにどこから湧いてきたのか、今度は人の脚程の太さの茨の蔓が八方から襲い掛かっていた。彼女はそれを紙一重で避ける。
と、そこにいきなり炎が上がり、リュウキを捕らえようとしていた蔓を一気に包んだ。
見れば、エウリュアレーと距離をとりながら取り囲むように立った影達がそれぞれの方向から炎の陣を張っている。
「…邪魔な小虫ね。」
少し不快そうに眉を寄せたエウリュアレーが右手をすいと横に凪ぐ。すると、その軌跡を辿るようにアレーの周囲から紫色の煙が立ち上った。
いち早くその正体に気づいたリュウキがはっと振り向く。
「ギィ!!」
「お任せを!」
鋭い声に答えたギィが何事か呟く。次いで両手を左右に突き出し周囲の空気を混ぜるようにその手を正面に戻した。
「押し流せ!!」
声と同時にギィの両手から大量の水が放射される。それはアレーの足元から上がった煙を包み込み、そのまま床に縫い付けるようにばしゃんと音を立てて落ちた。
それと同時にギィの両側に居た二人が呪文を唱える。すると今度はエウリュアレーを冷気が包み、彼女の周りの空気が薄っすらと霞み始めた。
「ふん、その程度の魔力で私を捕らえられるとでも?」
パキパキと凍り始めた自らの足元を見つめ、エウリュアレーが鬱陶しそうに呟く。
次いで両手を斜め下に構えそのままゆっくりと掲げると、その動きに合わせて凍った床を割り開き新しい茨の蔓が出現した。
それらはアレーを縛り始めていた氷をバキバキと割りながら天井付近まで蔓を伸ばす。
リュウキたちは一端距離をとるために、一足飛びに後方へと下がった。リュウキは影達に視線を送り小さく頷く。
「焼き尽くせ!!」
彼女の掛け声と共に全員が手をアレーに向け魔力を放出した。同時に、エウリュアレーを取り囲むように伸びていた蔓が一斉にリュウキ達に向かって伸びてくる。
彼らの中央で、炎と茨がぶつかり合った。
メラメラと燃え落ちていく茨の蔓は、しかし後から後から生え続け、炎を突破しようと蠢いている。
とうとうそのうちの三本が炎の壁を越えて影たちに迫る。が、彼らは逃げることなく魔力を放出し続けた。
ザン―――――
と、荒々しい音と共に舞ったのは三本の蔓。
サーベルを素早く薙いで蔓を切り落としたリュウキが、そのままの素早く武器を逆手に持ち腰を屈めて矢を射るような格好を取りながら弓を引く。
「貫けっ」
その流れる動作の軌跡を辿るように、彼女の指を真っ白な光の線が繋いだ。それはまるで純白の弓矢のようだった。
彼女がその矢を放つように手を開くと、低い位置からエウリュアレーに向かって真っ白な光の矢が放たれる。それは炎をくぐり茨の蔓を縫ってアレーの胸元を真っ直ぐに目指していた。
バシュウッと音を立てて、それが化け物の胸を貫く…かに見えた。
「ふふ…いいわ、やっぱり素敵。」
が、後僅かのところでエウリュアレーの目の前に伸びた蔓に阻まれる。
リュウキは予想していたようで大して気にせず、更に次の矢を構えた。
今度は引くほうの指を全て開いた状態で弓引き、矢を放つように振り絞っていた手を弾く。すると先ほどと同じ光の矢が五本一気に放たれた。射抜くことを確認せずに、リュウキはそれを連続で行う。
エウリュアレーの身に光の矢の雨が降り注いだ。
「やれ!!」
その矢の勢いに、炎に対抗していた茨の勢いが弱まり、アレーを庇うように彼女の周りに茨が集中する。それを見逃さず、リュウキは炎を出していた部下達に大きく声をかけながら、自らも更に弓を引いた。
炎と光の矢の豪雨に見舞われたアレーの姿は黒煙で隠れ、それでもリュウキたちは攻撃を止めなかった。
魔力の大量放出に、影達が額に汗を浮かべ始めた頃、リュウキが矢を放つのを止めて立ち上がり違う呪文を口にして空気を裂くように右手を軽く薙いだ。
「やったか?」
少し離れたところからは誰の口からかそんな呟きが零れ、リュウキが手を動かすと同時にエウリュアレーがいるだろう正面に充満していた煙が突風に払われる。
風は煙を散らすと共にリュウキたちの前に見えない壁を作った。
と、次の瞬間流れていた煙を裂くように一本の茨が物凄い勢いで伸びてきた。
それは風の結界に阻まれ速度を緩めながらも無差別に彼らを絡め取ろうと迫る。リュウキはそれを阻止しようと両手を正面に突き出し、茨の向かう方向へと魔力を放出した。