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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
35/112

奇襲 1

彼女の姿が見えない。


少し苛立ったような吐息を零し、水盆の前に佇み両手をかざして己の魔力を送り込む。

それは水を通してレキの南西側からリーンにじわりと広がり、そこの情報を吸い取ってエウリュアレーの知りたいことを伴い彼女の下に還ってくるはずだった。確かに水盆は、彼女にいくつかの情報を与えてくれるが、アレーが最も知りたい輝きの姿がどこにもないのだ。

もしや、ヒリュウに戻ったのだろうか。否、とすぐにその考えを否定する。

茨に捕らえられ、それでもなお己を睨み付けていたあの目は、必ず彼女が再びアレーを殺しにくることを伝えていた。そう、あの太陽のような気高き光が、受けた屈辱を晴らすことなく逃げ帰ることなどありえないのだ。


アレーの中には確信があった。


おそらく、不可視の術でもかけているのだろう。流石東の大国、あちらの術師もかなりの力を持っているので、その者たちの仕業だとアレーは考える。

それが示すことはただ一つ。彼女の望むものが既に動き始めているということ。

あれが己の下へ向かっている。

そう考えただけでアレーは幸せな気分になった。


早く、早くと、まるであの男のように気持ちばかりが急く。

あの男に伝える必要はない。彼女が来るならば、あの男はもう用済みである。それに、次はもう逃がすつもりもない。

あの輝きをもう一度この闇に捕らえ、この醜い身体を捨てて彼女と一つになるのだ。


それが闇に繋がれた哀れなゴルゴネス、エウリュアレーの唯一つの望みだった。










「捜索班は南側から侵入後二人一組で散開、私たちは西側から棟の最上階、まずは魔術師長を押さえる。」


自らの耳に納まっている通信用の魔具に手を添え、リュウキが囁くような声で告げた。

別働隊も既にレキの王城に侵入し、潜伏しているので魔具の効果が届く距離にいる。それを示すように、彼女の魔具から応の声が僅かに届いた。別働隊を任せた影の三席である。

先日リュウキが侵入した研究棟の前に、再び彼女は立っていた。

あの時と違うのは、一人ではないということ。単独行動の多い影だが、彼らの結束は固かった。

それぞれがそれぞれを支えあい、信頼しつつ任務をこなしている。リュウキとて、何も一人で全て片付けようなどと傲慢なことは思っていない。己一人の力など所詮微々たるものだと理解しているのだ。

任務を遂行することこそ第一。

そんな彼女にとってこれほど心強いことはなかった。





「シロ、頼む。」


了承を伝えるように、にゅっと首元から姿を現したシロが、呪文を唱える。


「遮断する。」


言葉と共にシロの金色の目が一瞬輝き、魔術師の巣窟であるレキの研究棟を透明な陣が包んだ。

範囲に比例してかなりの魔力を消耗するこの陣は、陣の中と外の空間を完全に遮断する。陣を敷いている間は魔力を消耗し続けるため、リュウキは滅多に頼まないのだが、今回はそうも言っていられない。

陣が広がり、建物をすっぽりと飲み込んだことを確認したリュウキは、一旦深く呼吸をして睨むように目前の建物を見上げた。


「行くぞ!」


囁くような声は、しかし確かな力を持ち“影”たちの背中を押すようにしっかりと響いた。





建物内は、前回同様しんと静まり返っていた。


かなり広い建物なので、全ての気配を把握しきれるわけではないが、それでも静か過ぎた。

先日の失敗もあり、リュウキはかなり警戒しつつ先へと進む。

まず目指すのは最上階の魔術師長の部屋だ。

馬鹿と煙は何とやら、とはよく言ったもので、どうやらここの長も高いところが好きらしい。

前回の調査中、無理な徴兵令を出しているのは魔術師長であることが判っていた。彼女にしてみれば、その事実だけでも彼の人間が大馬鹿者であると判断するに足りる。

あの化け物を管理しているのもおそらくその人物だろう。

一応他の可能性も考えてはいるが、あれだけの化け物を魔術師長の目を掻い潜って留めているとは思えない。それに、そんな力のあるものをただ放置しているとも思えなかった。

おそらくどこかに隠しているのだろう。陣を張ったどこかの部屋に。

それを聞き出すためにも、まずは魔術師長だ。

リュウキはちらりと背後のギィたちを確認すると、そのまま一気に最上階を目指した。


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