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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
34/112

作戦開始

夜明け前の広場に少し冷たい風が通り抜けた。

一年の殆どを温かな気候で過ごすヒリュウの兵たちにとっては、少し寒いくらいかもしれない。

しかし、日本の四季に対応してきたリュウキにとっては、寧ろ気持ちの良いくらいの風が吹いていた。


雨が落ちてくるほどではないが空は分厚い雲に覆われ、おそらく朝日が昇ったとしても、その温かな光が大地に届くことは無いだろう。これから奇襲をかけるにはちょうど良い天候だ。


今、リーン王城の兵舎正面には、リュウキ含め三十名の武官に扮した影たちが、黒髪を風に靡かせながら凛と立つ彼女の背後で整列して頭を垂れている。

それぞれの隣には彼らの騎乗する馬が佇んでいた。

そして彼らの正面にはカルドゥス王とシキが、その両隣に近衛を従えた王太子以下全ての王子、王女たちの姿が見え、第一王女であるライラの隣りには、何か言いたげにこちらを見つめる修也の姿もある。

ちらりと一瞬視線を横に凪いだだけで全ての顔を把握したリュウキが、改めてしっかりと王に視線を向けた。


「これより我ら三十名、必ずやレキの思惑を打ち砕き、彼の国への道を切り開いてまいります。」


高すぎず、低くも無い、よく通る澄んだ声が広場に響く。

それは、しっかりとした意思を持ち、背後に跪くリュウキの部下達の耳にも届いた。そのリュウキの覚悟の滲む声に、王がしっかりと頷く。


「ヒリュウの精鋭たちよ、務めを果たし、必ず生きてこの地に戻られよ。」


武運を祈る、そう続けられた言葉にリュウキは短いがはっきりとした声で応え、そのままくるりと踵を返して手を掲げると、二十九名が一斉に馬に騎乗した。

それを確認したリュウキが、自らも隣に佇む青毛の馬にひらりと跨る。

僅かに手綱を引き、馬を斜めに向かせてシキにしっかりと視線を合わせると、彼は力強く頷いて応えた。


「出立!」


大きく声を張り上げたリュウキは、馬の腹に踵を強く打ちつけて一気に走り出す。

それに続くように他の隊員が綺麗に列を成して駆け出した。


彼らが走り去った広場を、朝の冷たい風が吹き抜けていった。





「頼んだぞ、リュウキ。」


目の前を通過する一瞬、しっかりと自分に目を合わせて駆け抜けていったリュウキは、あのいつもの強気な笑みを浮かべて笑っていた。その笑みをしかと目に焼きつけ、心に刻むようにシキは目を閉じしばし俯く。


「優秀な、副官だ。」


彼女が去った方向を眩しそうに見つめながら声をかけたのは、王太子ジャン・リーンだった。その隣には他の王子や王女たちも同じ方向を見つめている。


「えぇ、あいつは優秀で、大事なヒリュウの家族ですから。」

「随分信頼しておられるんだな。黒翼…流浪の傭兵は何故ヒリュウに?」


ジャンの言葉に、ぴくりと片眉を上げ、ついでふっと小さく笑みを零したシキは、ゆっくりと彼に振り返った。

流浪の傭兵、黒翼は三年前のリュウキの姿。

聖なる色を宿した無敵の魔法騎士の噂は余程の田舎で無い限り知らない者はいなかった。また、彼女を己の騎士にしようと大陸中の領主、更には国主が黒翼を求めたのだ。


彼女を得ることができたことは、本当に幸運だったと思う。その反面、リュウキの居場所はヒリュウしかないという根拠の無い確信をシキは持っていた。

それは、他国がリュウキを黒翼として求めたのに対し、彼らが彼女を唯のリュウキとしてヒリュウの一員に求めたということも大きく関係しているだろう。彼女も黒翼としてではなく、リュウキとしてヒリュウで生きることを選んでくれたのだから。

それはシキ達にとって、とても誇らしいことだった。


「黒翼は戦場ではなく、一人の人間として帰る場所を求めていたからですよ。」


そう、それがヒリュウだった。ただ、それだけのこと。

そして彼女は今、帰る場所を守るために剣を取り戦っているのだ。

シキは再び、彼女が去った方向を見つめて、そっと目を細めた。


広い大陸で、大きな戦が幕を開けようとしている。

ある者は、私欲を叶えるために。

ある者は、迫り来る闇に抗うために。


山脈を股に掛けた人間の欲望が、動き始めようとしていた。













ぶるるる、と馬が顔を打ち振るい、目前の岩場に足を止めた。

リュウキは宥めるように闇色の毛を撫でると、軽やかに背から下りる。それと同時に背後に続いていた数名の影も、同じく馬から下りた。

リュウキはしばらく岩場を見つめ、次いで彼らを振り返った。


「皆、これより徒歩でレキに入る。」


彼女の声に、言葉を発することなくそれぞれが一斉に頷いた。

今、彼女の前にいるのは九名。リーンを出たときに比べ、その人数は彼女を含めちょうど三分の一になっていた。


ここは先日渡ったグウレイグ河付近の岩場。

リュウキはここに入る前に、彼女の率いていた部隊を二つに分けた。それぞれ二箇所から渡河し、三分の二の人数で編成した班は転移陣の捜索と破壊を、ギィを含むリュウキの少数班は化け物討伐を主に動くことになっている。

最低でも転移の陣の破壊を、できるならば化け物とそれらを作り出した魔術師の始末も。それが今回リュウキたちに課せられた任務だ。なので、彼女は捜索と破壊の班に人数をかけ、化け物と術師の討伐には魔力と戦闘に長けた者たちを当てた。

彼らはそれぞれ通信用の魔具を持ち、いつでも連絡が取れるようになっていた。


「河を渡ったら一気に王城へ向かう。各々覚悟してついて来い!」


強い言葉に全員が跪き、深く頭を下げた。

それに応えるようにしっかりと頷いたリュウキが踵を返すと彼らもすぐに立ち上がり、彼女を先頭に黒い岩場へと姿を消した。



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