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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
33/112

リーン 5

リュウキとシキが通されたのは、王の間と呼ばれる謁見用の広間だった。

広間には、王だけでなく王太子はじめ宰相や今回の戦に関る武官の長たちが揃っている。実は、王への謁見を申し入れる折、進軍の作戦変更に関ることを相談したいということと、それに伴い関係する人間を集めて欲しいことを伝えていたのだ。

二人は広間に入るなり周りを見回すと、そのまま王の座る玉座の前まで進んだ。次いで流れるように膝を折る。シキは中央、王の正面に、リュウキはシキの斜め後ろに控える形で礼をとった。


「突然の謁見の申し入れ、真に失礼仕る。リーン王には、多大なご配慮を頂き感謝いたします。」

「いや、こちらが世話になっていること故、気に召されるな。それより、何やらレキで不穏な動きがあったとか…」


早々に口上を切り上げ、本題に入ってくれたカルドゥス王に、再び頭を下げたシキが大きく通る声で言葉に答えた。それはリュウキが先ほどヒリュウに飛ばした書簡に書かれていた内容とほぼ同じだが、影の存在を省いたものだ。


「ならば、現在こちらに向かっているヒリュウ本隊を動かさず、まずは小隊で奇襲をかけるということか。」

「御意にございます。」


奇襲部隊はヒリュウの術師隊と騎士団の精鋭。まずは彼らにレキの思惑を阻止し、万全の状態で本隊を動かす。そうシキは説明した。

実際のところ、奇襲部隊は“影”が務めるが、そこは言わずとも作戦は伝わる。


「奇襲部隊が揃うのは今夜。体勢を整え、明朝には出立いたします。」


一通りの報告を終え、了承の意をもらうとシキは再び頭を下げた。

明日、リュウキ達がレキに潜り込み全てを片付ければ、ヒリュウの本隊もリーンの騎士たちも一気にレキに攻め入ることが出来る。

この戦の要であるリュウキは、王とシキのやり取りを聞きながら、確実に任務を果たせるよう頭の中で起こりうる全ての事象を繰り返し想定していた。










日も沈み、城の所々に松明が灯る頃。

リーン王城の敷地内、広い兵舎の広場には港を経由して渡ってきたヒリュウの騎士団が勢ぞろいしていた。彼らは予定通り、明日の午後リュウキ達が凱旋するまで待機である。

それと殆ど時を同じくして、ヒリュウから影の増援部隊も到着した。

こちらは、山脈を越え城下町間近の人気の無い荒地まで竜騎士に運んでもらった後、そのままリーン王城に忍び込み、到着していたヒリュウの騎士団に紛れるように待機しているらしい。

兵舎の様子を見に来ていたギィから報告があった。


「これで全て揃ったな。」


シキが小さく息を吐きながら呟く。それに応えるようにリュウキがしっかりと頷いた。


「明日の明朝、騎士と術師に扮した部下を連れてレキへ向かう。」

「あぁ、頼むぞリュウキ。」


任せろ、と応える彼女の傍にはギィが真剣な顔で立っていた。彼もリュウキと共にリーンへ向かうので、明日は術師の格好に扮して行動する予定だ。

因みに、敵の目を眩ます為、明朝出発前にロウに不可視の術をかけてもらうことになっている。


「あぁ、そうだ。さっき騎士団の奴らが兄上からの書状を持ってきたぞ。」


不意に思い出したように告げたシキが、懐をもそもそと探り始めた。

そこから出てきたのは、光沢のある綺麗な紐で巻かれた真っ白な紙だ。


「また…高そうな紙だな。重要書類か?」

「いや、単なる…まぁ読めば解る。」


それを見るなり眉を顰めたリュウキの一言に、シキが苦笑を浮かべて書状を手渡す。リュウキは胡散臭げに彼を見やりながらも、紐を解いてくるくると書状を広げた。

そこに並ぶ見覚えのある文字に少しだけ表情を緩めながらも、読み進めるうちにだんだんと眉を寄せる。


「…ただの小言じゃないか。」


そう、内容は全て、リュウキの身を案じる言葉と、今回の奇襲について充分に気をつけるようにという言葉に始終していた。

王が自ら筆を取ってくれた上に、己を気遣ってくれていることがありありと解る文面だ。嬉しくないはずがない。嬉しくないはずがないのだが、如何せん、このての書状にこんな高級な紙を使うのは如何なものか。

リュウキは溜息をついて頭痛に耐えるようにこめかみに指を添えた。


「まぁ、ほら兄上も王じゃなかったら自分が先陣切って戦いたいくらいなんだろうし。」

「そんなに前線で戦いたいのか?」

「いや、そういう訳じゃ…。」


お前を守りたいんだ、という言葉は口が裂けても言えないシキは、語尾をにごらせたまま黙り込んだ。それを見たリュウキが僅かに目を瞬かせ、次いで解っているとばかりに苦笑を浮かべる。


「…まったく、私には何人父親がいるんだか。みんな心配性ばっかりだな。」


“守りたい”という気持ちは伝わったらしいが、明らかに理解の方向性が間違っている。

何度も思うが、せめて父親は止めてくれと、がっくりと肩を落として溜息をつくシキの内心に気づくことなく、リュウキが照れたように小さく笑った。

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