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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
28/112

一時撤退 2

「悪かったよギィ。」


黙々と作業をする己の副官を見つめながら、ばつが悪そうにリュウキが呟いた。

無言で腕をとっては怪我の有無を確認し、脚を眺めてはおかしなところがないか確認したギィは、顔にありありと不服を浮かべたままリュウキに視線を合わせる。


「…で。僕の気配だと判らない程、どこを怪我されたんです?」

「だから、怪我はしてないって言ってるだろう!?」


シロに治してもらったし、とは口が裂けても言えない。

この口煩い部下は、リュウキの怪我に過剰なほど反応し、更に質の悪いことに全て彼女の上官である宰相に報告するのだ。

細々と、どんな小さなことも漏らさず。

もう殆どストーカーと変わりはない。いや、小姑とも言うのか。

そうこうしているうちに、ギィがリュウキのブーツを脱がせてズボンの裾をずり上げた。


「セクハラだ…。」

「は?何ですそれは。」


言葉の意味が解らなかったのだろう。訝しげに眉を顰めたギィが、なおもおかしなところはないか見ている。

そうなのだ、ストーカーやセクハラを訴えたくても、この世界にこれらに相当する言葉が存在しないのだ。

何だかもうどうでもよくなってきたリュウキは、何度目か判らない深い溜息を漏らした。







蜥蜴とかげはいるか?」


一通り上官に怪我がないことを確認したギィに、リュウキは唐突に尋ねた。

まだ少し納得していないような顔をしていた副官は、彼女の問いに小さく頷く。

蜥蜴とは、ヒリュウで使われている伝令役の小さな竜のことで、ギィにリュウキの下へ向かうようにコウリの支持を持ってきたのもこの蜥蜴と呼ばれる竜だ。


「何かお急ぎで?」

「あぁ、陛下と宰相殿に至急な。」

「シキ様の下へではなく?」

「それは今から全速力で戻って伝える。」


その言葉に、ギィの瞳が再び冷たく光った。


「…それだけ魔力消耗している上、足元覚束無いくせに何を仰るんです?」

「そんなことを言っている場合じゃない。兎に角急いで戻る。」

「リュウキ様!」

「命令だ。ギィ・デリア。」


普段、リュウキの口から命令なんて言葉は滅多に出ない。

それだけ今の状況が切迫していて、一時の猶予も無いということだった。

ギィはぐっと言葉を飲み込み、僅かに俯くとすぐに強い眼をリュウキに向ける。


「…解りました。ただし、魔力はもう使わないでください。次の町に着き次第、馬もこちらで用意します。」


リュウキの中でも、それが最善の方法だと認識されたらしい。彼女は素直に頷くと、ギィの後方で蜥蜴を連れてきた影の一人に目を移した。次いで胸元から小さな紙と筆記具を取り出し、素早く何かを書き記す。そのまま左手を伸ばして蜥蜴を受け取り、小さな足に取り付けられた筒の中に紙を仕舞いこんだ。


「これを陛下に。頼んだぞ。」


しっかりと目を合わせて呟くと、彼女は左腕を天高く掲げる。まるでその勢いを借りるように大空へと飛び出した小さな竜を見送ると、彼女はすぐに立ち上がって僅かに乱れた服を直し部下達を振り返った。


「相当な術の使い手がいた。いつどこで干渉されるか判らない。」


もうレキを出て、端とはいえリーンに入っているにも関らず告げられた言葉に、それぞれが目を細める。


「情けないが、私はあまり戦力にならない。二人は先に、町で馬を用意しておいてくれ。」


申し訳なさそうに告げられた二人は、小さく笑みを浮かべてお任せくださいと応えると、一気にその場から姿を消した。

リュウキは残る三人に目を向ける。


「今から急ぎ、リーンに戻る。」


全員が一斉に頷き、動き出したリュウキを守るように囲み走り出した。













大規模な転移術にゴルゴネス。


不吉な言葉が示すのは、一体何なのか。リュウキの中で、嫌な予感ばかりが募る。

レキの狙いは本当にリーンだけなのか疑わしい。

リーンは騎士の国。ゴルゴネスのような化け物を使わずとも、レキの魔術師を総動員すればどちらが強いか自ずと知れる。

ならば、あのゴルゴネスは対ヒリュウ軍用のものなのだろうが、リーンがヒリュウに援軍を要請してきたのはつい最近のことだ。あれ程のものを用意するには、少し時間が無さ過ぎるように感じた。

それとも、もともとあの手のものをほいほいと召喚できるような魔術師がレキにいたというのか。それはそれで脅威ではある。あれ一体ならともかく、そう何体もあんなものに出てこられたら、流石に苦戦を強いられるだろう。


それに、やはりリュウキが気になっているのは転移術である。

リーンを攻めるだけならば、レキは隣国なのでそう大層な転移術は必要ないように思われる。

ならば、レキは何を狙っているのか。

否、何処を狙っているのか。

何やら本気できな臭い。

己の予想が外れてくれることを、リュウキは心から願った。



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