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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
21/112

黒いノースリーブに黒いズボン。

腰には濃い色の厚手の布を巻きつけ、間に小さなナイフと大きな針のようなものを仕込む。その上から薬の類が入った小さな袋を引っ掛け、ズボンの裾は広がらないようにブーツに仕舞い込み、ついでにそこにも細身のナイフを仕込んだ。首元には顔を隠すための大き目の布を巻きつける。

あとは表は草色だが裏地が黒っぽい外套を羽織れば“影”の完成である。

明るいうちの移動時は草色の外套を、暗くなったら裏地を使い移動する。昼間に黒を羽織ると逆に目立ってしまうからだ。

因みに例によってシロは、外套の中のリュウキの肩に納まっていた。





先ほど、シキの部屋を出た後そのままリーン王の執務室まで行きカルドゥス王に謁見を願うと、意外なことにそれほど待たずして謁見は叶った。

運が良かったと思いつつ、王に今夜レキへ赴くことを伝えると、国境まで抜けるための手形をくれた。


今、リーンはレキの不穏な動きのため国を挙げて警備を強めている。

なので領を抜けるだけでも検問が敷かれているので、少々手間がかかるのだ。リュウキ一人くらいならば通れないこともないが、何の苦も無く通れるのならそれに越したことは無い。


実は手形はカルドゥス王が事前に準備しておいてくれたらしい。

ヒリュウの一行が到着すれば、レキへ斥候を送るだろうことを考慮してである。

リーンは騎士の国なので、観察方にはあまり長けておらず魔術にもあまり頼らない国だ。なので、斥候の件もヒリュウの観察方を頼るつもりだったのだろう。まぁ、こちらも王城を遠慮なく使ってしまっているのでそれはお互い様なのだが。

ただ、宰相補佐という地位にいるリュウキが直接偵察に向かうとは思っていなかったらしい。それには心底驚いていた。

取り敢えず二三日後には戻ってくることを伝えて、執務室を後にしたリュウキは、軽く腹ごしらえをしてから準備をし、“影”の様相で再びシキの部屋に戻ってきていた。





「じゃ、ちょっと行ってくる。」


まさに、ちょっとそこまでのノリである。


「お前…もうちょっと他に言い方あるだろうよ。」

「そんなもの気にする性質たちだったのか?」


本気で首を傾げるリュウキに、シキはがっくりと肩を落とすと、もういいとばかりに手を振った。


「無理はするなよ。」


それでもやはり心配なのだろう、いつも言うことを聞かないリュウキにしっかりと釘を刺す。


「大丈夫だ、心配するな。」

「お前の大丈夫は当てにならん。無理だと思ったらすぐ逃げてこい。」


なおも続けるシキに、リュウキは小さく苦笑を零すと視線を合わせてしっかりと頷いた。


「了解。じゃあ、行ってくる。」

「あぁ、頼んだぞ。」


シキの声にニヤリと笑みを浮かべて笑うと、次の瞬間あっという間に彼の目の前から消えていた。














「ヒリュウの悪魔が動きました。」


僅かの光も届かぬ地下の一室。

暗い眼を揺れる水盆に落とした女が単調な声で呟く。ゆらゆらと揺れる水には、“影”となったリュウキの姿が映し出されていた。


「愚か者どもが…只人と獣の分際で我らに牙を剥くというのか。」


忌々しそうに吐き捨てられた声は、少し掠れた男のものだ。男は女の向かいで同じく盆の中に目を落としていた。


「ですが、この娘は使えます。」

「ふぅむ。」


女の声に考え込むように男が黙り込んだ。

その様子をちらりと見上げた女が真っ赤な唇をニィっと吊り上げる。


「まず手始めに、この娘を捕らえましょう。この娘を餌に、獣どもを引きずり出せばよろしいですわ。」


袖が水に触らぬよう片手でそっと押さえながら、女の白い指が水面に弧を描く。

その指に引きずられるように揺れるリュウキの姿に、男もにんまりと顔を歪めた。












王城を誰に見つかることなく抜け出たリュウキは、そのまま一気にリーンとレキの国境を目指していた。その間、いくつか領を越えたが、その度に手形のありがたみを感じている。

まさにフリーパス。面白いくらい簡単に通れてしまうので、是非とも今回のことが片付いた後も有効利用したいものだと手形を返す前に偽造を決意したリュウキである。


王への謁見の申請が長引くと予想していた上での夜の出発予定だったので、思いのほか早く通ったリュウキは、予定よりも早い時間に城を出ていた。

昼過ぎには城を出て、上手い具合に途中の村で馬も手に入れたので、このまま走り続けられれば夜中には目的の国境付近に辿り着けるはずだ。


兎に角まずはそこからと、リュウキは無心で手綱を振るった。


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