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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■本編
12/112

リーンへ

マンティコラの攻撃を回避した一行は、そのまま速度を上げて山脈の麓まで来ていた。

遠くからうっすらと見えていた山脈の峰は今、分厚い雲に包まれ頂上までは見えない。

しかし、ここが東西に続く山脈で一番低く越えることができる位置になのだ。


「皆、これより山脈を越える。術師隊は全員の防寒と呼吸の確保、翼竜隊は集中を切らさぬよう心して飛べ!」


竜を操るのに手綱は使わない。

竜と竜騎士は契約するときに互いの心を繋げ、どんなに離れていても意思の疎通ができるようにする。所謂、精神感応というやつだ。

竜たちは竜騎士たちのイメージにそって飛ぶ。

種族の違う二方にとって、これが結構難しかったりするので、まだ慣れない騎士たちはかなりの集中が必要だった。

とはいっても、今回の行軍に参加しているのは翼竜隊の中でも精鋭たちなので、騎乗して戦うことも朝飯前なのだが。


再びロウの掛け声で術師隊が動いた。

内三人からは温かな山吹色の光が、残る二人とロウからは殆ど色はないが空気の層が魔力で揺れるのが確認できる。

シンはそれらが全体に行き渡るのを確認し、一応保険として皆に厚手のマントを身に着けるよう指示を出すと、自身もしっかりと着込みながら隣に目を向けた。


「目ぇ回すなよリュウキ。」

「誰に言ってんだ!」


挑戦的に笑いながら応えたリュウキに、シンは豪快に笑って目前に広がる山を見上げた。







ゴウゴウと風の音がする。

音はするが、殆どの風が何か見えない壁に遮られ、竜の背に乗る人間達に届くのは、ほんのそよ風程度の風力である。

呼吸も出来るし、気温も少し冷えるくらいだ。


目の前の山肌には既に植物の影はなく、時折覗く黒い岩肌以外はすべて真っ白な雪と氷の世界だった。

一行は既に人の足で登るには不可能な地点まで来ていた。


「すごいな。」


キラキラと日の光を反射して宝石のように輝く景色に、リュウキは小さく声を漏らす。

下を覗けば、これまた真っ白な雲が絨毯のように広がっていた。


「俺もこんなの初めて見た。」


隣で竜を操るシキも同じように景色に目を奪われている。

勿論周囲への警戒は怠っていない。


「俺今なら何でもできそうな気がするぞ。」

「じゃあそこから飛び降りて雪合戦でもやってこい。」

「お前…ホントいい性格してるよな。」


せっかくの気分を台無しにされたシキががっくりと肩を落とす。


「何を言う、お前の兄弟や宰相殿よりずっと優しいじゃないか。」

「あー…」


これには本気で納得するしかない。


「お前さぁ、一応俺ってお前が守るべき王族様なんだから助けろよ。」

「阿呆が。軍を纏める大将軍が、宰相補佐に守られてどうする。」

「守るの意味が違ぇよ!俺は戦うの専門なんだ、あいつらに口で勝てる訳ねぇだろ!?」

「あぁ…馬鹿だからな。」


遠慮のないリュウキの言葉にシキが言葉を失くした。


「てめぇ…一応俺の部下だろうがよ…」

「本来はコウリの部下だけどな。」

「あぁ…解った、コウリだな。あいつに近づくとみんな性格悪くなっちまうんだな。」

「帰還したら真っ先にお伝えするよ。」

「絶対止めろ!!」


マンティコラが現れたとき以上の剣幕である。


「シキ…お前そうやってむきになるからシャルシュ殿にからかわれるんだぞ?」

「う…」


思い当たる節がありすぎたようだ。


「だってよぉ…あいつら寄って集って俺を責めるんだぜ。」

「面白いのだから仕方がない。」

「俺は面白くない。」

「嘘をつけ、実は構ってもらって嬉しいくせに。」

「貶されて嬉しいヤツがあるか!!」

「妹に、お兄様目障りですので近づかないでくださいまし!とか言われるよりいいだろう?」


また絶句。


「…た、確かに。」

「お前ももう若くないからな、そろそろ姫のような若い女性に嫌われる要素が点々と出てくるんじゃないか?臭いとか。」

「おまっ…俺はまだそんな歳じゃないぞ!?」

「そぉかぁ?」

「ていうか、お前同い年だろう!?」

「私は大丈夫だ。どっかの誰かと違って酒も煙管もやっていないからな。気をつけろよ、歳取ると臭いに出るらしいぞ。」


大将軍という大層な地位に就いている割に、弁においてはヒリュウ王城で最下層のようである。


「お…俺臭う?」

「さぁな、エン殿にでも聞いてみろ。」

「…」


黙り込んだ。

傷ついたのかと思いきや、精神感応を使って本気で聞き始めたらしいシキに、リュウキはケラケラと笑い出した。


気がつけば、一行は山脈の頂を越えるところまで来ていた。










リーンという国は、山脈に面しているからかヒリュウに似た文化の国である。

両国は鉱石の採掘と加工に優れ、その町並みも白い石造りの風貌を見せていた。

王宮内の建物も同じく白っぽい石でできている。重厚な分厚い壁は、それだけで他を圧倒していた。


そんなリーン王城では、城で働く多くの者達が少し緊張した面持ちで行きかっていた。

それもそのはず、今日の日没には隣国ヒリュウから翼竜隊の精鋭たちが到着することになっているのだ。その中には、かの国の王弟である大将軍と、聖なる色を持つ神の子と噂の宰相補佐の姿もあるという。

竜と騎士を受け入れる兵舎の準備や、高官を招いての宴と、それぞれの持ち場のものは手落ちが無いよう皆必死に準備していた。

日没までもうあと僅か。

竜はヒリュウのみに生息する生き物なので、殆どの人間が想像上でしか思うことのできない中、リーン王城は期待と不安に包まれていた。


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