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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■シキ編
102/112

シキ 2

掴んだ感触は確かにあった。

あったにも関わらず、見下ろした先の己の手には何も残っていなかった。


「くそっ!!」


大きく舌打ちしたシキは、悔しさに顔を歪ませ、大地を蹴る。

が、一呼吸の後開いた目には、確かな理性が宿っていた。


短気短気とは言われるが、これでもシキは一国の軍を統べる大将軍である。

窮地に陥った際、研ぎ澄まされる武官としての本能は国一のものだ。

今一番避けるべき事は、冷静さを失うこと。

己の目的はリュウキを連れ戻すことなのだ。


シキはすぐに意識を切り替え、周囲を探るべく辺りを見渡した。







どこか見覚えのある風景に、シキは僅かに眉を寄せた。

今よりもずっと荒んではいるものの、それはヒリュウ国の外れ、ホウとの国境にある海に近いカザという名の町に似ている。

確か、現在は豊富な海からの資源とホウとの交易で、城下に負けぬほど賑わっていたはずだ。

しかし、まだ日が高いにも関わらず、人の疎らな町には活気が無く、彼らの衣服や所々崩れて黒ずんだ建物を見れば、道や町並みこそ似ているものの、まったく別の町のようだった。


「いったい、どういうことだ?」


警戒しながらも、呆然と周りを見回しながらシキが歩く。

やはり、どこからどうみてもカザの町のようだが、その情景はまさに数年前の戦に荒れた様のようだ。


顔にありありと疑問を浮かべたままシキが先へと進んでいると、彼の進行方向から一人二人と、慌てたように足を縺れさせながら人が駆けてきた。

何かから逃げるような動作に、眉を顰めたシキが、彼らに逆らうのも構わず駆けだした。







――キィイン


それは耳慣れた金属音。

剣と剣とがぶつかり合う甲高い音に、シキは先ほどの人々が争いごとから逃げてきたのだと知った。

シキの目にも土埃を上げながら剣を振る傭兵と、それを取り囲むように剣を構える大勢の男たちの姿が見える。

遠目にも、その体格差がはっきりと判るくらい、傭兵は小柄だったが、交互に襲いかかる男たちを捌く動きは、並の剣士のものではなかった。

おそらく我流なのだろう、全身のバネを使った動きと、小柄な体格を生かした瞬発力で、己よりも大きな男たちを次から次に地に沈めていく。

どこか精錬された舞うような、その見覚えのある動きに、シキは大きく目を見開いた。





「あんた!突っ立ってないでさっさと逃げないと巻き込まれるよ!!」


繰り広げられる剣劇に、しばしの間目を奪われていたシキは、突然腕を引かれる感覚に、はっと肩を強ばらせた。

見れば、恰幅の良い中年の女性が、焦ったような表情でシキを見上げている。

ぐいぐいと無遠慮に彼の腕を引きながら、女は確認するように背後を振り返った。


「ほら!何してんだい!!」

「あっ、いや、俺に構うな。さっさと逃げてくれ。」

「何を言ってんだい!そんないい身なりして、早く逃げないとあいつらに身包み剥がされても知らないよ!!」

「あいつら?」

「あいつらはあいつらさ!あの盗賊どもだよ!今は流れの傭兵さんが食い止めてくれてるけど、あれだけ囲まれちゃ…。」

「…見捨てるのか?」

「は?」


ぼそりと呟いた声は、平常心を失いつつある女の耳には届かなかったらしい。


「いや、何でもない。俺は大丈夫だ。構わずに行け。」


にべもなく言い捨てられた言葉に、女は眉を寄せるとシキの腕から手を離した。


「そうかい!おっ死んでもしらないからねっ!!」


吐き捨てるように喚いた女が、踵を返して駆けていく。

それを何とも言えない目で見つめながらも、シキは彼女とは逆の方向へ足を踏み出した。




見据えるのは目前の傭兵。

細く煌めくサーベルを振り回す傭兵は、遠目にも判るほど黒い髪を靡かせながら、白い肌を真っ赤な血に染めて戦っていた。


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