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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■シキ編
101/112

シキ 1

「ロウ!」


突然目の前で痙攣を始めたリュウキに、シキは声を上げながら咄嗟に寝台に横たわる細い身体を抱き起こしていた。

上官の声に反射的に反応したロウが、素早くシキの腕の中のリュウキに駆け寄り、何事かを呟いて白い額に掌をかざす。

びくり、びくりと痙攣を繰り返すリュウキの腕は、だらりと垂れ下がりながらも子供の小さな手を掴んだままだった。


「何があった!?」


どこか焦ったような王の声に、しかしロウは応えない。

彼の額にはじんわりと汗がにじんでいた。

王と宰相はロウを咎めることなく、そのまま様子を見守っている。

シキはまるで何かから守るように、リュウキの身体を支える腕に力を込めた。

しばらく目を閉じていたロウが、ゆっくりと目を開く。

紫暗の瞳には焦りの色が浮かんでいた。


「どうやら、何者かに干渉されたようです。」

「大丈夫なのか!?」


必死なシキの叫びに、シンとコウリも同じ気持ちなのか、真摯な目をロウに向ける。


「このままでは、危険です。意識が引きずられ戻れなくなってしまえば、身体がもたない。」

「どういうことだ?」

「廃人になります。」


ロウの言葉に三人が息を呑む。


「何か手はないのですか?」


呟いたのは、コウリだ。ロウは僅かに口を噛んだ後、苦い物でも飲み込むように顔を歪ませて口を開いた。


「…リュウキ様の意識に潜り、連れ戻すことができればあるいは…しかし、かなり危険です。」


混濁し、何者かに干渉を受けている意識に潜れば、もう一人廃人を出してしまうだけになる可能性が高い。

余程強い意志と絆を持った者でなければ成しえないことだろう。


「俺が潜る。」


しかし、ロウの言葉を聞いた瞬間、迷いなく声を上げたのは腕の中のリュウキを見据えたままのシキだった。






「いいですか、意識が繋がっている間は、兎に角考えることを止めないでください。」


強く己を保つのが、引きずられないための有効手段。

紫暗の目を細めながら、シキの瞳を強く見つめて確認するロウに、シキは大きく頷いた。


「シキ様、本当に大丈夫ですか?」


どこか不安げに問うのはコウリだ。

その横では兄のシンも険しい目でシキを見つめていた。


「おう、大丈夫だ。リュウキは俺が、必ず連れ戻す。」


特に理由のない自信ではあったが、ここ一番というところでシキが放つ言葉が絶対であることは、この場の誰もが知っている。

彼の言葉を聞いた三人の目が、僅かに緩んだ気がした。

それを見たシキも、再度大丈夫だというように大きく頷き、笑みを浮かべる。


「では、参ります。」


その言葉を皮切りに、ロウが小さく何かを呟き始めた。











かくん、と身体を残して意識が落ちる感覚に、ひどく目眩を感じながら、シキはリュウキの事だけを思っていた。

彼女を連れ戻す。

目的はそれだけ。

強く、強く、それだけを思い続ければいいのだ。


しばらく身を襲う浮遊感に僅かに眉を顰めながら、ゆっくりと灰色の瞳を開くと、そこには一面真っ白な空間が広がっていた。


「…くそっ…離せっ!!」


一瞬、見たこともないような世界に気を取られながらも、焦ったように響いたその声にシキははっと身を強ばらせた。

次いで、反射的に声のする方向へ踵を返すと、そう遠くない場所でリュウキが必死に何かから逃れようと身を捩らせている。

そのふくよかな胸には、背後から伸びた白い小さな手がずぶりと沈み、その衝撃のせいか彼女の身体がびくりと弾んだのが見えた。

細い身体が大きく仰け反り、勢いで伏せていたリュウキの顔が正面を向く。

同時に、彼女の金の瞳とシキの灰色の瞳が交差した。


「リュウキ!!」


シキは目の前の異常な光景に焦りながら、ぐっと足に力を入れて大きく跳躍しつつ、必死に彼女に向かって腕を伸ばした。


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