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時空の風 -竜の章-  作者: 穂積
■シン編
100/112

シン 12 【完】



「…………のか?」

「…ぃ……だ。」


頭上を飛び交う声に、リュウキは僅かに眉を顰めた。

そんなに小さな声で話している訳でもないのだが、どうやら意識がはっきりしていないらしい彼女には、彼らの声はまるで水の中から聞いているかのようにぼんやりと聞こえる。


「……ろ……いいはずだろ?」

「……にかく、待ちましょう。」


彼女にとってはとても聞き覚えのある声。

それは、覚醒とともに次第に意味を成す言葉としてリュウキの耳に届く。


「本当に大丈夫なのか?」

「シロが大丈夫だと言うのですから、大丈夫なのでしょう。」


なおも飛び交う声に導かれるように、真っ暗な視界に刺すような光の筋が現れる。

僅かな痛みを伴うそれは、鉛のように重い頭には堪えたが、リュウキはそれらを振り払うように腹に力を入れて閉じていた眼をゆっくりと開いた。

途端、飛び込んでくる光の眩しさに眉を顰める。

声のする方へ頭をずらすと、ぼんやりと滲む視界に人影が二つ見えた。

それと同時に、隣からもぞりと何かが動く気配がする。


「陛下!!」


それと同時に聞こえたのは、慌てたような声と二人がこちらへ駆け寄る音だ。

更に視線をずらすと、己の隣で寝台に伏している金色の髪が見えた。

髪に隠れて表情は見えなかったが、彼から伸びる大きな手はリュウキの左手をしっかりと握りしめていた。

もぞり、と金色の頭が再び動く。


「シン!大丈夫か!?……あ。」


リュウキの隣に伏している男――ヒリュウ国王シンの肩を揺らしているのは、弟のシキである。些か乱暴な仕草でシンを揺らすシキが不意に顔を上げたと思うと、ぼんやりとそれを見つめていたリュウキとがっちりと視線がぶつかった。

無言で固まることしばし。

沈黙を破ったのは、シキの視線を辿ったコウリだった。


「リュウキ!!」

「ぐっ!?」


喜色を浮かべて叫んだコウリは、彼女から視線を外すことなく隣のシキに体当たりをかますと、構うことなく寝台をぐるりと回りシンとは反対側の寝台の端へと近づく。

不意打ちを食らったシキはというと、余程強い力でぶつかられたらしい、脇腹を抑えながら寝台に頭を押しつけるようにして蹲っていた。

どうやらコウリの鋭い肘が、シキの鳩尾を突いたらしい。

そんなことはどうでも良いのか、僅かに眉を垂れて笑顔を浮かべたコウリが、寝台に腰掛けながらリュウキの顔を覗き込んできた。


「リュウキ、どこか痛むところや苦しいところはありませんか?」


そっと頬に添えられた手は、ひんやりと冷たい。

リュウキは気持ちよさそうに目を細めると、コウリを見上げてゆるりと首を振った。


「いや、無い。大丈夫。」

「そうですか。よかった。」


次いで、コウリが顔を上げ、リュウキを超えてシンの方へと視線を向ける。

つられるようにリュウキもそちらへ顔を向けると、シンが片手で頭を押さえながらゆっくりと身を起こしていた。


「陛下。」

「……あぁ、大事ない。」


こぼれ落ちる金の髪をかき上げ、振り返ったシンが応える。

そのまま己の手を見下ろし、掌の中にある細く小さな手を見つめると、ゆっくりと視線をリュウキの顔へと向けた。


「…戻ってきたな。」


彼女の金色の目とぶつかった瞬間、シンの顔に柔らかな笑みが浮かぶ。

手をしっかりと繋いだまま、のそりと身をずらしてリュウキの顔を覗き込むと、反対側の手で愛しむように彼女の黒髪を梳いた。

途端、リュウキの顔に朱が走る。

じっと見つめ合う二人を目にしたコウリが、しばらくの間彼らの顔を見比べると、そのまま小さく溜息を吐いて、寝台から立ち上がった。


「…お飲み物はこちらに置いておきますね。」


ぼそりと告げられた言葉に、シンがちらりと目を寄越す。

寝台の横にある台の上の水差しを確認すると、彼は小さく頷き再びリュウキへと視線を戻した。

その反応に、再びコウリが溜息を零すと、彼は僅かな衣擦れの音を残して踵を返す。

寝台をぐるりと回り、未だ蹲るシキに近づくと、寝台に背を預けて座り込んでいる彼を見下ろした。

立てた膝に肘をつき、頬を支えるシキの顔には、二人が無事だったことへの安堵と、甘さを含む彼らの雰囲気への不満がありありと浮かんでいる。

相反する二つの感情で、変な表情になっているシキに、コウリが苦笑を浮かべると、そのまま何も言わずに部屋の入り口へと促した。

しばらく無言で蹲っていたシキが、大きな溜息と共に立ち上がる。

二人は互いに顔を見合わせ苦笑を浮かべると、何も言わずに静かに部屋を出た。










後日、全てを見守っていたシキとコウリによれば、寝台で眠っていた子供はリュウキとシンが目覚める前に霧のように消えてしまったらしい。

何事かと焦った二人が、隊務に戻ったロウを呼ぼうと部屋を出かけた瞬間、追って意識の中へと沈んでいたシロが不意に目を覚まし、問題ないと告げたのだ。

果たして、シロの言う通り、リュウキとシンはすぐに目覚めた。




「子供はどうなったんだ?」


首を傾げる男三人の疑問を代表したように、シキがぽつりと呟く。

ここは王の執務室。

あれからすぐに室を出た二人を追うように、寝台から降りたリュウキとシンは、事の次第を話すべく、シキとコウリ、それからロウを執務室へと招集した。


「あの子供……リュウタは、元々過去の存在。全てを断ち切ったことで、止まっていた時間が流れ込み、身体が朽ちてしまったらしい。彼の魂は管理者の支配を逃れ、輪廻の輪へ戻ったのだと、シロが言っていた。」


シキの疑問に答えたのは、事前にシロから説明を受けていたリュウキである。

彼女の静かな声に、他の四人がそれぞれの反応を返した。

小さく息を吐いたリュウキが、更に続ける。


「管理者が去り、契約も解けた今、生まれ続ける世界の歪みを正すものは何もない。」


残ったのは、世界の縮図として在るこの大陸と、その流れにより発生する歪みのみである。

贄を失った今、行き場を失った歪みをどうにかしなければならない。


「シロが言うには、契約自体は解けたものの、世界からこの大陸、大陸から山脈の頂へと流れる歪みの流れは今も途切れていないらしい。」

「一カ所には集まっているわけか。」


ふむ、と考え込むシンの言葉に頷き、リュウキがそれぞれを見回す。


「取り敢えず、一カ所に集まっているのならば、シロがいる限り私たちがそこへ赴き、その都度浄化することはできる。」

「…時間稼ぎはできるということですね。」

「そう。これはあくまで時間稼ぎ。私もシロも永遠に在ることはできない。」

「充分です。必ずや、良い方法を見つけ出してみせましょう。」


返したのはロウだった。

彼の紫暗の瞳には、強い意志が宿っている。

それを見たシンが深く頷き、ぐるりと皆を見回して最後にリュウキを見つめた。


「我らは独りではない。孤独ではない。皆で知恵を出し合い、世界、引いてはこのヒリュウを守っていこう。」


王の言葉に、その場にいた全員が、笑みを浮かべてしっかりと頷いた。


シン編はこれで完結です。

ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。


個人に分かれてから意外と長くなってしまい、自分の文章力の無さに涙が出てきそうです。。。

ここから先は、他メンバーをUPしつつ、次のお話に移ろうと思います。

よろしければ、このままお付き合い頂ければ幸いです!

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