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永遠の記憶  作者: ドルチ
2/2

常闇の時計


「契約、完了だな」

 これでもおれは死神仲間でも、トップの成績を誇っているんだ。今までのやつらの物語はどこも面白みがなかったが、今回は少し期待させて貰うとしよう。純粋な奴ほど面白い物語を奏でてくれるはずだ。


「ぼうず、難しい説明聞きたいか?」


「そんなのどうだっていいよ」


「そうか、だが永遠をぼうずに与えるためにどうしても見てもらわなくちゃならないものがあるんだ。といっても少しも難しい物じゃないから少し付き合ってくれ」

おれは腕時計のつまみを回し、針を動かした。

 

おれの時計は、ぼうずたちが使っているものとは少し違う。文字盤に、時刻を表す数字はない。常闇のように真っ黒な文字盤の十二時の位置に、白銀の文字で『0』とあるだけだ。

おれは長針と短針を『0』に合わせた。あの瞬間の空気―――世界の変化を、ぼうずは感じたか?


「手を」

「えっ」

おれは、ぼうずが差し出す前に、その手をとった。

「見に行こう」

「何を?」

「ぼうずが望んでいる永遠が、どんなものか」

そのまま、ぼうずを空まで連れて行った。家々の屋根が眼下に広がり、直前までそのロビーにいた病院の、屋上を見下ろす高さまで一気に上がった。

「うわぁ、すごい」

「いい景色だろう」

ぼうずは目を輝かせて興奮していた。握った手のひらが、汗で湿ってくるのが分かった。 大人達はその景色に、全能感と、寂しさのようなものを感じる。全てを見下ろし、把握しているような感覚。そこに自分がいなくても世界が成り立っているという、ある種の疎外感。


さらに高度を上げた。

「見えるか?あれがぼうずのいた病院だ」

遙かに小さくなったが、見覚えのある病院がぼうずの目にも確かに映っていたはずだ。


「もっと高く上がってよ」

興奮するぼうずにおれはこう告げた。

「残念だが、お楽しみはここまでだ」


おれはぼうずの目をふさいだ。


「どうしたの?」


「今からぼうずは、今日を繰り返す世界を見ることになる」

「ぼうずがおれにもういいというまで永遠に」

「まぁ、お試し期間みたいなものだから、よーく考えることだな」


「いつまで待ってくれるの?」


「馬鹿な質問をする。この世界は永遠だ。いつまでだって考えるがいいさ」

「だがこの世界は、今のぼうずには触れることもできなければ、話しかけて答えが返ってくることもない」

「それだけは気をつけておくんだな」


 少し不安げなぼうずの手を離し、おれは遠くからぼうずを眺めることにした。


「まだ浮いてる」

素朴な疑問を抱きながら、ぼうずは目にしたはずだ。学校に向かうぼうず自身の姿を。


今日のぼうず自身の姿をな。


「おまえんち、誰が来る?」

「母ちゃんに決まってる」

「おれも、母さん」・・・・・・

学校の窓の外から中を見ていたぼうずは、朝とまったく同じ会話が繰り返されていることに驚いた様子だった。


 それからもぼうずは自分自身を追いかけて、とうとう母親の入院している病院までたどり着いた。

 少し悲しそうな目をしながら、母親と話す自分自身を眺めているぼうずを見ていると、おれも過去の自分のことを思い出してしまった。


 ぼうずはその時の会話をどう感じた?


「母さん、昨日よりは元気になった?」

授業参観の案内をポケットにねじ込んだままぼうずは問いかけた。


「純が毎日来てくれるから、母さん元気になってきたよ」

と答える母の手が日に日にやせ細っていくことは、幼いぼうずでも気が付いているようだった。


「純が、小学校卒業するの楽しみね」


「母さんはその頃は元気になって、いつもより奮発した朝ご飯を作ってくれるんだよね」

少しはしゃぐようにぼうずは言った。


ぼうずは、持ってきた授業参観の案内をポケットから取り出そうとしながら

「母さん今度」

不意に母親がせき込む。


「大丈夫?どこか痛い?」


「大丈夫だよ。母さんこんな病気になんて負けないんだから」

細い腕で力こぶを作りながら母親は言った。

「純、何か言いかけてたでしょ?」


「今度・・・今度テストで百点取るよって言おうとしたんだよ」

ぼうずは嘘をついた。悲しいほどに美しい嘘を・・・。


「じゃあ、ぼく、そろそろ行くよ」


「明日も学校頑張って」

ぼうずは、懸命に目からあふれだそうとする涙を押し殺して病室を後にした。


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