第8話 ―― 露店出店への第一歩、情報と誘惑の会議
今日の2本目です~
ルシフェリア、リリ、アリアの三人は、粗末な卓を囲んで座っていた。
テーブルには今日集めた銅貨が小さく山になっている。
ルシフェリアはそれを指で軽く弾きながら言った。
「今日の貢がれ相手から集めた銅貨、合計で80枚近くになった。
これで明日の露店準備はなんとかなりそう」
アリアが蜘蛛の脚を小さく動かして、嬉しそうに頷いた。
「フェリさん……私も、糸でハンカチやお守り、たくさん作れます。
売れるように、丈夫で綺麗に仕上げます」
ルシフェリアは笑顔で頷き、リリに視線を移した。
「リリ、今日の情報収集はどうだった?
香りを使って、街の噂や場所の話、聞けた?」
リリは頰を少し赤らめ、尻尾をゆっくり振った。
「はい……今日はギルド裏の路地を中心に、疲れた冒険者や商人さんに香りを……
軽く誘惑しながら、精気を少しずつ吸いました。
魔力はまだほんの少ししか回復していませんが……
情報はたくさん集まりました」
彼女は指を折りながら、今日聞いた話を整理した。
「まず、露店の場所について。
一番人が多いのは市場の中心広場だけど、
ギルドの監視が厳しくて魔族の出店は許可が下りづらいそうです。
次にギルド裏の路地は人通りが多くて癒し需要が高いけど、
酔っ払いや絡みが頻発するみたいで……
街外れの裏通りは安全だけど、売上が期待できない……」
ルシフェリアは顎に手を当てて考え込んだ。
「うーん……路地が一番バランス良さそうだけど、トラブルが心配だな。
アリアの隠遁糸がもう少し使えれば、商品を隠して売ったり、
危なくなったら逃げたりできるのに……」
アリアが小さく頷いた。
「まだ魔力が足りなくて……ごめんなさい」
リリはそこで少し声を落とした。
「それと……もう一つ、気になった話があって……」
彼女はアリアに聞こえないよう、
フェリにだけ体を寄せて小声で続けた。
「ギルド裏で聞いたんですけど……
街外れの廃墟や隠れ家に、
魔物の子供たちがまだ何人か隠れて生きてるらしいです。
戦役のときに親を失って、街に取り残された子たちで……
今は魔力制御ができなくて、暴発を繰り返してるみたいで……」
ルシフェリアの表情が一瞬で変わった。
「……暴発?」
リリは頷いた。
「はい……子オークが怒ると体が巨大化して地面を叩き、
小さな地震みたいに周りを揺らすんです。
子ワイバーンは怖がると翼から風圧が出て、荷物を吹き飛ばすし……
子トロルは傷つくと体が膨張して物を押し潰し、
子サラマンダーは感情が高ぶると炎を噴き出して火事になりかける……
冒険から帰ってきた人族たちが、
『またあの魔物のガキどもが暴れた』って本気で困ってるみたいです。
『クエスト品が壊れる』『治安が悪くなる』
『報酬が減る』って愚痴ってました。
人間側は『処分しろ』って声が上がってるけど、
魔族の大人たちも『面倒くさい』って見捨ててる状態で……
子供たちは毎日怯えて隠れてるそうです」
ルシフェリアは拳をぎゅっと握った。
(……冒険から帰ってきた人たちが困ってる……
暴発で街に迷惑をかけて、みんなから嫌われて……
あの子供たち、放っておけない……
魔王として、こんな子たちを守れる場所を作りたいんだ……)
彼女はリリにだけ聞こえる声で言った。
「リリ、その子たちの場所……もっと詳しく調べて。
露店を出すのと並行して、絶対に保護したい。
私の……住民にしたい」
リリは頷き、決意を込めて微笑んだ。
「わかりました。明日も誘惑を続けながら、もっと詳しい情報を集めます。
フェリちゃんの守れる場所……一人でも多く増えるように……」
アリアが不思議そうに首を傾げた。
「フェリさん? どうかしましたか?」
ルシフェリアは慌てて笑顔を作った。
「ううん、何でもないよ!
アリアの糸で作るお守り、明日から本格的に作ろうね。
リリの香りを染み込ませて『癒しの糸お守り』って名前で……
きっと人気出るよ!」
三人は露店の具体的な準備を話し合い始めた。
ルシフェリアは心の中で強く思った。
(露店を軌道に乗せて、お金を貯めて……
その子供たちを、絶対に助ける。
暴発で困ってる冒険者たちも、守れる場所を作って……
みんなが笑える世界にしていくんだ)
――底辺魔王の成り上がりは、
露店出店と同時に、新たな住民(子供たち)の影を孕んで動き始めた。




