第6話 ―― 初めての住民、蜘蛛の少女アリア
今日の分はここまでです~
ルミナス街の朝は、市場の活気で始まる。
ルシフェリアとリリは、
昨日稼いだ銅貨で簡単な朝食を買って、冒険者ギルドに向かった。
「今日はギルド登録して、簡単な依頼から始めよう。
薬草採取とか、街の掃除とか…これで経験値も入るはず!」
リリが尻尾を嬉しそうに振った。
「はい、フェリちゃん。私も一緒に依頼受けられますかね……?」
ギルドの受付で仮登録を済ませ、Fランクの木製カードを受け取った。
受付の女性が優しく笑う。
「新入りさんたちね。まずはこれ、薬草採取の依頼はどう?
街外れの森で『癒しの草』を10束。報酬は銅貨50枚。危なくないわよ」
ルシフェリアは目を輝かせた。
「それ、受けます!」
森は街からすぐ近く。二人は籠を手に、軽い足取りで入った。
「リリ、昨日みたいに香り少し使って、
道中で疲れた人を癒せば……また貢がれ相手が増えるかも」
リリは頰を赤らめながら頷いた。
「……はい。でも、まだ魔力少ないので、控えめに……」
森に入って1時間。
ルシフェリアは額の汗を拭いながら、ため息をついた。
「……全然見つからないね、『癒しの草』って」
木々の間を歩き回り、地面を丁寧に探すが、
似た草ばかりで本物は見当たらない。
リリも尻尾を垂らして、疲れた様子だ。
「フェリちゃん……この森、薬草が減ってるみたいです。
最近、魔物種族の人が追われて森に隠れてるって噂で……
みんな必死に採取してるから、枯渇してるのかも……」
ルシフェリアは少し暗い顔になった。
(魔物種族……アラクネとかラミアとかハーピーとか……
この世界じゃ、蜘蛛の下半身とか蛇の体とか翼の生えた魔物は、
『怪物』扱いされてるんだよね。
人間の街じゃ入市拒否されることも多いし、
魔族の中でも下に見られる……前魔王の時代は、
戦役で前線に駆り出されて酷使されたのに、
敗北の責任を押しつけられて差別が悪化したって聞いた。
スライムみたいな低級魔物は、掃除や下水仕事しか与えられず、
玩具にされることもあるらしい……みんな、居場所がないんだ……)
そんなことを考えながら、さらに奥へ進んだ。
突然、糸のようなものが足に絡まった。
「え……?」
ルシフェリアが振り返ると、木の上から少女が降りてきた。
上半身は黒髪の美しい少女、下半身は……黒く光る蜘蛛の体。
8本の脚がゆっくりと折りたたまれ、鋭い爪が地面を掻く。
アラクネの魔物少女だった。
ルシフェリアは一瞬、息を飲んだ。
(……蜘蛛……?下半身が……本物の蜘蛛……!
気持ち悪い……!転生前の私だったら、叫んで逃げてた……
虫とか、爬虫類とか、大嫌いだったのに……)
元人間の記憶が、反射的に嫌悪感を呼び起こした。
胃がきゅっと縮む。
でも、少女の顔は……怯えていて、傷だらけで、人間の少女のように涙目だった。
少女は怯えたように後ずさり、糸を張って逃げようとした。
「ご、ごめんなさい……!私、ただ薬草採取してただけ……
人間の街から追われて、森に隠れてるだけなのに……
また殺されるのかと思った……」
ルシフェリアは慌てて手を振った。
「待って! 私たちも魔族だよ!
私、フェリ。こちらリリ。
あなた、名前は? 怪我してる……大丈夫?」
少女はルシフェリアの赤い瞳と角を見て、ぴくりと体を震わせた。
「……アリアです……
赤い目と角……まさか……魔王の……?」
ルシフェリアは慌ててフードを深く被った。
「ち、違うよ! ただの魔族!
田舎から来ただけだから……変な目で見ないで!」
(やばい……感づかれそう……!絶対隠してるつもりなのに……!)
リリが優しく近づいて、アリアの傷に布を当てた。
「大丈夫ですよ。アリアちゃん……
私たち、助けます」
アリアは目を伏せた。
「私、アラクネの魔物で……街じゃ『怪物』って差別されて、
前魔王の時代も人間の街も、どこにも居場所がなくて……
ラミアやハーピー、スライムみたいな魔物種族はみんなそう。
蜘蛛の体が『気持ち悪い』って石投げられたり、
翼をむしられたり、ゼリー体を踏み潰されたり……
体壊してもいいから、危険な依頼ばっかり受けてる。
どうせ、私みたいな魔物なんて……誰も大事にしてくれないし」
自分を大事にしていない。
その言葉に、ルシフェリアの胸が痛んだ。
(この子……私みたい。
底辺で、孤独で……
下半身が蜘蛛で……気持ち悪いって思っちゃう自分が嫌だ……
転生前の私だったら、絶対近づかなかった。
でも、今の私は魔王。
この子を怪物扱いしたら、前魔王と同じじゃないか……
他の魔物種族も、みんな苦しんでる……
受け入れたい……
でも、怖い……
蜘蛛の脚が触れたら……どうしよう……
それでも、この子を放っておけない……
魔王として、こんな子たちを守れる存在になりたいんだ……!)
葛藤が胸を締め付けた。
ルシフェリアは深呼吸して、震える手を差し出した。
「アリア……とりあえず、一緒に来ない?
私たちもまだ底辺で、宿も安いとこだけど……
ご飯食べて、薬草採取一緒に終わらせて……
それから、ゆっくり話そうよ。
あなたみたいな人を、守れる場所が欲しいって……私、思ってるから」
アリアは目を丸くした。
「……一緒に……?私みたいな魔物を……?」
リリが優しく微笑んだ。
「うん。私たちも、まだ小さいけど……アリアちゃんがいてくれたら、嬉しいよ」
アリアの紫の目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……ありがとう……私……恩、返します。
命に代えても……フェリさんのために働きます。
いつか、私も地位を上げて……立派な……仲間になります」
その瞬間、ルシフェリアのステータスに変化が起きた。
【レベル:3 に上昇】
【新スキル目覚め:魔王の支配契り(Lv.1)】
効果:信頼した住民と「支配の契り」を結び、絶対的な忠誠を得る。
住民の能力を少し強化し、主人公の命令に優先的に従う。
(ただし、強制ではなく恩義ベース。裏切りは可能だが、恩恵を失う)
ルシフェリアは心の中で驚いた。
(この葛藤の末に……スキルが目覚めた……!
魔王らしい『支配』だけど……
独裁できる力なのに、恩義を基盤にしてる。
みんなを幸せにしながら、強くなれる……これが、私の道……!)
三人はようやく薬草を見つけ(アリアの糸で高いところから探してくれた)、
ギルドに提出。
報酬を分け、アリアの治療費も出して、安宿で一緒に夕食を食べた。
アリアは恥ずかしそうに蜘蛛の脚を折りたたみながら言った。
「フェリさん……リリさん……
私、初めて……こんなに温かいご飯食べたかも。
いつか、私も地位を上げて……フェリさんの力になります」
ルシフェリアは笑った。
「うん、ゆっくりでいいよ。私たち、一緒に成り上がろう」
――底辺魔王の、初めての住民ができた。




