第36話 ―― ギルドマスターの訪問と、レオンの名乗り
屋敷の門をくぐり、
エルドリックはルシフェリアとレオンに導かれて、
応接室へと通された。
部屋は簡素だが清潔で、
窓から差し込む光が、木製のテーブルを優しく照らしていた。
ルシフェリアはエルドリックを上座に案内し、
自分は向かいに座った。
レオンはルシフェリアのすぐ横に立ち、
静かに見守る姿勢を取った。
「エルドリックさん……わざわざ来てくれて、
ありがとうございます。お茶を淹れますね」
ルシフェリアはティーポットを手に取り、
丁寧に紅茶を注いだ。
香りが部屋に広がる中、
エルドリックは静かに口を開いた。
「フェリ……俺は、お前の『調和』を信じたいと思ってる。
だが、剣の亡霊を帝国から引き抜いた件は、
簡単には済まない。
帝国は、あいつを『神の使徒』として保護している。
特務隊が、奪還に向かっているという情報が入っている」
ルシフェリアはカップを置いて、
深呼吸した。
「レオン……彼は、もう帝国の犬じゃない。
私の道に、剣を捧げてくれたんです」
エルドリックは視線をレオンに移した。
「……剣の亡霊。いや、お前の本名は?」
レオンは静かに、一歩前に出た。
「俺はレオン。剣の亡霊と呼ばれていたが、
本名はレオン。古い魔物種族の生き残りだ。
……フェリの仲間だ」
エルドリックは一瞬、
目を細めた。
「赤い目……魔物か。
帝国は、お前を『神の使徒』として祭り上げていたが、
本当は、古い魔物だったのか。……面白い」
レオンは低く、
「帝国は、俺を道具として使っていただけだ。
フェリは、俺に、剣を振るう意味を、初めて教えてくれた。
……俺の剣は、もう、フェリのためにある」
エルドリックはしばらく沈黙した後、
ゆっくりと言った。
「フェリ……お前は、
本当に『調和』を望んでいる。
俺は、それを感じる。
だが、ギルドの立場として、
お前を完全に信じるわけにはいかない。
……今は、見守ることにする。
もし、支配の意志があるなら……その時は、俺が止める」
ルシフェリアは静かに、
「ありがとう、エルドリックさん。
私の道を、信じてくれて」
エルドリックは立ち上がり、
コートを翻した。
「フェリ……交易路の成功は、認める。
だが、ギルドの目は、ずっと見てる。
……お前の『調和』が、本物なら、俺は、味方になる」
エルドリックは部屋を出て行った。
ルシフェリアはレオンに視線を戻し、
「レオン……ありがとう。
一緒にいてくれて」
レオンは静かに、
「俺の剣は、お前のためにある。
……これからも、守る」
ルシフェリアは微笑み、
「うん……一緒に、この道を歩いていこう」
その夜、ルシフェリアはリリに言った。
「エルドリックさん……
少しだけ、信じてくれた気がするよ」
リリは優しく、
「フェリちゃん……
きっと、そうなるよ。
私たちで、みんなを繋げていこう」
――ギルドマスターとの対面が終わり、
レオンの名乗りと決意が、新たな絆を生んだ。
底辺魔王の成り上がりは、仲間たちと共に、
大きな試練と可能性の前に立っていた。




