第11話 ―― 老魔物の教えと、抑えきれない感情
本日も2-3話更新します
納屋の朝は、藁の乾いた匂いと、
隙間から入る冷たい風で始まった。
ルシフェリアは目をこすりながら、
子供たちに声を掛けた。
「みんな、おはよう。今日はゼノン先生のところに行くよ。
魔力制御の練習、頑張ろうね」
ガルはまだ警戒したまま、拳を握りしめて言った。
「……本当に……先生って人が、僕たちを助けてくれるの?
前は誰も……教えてくれなかった」
レイラは翼を小さく震わせ、
ミナは指先から小さな火花を散らしながら、
ザクは体を縮こまらせて黙っていた。
ルシフェリアは優しく笑った。
「うん。私も一緒に練習するよ。
みんなで、暴発を抑えられるようになろう」
(心の中)
……私も魔力の使い方が全然わかってない。
赤い目と角は種族特性のままだし、魔力は枯渇してるけど……
少しずつ、学ばないと。
リリが子供たちにスープを配りながら、優しく言った。
「みんな、まずはお腹いっぱい食べて。
先生のところ、ちょっと遠いからね」
アリアは蜘蛛の脚で器用にスープをすくい、
子供たちに渡した。
「私も……一緒に付いていきます。
糸で、みんなを守れるように……」
子供たちは少しずつスープを飲み、
納屋の埃っぽい空気に混じって、パンの温かい匂いが広がった。
ゼノンの洞窟に着くと、
老魔物はいつものように入り口に座っていた。
8本の脚がゆっくり動く音が、洞窟の壁に反響する。
ゼノンはルシフェリアたちを見て、赤黒い目を細めた。
「ふん……ガキどもを連れてきたか。
高貴な血筋の小娘が、
よくもまあこんな面倒な連中を拾ってきたな」
子供たちは一斉に怯え、
ガルが体を巨大化しかけ、レイラが翼を広げ、
ザクが膨張し、ミナが炎を噴き出しそうになった。
暴発の兆候が一気に強まる。
ルシフェリアは慌てて前に出た。
「みんな、落ち着いて!先生は味方だよ……!」
リリがすぐに反応した。
「みんな……怖くないよ」
リリは深呼吸し、【魅惑の薔薇香】を優しく広げた。
甘い薔薇の香りが洞窟全体を包み、
子供たちの感情の高ぶりを少しずつ和らげていく。
ガルの体がゆっくり元に戻り、レイラの翼が静かに折りたたまれ、
ザクの膨張が収まり、ミナの炎が消えていった。
ゼノンは鼻を鳴らした。
「ふん……サキュバスの香りか。
まあ、暴発を抑えるにはちょうどいい。
だがな、俺の教えは甘くないぞ。
1週間で暴発を完全に制御できなければ、
俺は手を引く。それでいいな?」
ルシフェリアは強く頷いた。
「はい……お願いします」
ゼノンは杖を突き、子供たちを睨んだ。
「まず、感情のコントロールだ。
お前ら、怒りや恐怖が魔力を暴走させる原因だ。
俺が言うことを聞け。
聞けなかったら……その場で死ぬぞ」
子供たちは怯えながらも、ゼノンの前に並んだ。
ゼノンはガルに指を突きつけた。
「お前、オークのガキ。まず、拳を握るな。
怒りを溜め込むな。吐き出せ。
俺に向かって、叫べ」
ガルは震えながら、涙をこぼして叫んだ。
「魔王のせいで……親が死んだ!
僕たち……怪物だって……!」
ゼノンは静かに言った。
「それでいい。
叫べば、魔力が少し抜ける。
次はレイラ。お前も叫べ」
レイラは翼を震わせ、泣きながら叫んだ。
「お母さん……死なせた魔王……大嫌い!」
ゼノンは頷いた。
「よし。これを毎日繰り返せ。
感情を溜め込むな。
吐き出せば、魔力が安定する」
ルシフェリアは子供たちと一緒に並び、ゼノンに言った。
「先生、私も一緒に練習したいんです。
私も魔力の使い方が全然わかってなくて……」
ゼノンはニヤリと笑った。
「ほう……高貴な血筋の小娘が、自分も学ぶ気か。
いいだろう。お前も並べ」
ルシフェリアは子供たちと一緒に、感情を吐き出す練習を始めた。
(心の中)
……日本にいた頃は、
ゲームでスキル振ってレベルアップしてただけなのに。
ここじゃ、感情を叫ばないと魔力が安定しないなんて……
でも、これでみんなが安心できるなら……
私も一緒に、頑張るよ。
レッスンは続き、
ゼノンの毒舌と厳しさで子供たちは泣きながらも、
少しずつ魔力を抑えられるようになっていった。
夕方、納屋に戻る道中、
ルシフェリアはリリに小声で言った。
「リリ……ありがとう。
あなたの香りがなかったら、暴発で大惨事だった」
リリは微笑んだ。
「フェリちゃんのためなら……
私、もっと精気を吸って、魔力を回復しますね」
ルシフェリアは空を見上げて、呟いた。
(……少しずつ、みんなの暴発が抑えられるようになってきた。
私も、魔力の制御を覚えていかないと……
転生した意味、ちゃんと見つけなきゃね)
――ゼノン先生のレッスンが始まり、
子供たちの暴発が少しずつ抑えられるようになった。
露店も順調に続き、底辺魔王の成り上がりは、確実に前進していた。




