表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

違和感の正体

作者: Salicyl Acid
掲載日:2026/01/24

佐藤悠真、21歳。

とある私立大学に通う3年生。

特別な夢も野望もないが、毎日をそれなりに楽しんでいる普通の大学生だ。

その日も講義が終わると、いつものように電車に揺られて最寄り駅に降り立った。

9月も半ばを過ぎたというのに、まだ昼間の暑さが残っている。

悠真はカバンを肩にかけ直し、北口の改札を出た。

駅の北側は、昔ながらの住宅街と杉林が混在する、開発から完全に取り残されたエリアだ。

一方、南側はここ数年で急速に再開発が進み、きれいなマンションやショッピングモールが立ち並んでいる。

まるで線路一本で時代が二つに分かれているみたいだと、悠真はよく思う。

いつもと同じ道を北へ歩き始めてから、ふと違和感を覚えた。

……なんか、寒い。

9月のこの時間帯に、こんな肌寒さはあり得ない。

エアコンが効きすぎたコンビニを出た直後みたいな、妙な冷たさが背筋を這う。

首をすくめながら歩き続けると、少し進んだところにあるいつもの空き地に、何か見慣れない影があった。

薄暗い中、月明かりだけが頼りだ。

そこに浮かんでいたのは——

「……あ、UFOだ」

本当に、小さな円盤型のUFOだった。

直径にして3メートルほど。

金属のような光沢を放ちながら、地面から50センチほど浮いている。

音も振動もほとんどない。

ただ静かに、そこに在る。

悠真の足がすくんだ。

周囲を見回すが、他にUFOは一台もない。

人影もない。

ただ自分と、あの円盤だけ。

再び視線を戻すと、UFOの側面から白い光が漏れ、一人の女性が現れた。

古代ギリシャの彫像を思わせる、白いローブをまとった女性。

長い黒髪が月明かりに透けて、まるで幽霊のように見えた。

しかし、彼女はゆっくりと——いや、歩いているというより、滑るように近づいてくる。

「ホログラム……?」

悠真は思わず呟いた。

だって、現実感がなさすぎる。

足音ひとつしない。

ローブの裾すら揺れていない。

女性は悠真のすぐ目の前で止まった。

距離にして1メートルもない。

透明感のある瞳が、じっと悠真を見つめる。

そして、彼女は小さく微笑んで、

「社会の窓、空いてますよ」

と言った。

「……えっ」

一瞬、頭が真っ白になった。

次の瞬間、反射的に視線を下げると——

確かに、ズボンのチャックが全開だった。

「うわっ!」

慌てて両手で隠し、ファスナーを上げながら顔を真っ赤にする。

恥ずかしさで耳まで熱くなる。

視線を上げると——女性はもういなかった。

UFOも、音もなく、するすると高度を上げていく。

月明かりにシルエットだけが浮かび、すぐに夜空に溶けるように消えた。

「……は?」

残されたのは、静まり返った空き地と、立ち尽くす悠真だけ。

「……うすら寒いような感じって、チャックの締め忘れかよ」

自分で言って、自分で苦笑いした。

確かに、さっきから妙に下半身がひんやりしていたのは、それだったのかもしれない。

結局、何だったんだろう、あれ。

宇宙人? ドッキリ? 幻覚?

それとも、ただの疲れ?

答えはわからないまま、悠真は肩をすくめて歩き出した。

アパートまでの残り600メートル。

今度こそ、ちゃんとチャックを確認しながら。

夜風が少しだけ優しく感じられたのは、

きっと、ほんの少しだけ恥ずかしさが笑いに変わったからだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ