落書きが…
ちょっとプチ人気になった次の日、僕は朝からウキウキだった。
だって、今朝母さんがおやつにクッキーを焼いておくって言いながら、見送ってくれたから。
いつもは無愛想な僕だけど、今日は思わず笑顔で、うん!と返していた。
無意識で、クッキーと聞いただけで笑顔になる僕って、チョロいって母さんは思ったかもしれないな。
でも、いっか。
美味しいクッキーが食べられるんだもの。
母さんのクッキーは、甘さ控えめで歯応え充分だ。
よく、ほろほろのクッキーが販売されているが、僕はほろほろよりもサクサクが好きなのだ。
日の当たる教室でウキウキしていた。
あぁ、早く放課後にならないかなぁ。
少し浮かれて、足をぶらぶらとさせてしまった。
「なんか、楽しそうだね?」
⁉︎
みられていた…
うっかり足をぶらぶらしていたから、慌ててやめたところを…みられてしまっていたなんて…
「あ、ううん。別に…」
「ふーん」
相沢さんが机にひじをつきながら、こちらをじっとみた。
…
や、やめてください…
僕をじっとみないでください…って言いたいけど…僕にはそんなこと言えない。
そんなに見つめて、オレのこと好きなのかよ?みたいな冗談がいえるくらいになりたいものだ。
まぁ、そんな自信過剰なこと言えるわけもないけど。
そんな朝からテンション上がりっぱなしな僕は、じっと耐えてやっと放課後を迎えた。
家に帰るなり、バターの優しい香りがふんわりとしてきたので、クッキーがどこにあるのか、慌てて鼻をくんくんしながら目で匂いを追った。
目で匂いを追うのは、無理だろ?って?
まぁ、そうだ。
あ!テーブルに瓶が置いてある!
瓶の中に、たくさんのクッキーが詰められていた。
しかも瓶が三個も並んでいた。
母さん…作りすぎじゃないか?
手洗って着替えて、さぁいただこうと瓶に手を伸ばすと、母さんが…
ひとつ蓮奈ちゃんにお裾分けしてきてくれる?なんて言ってきた。
…
えー…
僕たちは、同じクラスだけど…そこまで仲良くないんだけどな。
「いや?なわけないわよね?あなたたち、今でも仲良しだものね。お母さん、この前蓮奈ちゃんがうちに来たの知ってるのよ。だって、お母さんが玄関あけて、お出迎えしたんですもの。若いっていいわね♡」
そう言いながら、瓶を渡された。
…
なにがいいの?
よくわからないけど、強制的に渡されたなら、行くしかない。
行かないなんて言ったら、母さんは…喧嘩でもしたの?なんて言い出しかねない。
「言ってきます…」
「はい、いってらっしゃい♡」
…
さっさと渡してすぐに帰ろっと。
たぶん蓮奈は、まだ帰っていないだろう。
だって、僕は超高速で帰って来たのだから。
玄関をガチャリとあけて、蓮奈の家のインターフォンを押そうとした、その時…
「真守?」
と、後ろから声をかけられた。
⁉︎
蓮奈の声だ。
タイミングー…
わるっ‼︎
「あ…の…コレ」
クッキーを差し出すと蓮奈がクスッと笑った。
「ごめんね。ワークの答え借りてる挙句に、クッキーまで。あ、ワークの答え今返すね」
…
気まずい…
あの落書きは、なに?って言われないだろうか…
蓮奈は、さっさと答えを取り出した。
「あ、じゃあ…僕帰るね」
「…うん。あ、待って‼︎」
…
きたー…
地獄のお時間が…
「あのさ…答えに、落書きっていうか…ハートのやつかいてあった…んだよね。だから、消しといてあげたよ?」
…
消された…
キモいから、消せと…
「あ、ごめん。でも、あれは…」
「知ってる。ザワがかいたんでしょ?」
…
ザワとは、相沢さんのニックネームみたいなものだ。
一部の人たちは、相沢さんをそう呼んでいる。
僕は、相沢さんって呼ぶ。
…
「うん…相沢さんがかいた。」
「最近、ザワと仲良いね」
「いや…そういうわけじゃ…」
「ふーん。ま、いいや。クッキーありがとうね。おかあさんによろしくー」
「あ、は…い」
気まずい地獄のお時間からようやく解放された。
クッキーと引き換えに、こんな地獄時間をあじわうなんて…
早く帰って、気分を入れ替えなきゃだ。
続く。




