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盗賊団《灰手》との遭遇

第3話です。

前回、街で“教師”という職業を笑われた直哉。

今回は初の実戦――黒板の力が、初めて世界に示されます。

 翌朝。

 まだ陽が昇りきらない薄明の中、俺は街の南門に立っていた。

 冷えた空気に息が白い。肩に黒板を抱え、チョークを握りしめる。


 ほどなくして、昨日挑発してきた大柄の剣士が現れた。名はグラン、と仲間が呼んでいた。

 背中に大剣を背負い、無精髭を撫でながら俺を値踏みする。


「よお、“教師”。逃げずに来たか」

「約束だからな」


 俺は淡々と答えた。彼の後ろには二人の仲間。

 軽装の弓使いと、短剣を腰に下げた軽戦士。

 どちらも場慣れした目つきで、俺を冷ややかに見ている。


「街道沿いに盗賊の巣がある。奴らは夜明けを狙って馬車を襲う。

 俺たちが護衛に出るが……お前も見物させてやるよ。どれだけ役に立たねえか」


 グランは鼻で笑い、門をくぐる。俺も無言でついていった。


 南街道は森の中を抜ける一本の道だった。

 両脇は鬱蒼と茂る木々。鳥の声もせず、ただ靴音と風が耳に残る。


 やがて前方に荷馬車の列が見えた。商隊らしい。

 御者の顔は強張り、護衛の兵も落ち着かない様子だ。


「来るぞ」

 グランが低く呟いた。


 その瞬間、道の左右の茂みが一斉にざわめいた。

 灰色の手袋をはめた男たちが姿を現す。粗末な革鎧に刃こぼれした剣。

 だが数は多い。二十は下らない。


「全員動くな! 荷を置いていけ!」

 頭目らしき男が叫ぶ。右手には灰色の布で巻かれた棍棒。

 噂通り、盗賊団《灰手》だ。


 商隊がざわつき、護衛が剣を抜く。

 だが人数差は歴然。兵たちはすでに腰が引けている。


「へっ、やっぱりな」

 グランが肩をすくめ、こちらを一瞥する。

「おい教師、授業とやらで何とかしてみろよ」


 挑発に乗る必要はない。

 だがここで逃げれば、“教師は無力”と刻み込まれる。

 俺は黒板を立て、チョークを走らせた。


《目標:盗賊団《灰手》の無力化/商隊の被害ゼロ》

《ルール:①殺さない ②物資を守る ③住民を巻き込まない》


 ざわめく商人たちの前で、俺は声を張った。

「授業を始めます!」


 盗賊たちは一瞬ぽかんとしたが、すぐに嘲笑に変わった。

「授業だとよ! 聞いたか!」

「字を書いてどうにかなるか!」


 俺は構わず板書を続ける。


《STOP》


 黒板が光り、盗賊たちの動きが一斉に固まった。

 剣を振り上げたままの腕。踏み出した足。驚愕に開いた口。

 時間が切り取られたかのように、全員がその場で停止した。


「なっ……!?」

 グランたちが目を見開く。商人や護衛も息を呑んだ。


 俺はさらに文字を重ねる。

《ここに整列》


 盗賊たちの体がぎこちなく動き、まるで見えない糸に操られるように一列に並び始めた。

 ざわめきが広がる。


「なんだこれ……」

「魔法……なのか……?」


 列が揃ったのを確認し、俺は黒板に最後の一文を書く。


《武器を捨てよ》


 ガシャリと音が響いた。

 剣、棍棒、弓矢が次々に地面に落ちる。

 盗賊たちは無表情のまま、まるで授業で板書を写す生徒のように従順だった。


 静寂が広がった。

 誰もが信じられないという顔で俺を見ている。


「……これが教師の授業です」


 俺は黒板を閉じるようにチョークを払った。

 その瞬間、盗賊たちは糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 意識はあるが、立ち上がる気力を失っている。


 商人たちは歓声を上げ、護衛兵は呆然と立ち尽くした。

 グランはしばらく黙っていたが、やがて低く笑った。


「……はは、マジかよ。こいつ、本物だ」


 弓使いと短剣の仲間も顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。


 盗賊団は縛られ、街へ引き立てられることになった。

 商人たちは口々に「黒板の魔導師だ」と囁いている。


 まだ二つ名になるには早い。

 だが噂は、確かに芽吹き始めていた。


 俺は黒板を背に、深く息をついた。

 教師は戦える。

 教師は人を守れる。


 その証明が、また一つ積み重なった。

【あとがき】

ここまで読んでくださってありがとうございます!

今回ついに“黒板の力”が実戦で明らかになりました。

次回は、捕らえた盗賊団を通じて新たな授業が始まります。

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