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ジェラピケのママ  作者: ぽんこつ


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30/30

てつや

今日もスピーカーからはTM NETWORKが流れている。

「BE TOGETHER」

コートが手放せない今年の冬。

あったかいか毛皮のコートでも買おうかしら。

メッシュブラウンの三つ編みのカツラの毛先を顔の前で交差させる。

その先には珍しい客。

三つある丸椅子の真ん中に腰掛けている。

見た目は柴犬。

全身モコモコの毛並み。

あったかそうなのよ。

空きっぱなしの口にストローを入れ込んでジャックをすすっている。

まあ、あれね。

小さく息をつく、あたし。

美味しいのかしら。

中身は男か女か分からない。

一言もしゃべらないから。

「わん!」

あたしは試しに吠えてみる。

ビクッとした柴犬は、頭の後ろに手をやって、ぺこぺこと頭を下げる。

モグモグ。

チューチュー。

しているだけ。

「あんた、その犬の中身見せなさいよ」

両手を前に振る柴犬。

どこで見ているのかしら?

目?

それとも口?

柿の種は摘めないらしくて。

スポッと手袋を脱ぐように、肉球の付いた手を外す。

あら。

女ね。

細く華奢な指。

ぽりぽりと本体が噛んでいる。

「ねえ? 何でその格好で来たの?」

また頭の後ろに手をやって何度かうなずく。

照れてるのかしら?

いやいや。

この格好で出歩くのが勇気がいるわよ。

「おかわりは?」

両手を合わせて頭を下げる柴犬。

おかわりのジャックを注ぐ。

「お手!」

あたしが差し出した手に、モコモコの手を載せる柴犬。

「おかわり!」

今度は細い指先があたしの手に触れる。

冷たい手。

あたしはぎゅっと握ってみた。

ビクッとして手を引っ込めようとする柴犬。

離さないあたし。

綱引き状態。

諦めた柴犬。

手の力を抜くと、そっとすり抜けていく手。

「お座り!」

柴犬は椅子を指さす。

あらやだ。

座ってたわ。

肩を揺する柴犬。

こうなってくると。

中身が見たくなってくるのが人情よ。

マスクをかぶったプロレスラーの仮面をはぐみたいに。

どうしたら拝めるかしら?

暑くするのが一番だけど。

暖房ないのよね、この店。

柴犬はちゅーちゅージャックを吸っている。

この姿。

意外と滑稽でかわいらしいじゃない。

「名前つけてもいい?」

ビクッとして咽る柴犬。

「あらやだ、ちょっと大丈夫?」

胸を叩きながらせき込む柴犬。

そばにあったお冷のグラスにストローを立てて、チューチュー。

落ち着いたらしく、細い指でオーケーマークを作る柴犬。

「じゃあ、タロウはどう?」

大きく首を振る柴犬。

「あら、ダメなの? じゃあハナコは?」

小首をかしげる柴犬。

「ふーん。微妙ってことね。じゃあ一応女みたいだから……ひろこは?」

首を傾げる柴犬。

「まちこ」

「あけみ」

「くみこ」

「なつき」

「まり」

「あやこ」

「さつき」

「ゆりえ」

…………

おめがねには適わないらしいわ。

「ジャスミン」

「イザベラ」

「アニー」

「ジェニファー」

「キャサリン」

…………

首を縦に振らない柴犬は優雅にチューチュー。

まあ、どうでもいいことだけど。

ここまで来たら納得する名前を付けたいじゃない。

あたしは手元を操作して、音楽を繋げた。

松山千春『長い夜』――

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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