あかい
今日もスピーカーからはTM NETWORKが流れている。
「RHYTHM RED BEAT BLACK」
もういくつ寝るとお正月。
そんな年の瀬に、珍しい客が来たの。
目の前で柿ピーをむさぼる男。
「やはり、赤は全ての根源、まあ、柿の種も仲間だからな。ピーナツがあることで紅白。めでたいじゃないか」
縁のない眼鏡をかけ、ウェットな髪を真ん中で分けている。
真っ赤なダウンに。
ワインレッドのパンツ。
全身赤づくめ。
「赤井さん、お酒はいいの?」
「ふん。ブラッディマリーがないバーなんて初めて知ったぞ。水でいい。いや白なら俺の服と合わせて紅白か。カルーアミルクを貰おう」
「はーい。かしこまり」
「うむ。なんなら酒屋で、ブラッディマリーを買ってきてくれてもいいぞ」
口の端を上げて笑う赤井。
なんかさ、赤じゃないとダメみたいよこの人。
名は体を表すっていうのを地でいってる人。
めんどくさそうだけど、面白そうでもあるのよね。
店に入ってくるなりあたしのアプリコットピンクのコートを見て。
「惜しい、赤なら似合ってるのに」
だって。
まあ、物の好き好きは人それぞれだから構わないけどさ。
青いカツラにはダメだし。
仕方なくサンタの帽子を被っているあたし。
遅れて来たサンタさんよ。
「しかし、この店は惜しいな。照明はオレンジ、ママの服はピンク。いっそ赤にしたら」
「あら、ごめんなさい。お金がなくてね」
「ふむ。まあ、せめてブラッディマリーくらい……」
トン。
あたしは、白い液体で満たされたグラスを赤井の前に置いた。
曲を変える。
X JAPAN「Silent Jealousy」
あたしは、ジャックを口に含んでしばらく黙ってみる。
ピアノの旋律。
ギターとドラムが弾ける。
「ママ?」
「何かしら?」
「やはりサービスがなってないというか、いちいち惜しいな」
「あら、何かしら?」
「ここは『紅』をかけるべきではないか?」
「あら、ごめんなさいね。でも、ないのよ『紅』」
あたしは心の中でガッツポーズを決めた。
どうしてかって?
だって、X JAPANかけたら、この人なら言うと思ったからよ。
憮然と柿の種を頬張る赤井。
「あんたのさ、嫌いな色って何なの?」
「赤以外だな」
「赤井さんだけに?」
「面白くないな」
あたしは青々とした枝豆をぱくつく。
「この店には熱がないな。パッションだな」
「ハックション! ごめんなさい」
「ママ、ペンはあるか?」
全く聞いていない。
効いてない。
それとも無視なのか。
あたしはボールペンをカウンターの上に置いた。
男は手に取ると大きく深くため息をついて首を振る。
「ママは気が利かないな」
「あら? そう?」
「僕がペンといったら赤色を出すのが礼儀だろ」
「あらやだ、ごめんなさいね。気が利かなくて。でもないのよ赤いボールペン。うちの店赤字にならないから」
「面白くないな」
トン!
あたしは赤いボールペンを置いた。
「ママ、惜しいな」
「なにが? これ赤よ?」
「分かっていないな僕のことを」
まあ、確かに理解しようとはしないから当たってはいるわね。
手元のスマホを操作する。
「どういうことかしら?」
「僕の名前は?」
「赤井さん」
「このボールペンは?」
「赤色」
「ちがう! 全く分かってない」
眉間に皺を寄せ、眼鏡のブリッジを小指でクイッと押し上げる。
「このペンは油性だろ?」
「まあ、そうだけど」
「赤いといえば?」
は?
まさか?
「すいせい?」
「そうだ、分かってるじゃないか」
「面白くないわね」
「なに?」
窓の外に赤い光が点滅する。
扉が開いて、お巡りさんが駆け込んできた。
「ママ、こちらがそうですか?」
あたしは微笑みながら小首を傾げる。
「ちょっと、外でお話いいでしょうか?」
赤井は憮然とした表情であたしを一瞥して素直に言葉に従った。
「赤井さん、赤好きでしょ?」
振り返った赤井の顔を赤色灯が染めていた。
悪いわね。
営業妨害だし。
紅白見たくなったから。
あらやだ。
もう寝たら正月じゃない。
作品の投稿頻度が定まらない中でも、お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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