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 新世界歴元年 3月11日

 ドラニア王国 ドラグーノ



 羽毛田を代表とする日本の外交使節団は2日かけてドラニア王国の王都・ドラグーノまでやってきていた。移動は車でその道中は殆ど険しい山の中を文字通り登ってきた。途中幾つかの街に立ち寄りながら休憩などをいれたが行く先々で彼らは物珍しい視線を住民たちから向けられるのだった。

 ドラニア王国の国民の大半は「竜人族」だ。

「ドラゴン」の末裔だと名乗る彼らはエルフと同様に長い寿命を持つ種族で外見的な特徴といえば頭から生えている角と、臀部から伸びる大きく太い尻尾だ。そして、男女ともに体格が非常によく身長2mに達する者も多くいるという。獣人族以上に高い戦闘力を持ち、戦いにおいて高い才能を有するとも言われており、かつては傭兵として各地の戦争に参戦していたこともあるようだが、基本的に人里離れた山岳地帯などに集落を作る種族だという。

 ドラニアの地形は彼らにとっては理想的だろう。外部から遮断され急峻な山岳地帯によって構成された島なのだから。


 この国は、その竜人族とエルフや獣人族といった亜人しかいない。人間がこの国にやってくること自体かなり稀なことなのようで、羽毛田たちはゆく先々で現地住民たちからの異様な視線を向けられることになった。

 まるで珍獣になった気分だ、と羽毛田は内心苦笑する。

 おそらく、人間そのものを見た住民が殆どいないのだろう。だからこそ物珍しげに視線を向けてくるのだ。

 実は地球にも外部と一切接触せず未だに詳細がわかっていない少数民族というのは存在している。その中には一切近代文明に触れず石器時代から生活様式を変えていないという民族もいるほどだ。

 そして、そういった民族は基本的に安易に人の足が踏み入ることができない絶海の孤島や、山岳地帯、森林地帯などに暮らしていて、専門家などが時折調査のために足を踏み入れる以外は一切外部と接触しない――なんてこともある。時には調査にやってきた外部の人間を「敵」と認識して攻撃を仕掛ける――なんてこともある。

 今回は幸いなことにそういった自体にはなっていない。曲りなりにも独立国として少数ながら他国と交流をしているだけに「余所者」に対しての敵意というのはないようだ。まあ、警戒はされているようであるが。


 それでも、王都までの道中は平穏そのものだった。

 運転手はドラニア外務省の職員が担当しており流暢な英語(によく似た言語)を使いながらドラニアの道中紹介してくれた。

 そして、2日かけてやってきたドラニアの王都「ドラグーノ」はさすがは首都だけあって、これまで見てきた街の中で最も大きい都市だった。ドラニアでは貴重ともいえる平坦な土地には高層建築物はほぼないが建物が密集しているし、人通りも多い。少なくともこれまで見てきた「集落」ともいえる街に比べればはるかに都会だった。

 羽毛田たちは、その中で最も格式高いホテルに案内された。

 そのホテルはガトレア資本のホテルでドラニアで唯一の海外からの要人が宿泊できるホテルらしかった。一応、昔ながらの「宿」は存在するようだがあくまで国民向けのものでセキュリティなどはないに等しいので、海外からの訪問者の大半はこのホテルに案内されるらしい。

 部屋の種類は豊富で、お手軽な値段で泊まれる部屋もある一方でVIPが宿泊できるスイートルームなどもあるようだ。今回羽毛田たちは一般的な部屋に宿泊していた。





 日本とドラニアの最初の交渉はその日の内に同国外務省で行われた。

 羽毛田たちの眼の前には外交官というよりは武人のような屈強な体つきをしたドラニアの外交官たちが座っており、当人たちは意識していないのようだが独特の「圧」というものを発していた。

 もっとも、羽毛田たちがそんなのに怯むわけがないのだが。

 ソ連や北中国以外にも数々あった「厄介な国」との交渉を淡々と彼らは行いながら日本にとって「利益」になるところにまで話を誘導してきた彼らにとっては竜人族の「威圧」などたいしたことではなかった。まあ、確かに本能的に萎縮してしまう部分はあるかもしれないが。




「やはり、この国は外交慣れしていないようだな」


 最初の会談は、日本の独壇場で終わった。

 日本の外交は低姿勢が目立つ。だが、その裏で自分たちの要求を確実に叶えていくのだ。だからこそ、日本の外交官はやりづらいとアメリカやヨーロッパの外交官たちは渋い顔をする。

 そして、ドラニアの外交官たちは羽毛田たちからみれば素人のようなものだった。そもそも、多くの国と交渉をしたことがないのだ。なので彼らがやったのは「話を聞いてやる」といった態度だけだった。もっとも、羽毛田の巧みな話術の前ではすぐにその態度は消えていったが、徐々に興味深そうに前のめりになるドラニアの外交官の姿に思わず「詐欺師に引っかかったみたいだ」と内心で呟いた者もいたほどに、簡単に羽毛田の話術にのっていたほどだ。

 もっとも、今回の交渉はこれまでの交渉に比べれば簡単なものだ。

 なにせ、日本は鉱物資源を輸入できればそれ以外のことはドラニアの都合通りにすればよかった。よほど妙なことを言われない限りは。

 一方のドラニア側はというと「人間は無理難題をふっかけるに決まっている」と構えていたのだが、日本側からは特段変わった要求がなかったので困惑し、いつの間にか日本側のペースに巻き込まれ最終的に「まあ、鉱物を輸出するくらいならいいか」という考えになった。

 最初にもっていた日本に対する警戒というのは羽毛田の話術の前によってすっかり霧散してしまったのだ。

 とはいえ、羽毛田はすぐに交渉がまとまるとは思ってはいなかった。




「――日本が求めているのはやはり我が国の鉱物資源か。そして日本は機械製品などを我が国に輸出すると…たしかに、ガトレア製のものと比べても遜色ないものだな」


 女王は興味深そうに日本が持ち込んだサンプル品を観察する。

 この場は、御前会議。女王と主要閣僚たちが集まっており閣僚たちもやはり日本が持ち込んだ資料に目を通していた。


「もっと、色々と要求されると思っていましたが…これを見る限りは我が国にとってそれほど痛手ではありませんね。そもそも、ガトレア以外の貿易相手が消えたことを考えると日本と貿易をするのは我が国にとってはむしろメリットのほうが大きいようにみえます」


 日本と国交を結ぶことに肯定的な宰相がいうと、同様の意見を持つ閣僚たちが同意するように頷く。


「だが、相手は人間の国だぞ。信用できるのか?それに、日本はガトレアと違って我が国が最も必要としている食料品を輸入に頼っているというじゃないか。機械製品だけならガトレアのもので十分だろう」


 しかし、反対派の閣僚はすぐに反対意見を言う――このように、御前会議は国交に肯定的な勢力と反対する勢力による意見が真っ向から衝突する形で話は進んでいなかった。羽毛田の予想通りの展開だった。

 反対派――保守派は現状からの変化を極端に嫌っていた。

 現状でも上手くいっているのに変える必要がない。わざわざ現状変化を望んだ結果取り返しのつかない事態になるかもしれない。それならば、冒険などせず敷かれているレールをそのまま進んだほうがよかった。

 ガトレアと国交を結ぶ時もそういった意見が多くでて、交渉は長期化した。そして、今回の相手は亜人を追い詰めた人間の国だ。いくら、異世界とはいえすぐに信用できる相手ではない。

 だというのに、女王を筆頭とした改革派は話を聞いた時点で乗り気だった。

 保守派にとっては「冗談ではない」と面と向かって言いたい気分ではあったが、それをぐっとこらえていた。まあ、中には堪えることもできないものもいるが。


 国交に関しての攻防はその後、一週間あまりにわたって続いた。

 最終的に保守派も国交を結ぶことの利点を渋々ながら認めたことでドラニア王国は日本帝国との間で国交を結ぶことが決まったのだった。


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