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49:日・ガ首脳会談

 新世界歴元年 2月28日

 日本帝国 東京市 大田区

 東京国際空港(羽田空港)




 東京国際空港――通称「羽田空港」

 東京市中心部から鉄道で15分ほどのところにある空港で5つの滑走路を持つ国内最大の飛行場だ。

 東京近郊にはもう一つ、千葉県沖に主に国際線や長距離貨物便などが多く発着する「京葉空港」という国際空港があるが、利便性の高さなどから多くの国際便・国内便は羽田空港を発着としていた。

 あまりに羽田発着便が多いことから格安航空会社(LCC)は主に京葉空港を発着しており、更にプロペラ機などを用いる近距離国内線は東京市中心部からこちらも30分ほど離れた東京府調布市にある「調布空港」を発着するなど羽田に集中しすぎないように複数の空港へ旅客便や貨物便を分散させていた。

 それでもなお、羽田空港は世界有数の「混雑空港」として世界的に知られていた。

 もっともそれは、転移前の話である。

 転移後は、長距離国際便の大半が運休となり国内線も本数を間引いた状態で運行されているため、羽田空港は転移前に比べると別の場所といえるほどに閑散としていた。



 しかし、今日に関しては状況は違った。

 空港周辺は、警視庁の機動隊や保安隊の警備部隊が集結し、周辺の道路に関しても交通規制が実施されていた。そして、空港内には多くの報道陣が詰めかけ、空へとカメラを向けていた。

 ほどなくすると1機の大型機が姿をみせる。

 4発のエンジンを翼の下にぶら下げた大型機は「ジャンボ」の愛称で知られるアメリカ製の大型機によく似ていた。


『えーたった今。大きな飛行機の姿が見えました。おそらく、あちらがガトレア王国の政府専用機かと思われます!』



 中継を担当していた女性リポーターがやや興奮気味に様子を伝える。

 ガトレア王国のオーランド・スヴェンソン首相が転移後初の外国首脳として来日したのだ。本来はもう少しはやめに来日する予定だったのだが、マリス連邦との戦争など日本側の都合で延期になっていた。マリス連邦との戦争も終わり講和条約に向けた話しも、順調に進んでいるため。この日、正式に来日する形となった。

 多くのカメラが見守る中、政府専用機はゆっくりと羽田空港の滑走路へ着陸する。その様子は、日本はもとよりガトレア王国でも同時に放送されていた。




『エルフなどという存在はまやかしである!これは、異星人が我々を騙し侵略戦争をするための序章だっ!だが、政府は愚かにも異星人を『国賓』待遇で迎え入れようとしているっ!それは許されない――』


 羽田空港から少し離れた蒲田の駅前には1台の街宣車がこのような放送を流しながら停車していた。

 街宣車の周りには横断幕などを掲げた数人の関係者と思われる者たちがいて「そうだっ!」と賛同する声をあげているが、道行く通行人たちは一様に怪訝な顔をしながら通り過ぎており、足を止める者はいない。中には明らかに不愉快といわんばかりの表情を浮かべる通行人もいたが、声をかけて絡まれるのは嫌なのか気持ち足早にその場を離れていった。


「まったく…どんな頭の中をしてるんだあいつらは」

「さあ?中々愉快な感じなんじゃないですか」


 呆れた面持ちで監視しているのは警視庁公安部の捜査官であった。

 眼の前で抗議の声を上げる少数の者たちは――いわゆる民族主義系の市民団体のメンバーだった。彼らは、今回のガトレア王国首相の来日に反対しており更に政府が彼を国賓待遇で迎えたことにも文句があるようだった。

 それが「異星人」発言につながるわけだが、当然ながら周囲の反応は冷ややかそのものだった。一応、団体自体は非常に歴史があり数十年前はかなり活発に活動していたのだが、近年は構成員の減少と高齢化に歯止めがかからない状態になっていた。

 それでも、公安は現在も「過激な民族主義系団体」として監視を続けていた。今回も抗議活動を羽田にほど近い蒲田の駅前で行うという情報を聞きつけて監視のためにやってきたのだ。

 ちなみに、抗議活動は事前に届け出が必要で団体はきちんと届け出自体は出していた。なので、公安以外の「普通」の警察官たちもこの場には集まっていた。彼らの仕事は団体と通行人や他の団体との間でトラブルが起きないようにするためのものだった。

 まあ、妙なことを拡声器で叫んでいる集団の周りを警察官が取り囲んでいるところなど常人なら普通に近づきたくないものなので、ちょっかいをかける一般人というのは今のところ見当たらなかったが。


「しかし、ニヶ月前までは大人しかったのになぁ。この前は急進左派の連中が官邸前で抗議集会を開いてただろ?」

「連中も転移で混乱してたってことかもしれないですね」

「余裕ができたから『通常営業』か…どうせなら、ずっと大人しくしてほしかったんだがな」


 拡声器に終わる演説が終わるとすぐに横断幕などをもって行進を始める集団。その周囲にはしっかりと警察官たちがガードするように取り囲んでいる。異様な光景ではあるが、余計なトラブルを出さないためには必須のものだ。

 何人か参加者が警察官に食って掛かる――なんてこともあるが、このあたりの対応は慣れたもので警察官は一切反応しない。否、反応しないように耐えていると言ったほうがいいだろう。

 監視をするだけの公安捜査官よりも、現場の警察官のほうがこういった場合真っ先に絡まれる。そして、こういった現場に派遣されるのはある程度場数を踏んでいる者たちが多い。そうじゃないと、今度は「警察官にやられた!」などと騒ぎかねないからだ。まあ、いくら、経験豊富な警察官を出しても同じことを言われるケースは多いのだが。

 ともかく、今回の『抗議集会』は特に大きな問題もなく1時間後に解散となった。




 東京市 千代田区

 総理官邸



「ようこそ、日本へ」

「これはどうもご丁寧に――ようやく貴国に訪問できて嬉しいですよ」


 総理官邸で対面した安川とスヴェンソン両首脳はにこやかな笑みのまま固い握手をかわす。その様子を控えていた報道陣が撮影する――海外要人との首脳会談の冒頭でよく見る光景だった。

 報道陣は撮影が終わるとそのまま退室を促される。

 ここから先は本当の意味で「国同士の話し合い」が行われるからだ。そして、報道陣はこのことに関して不満の声は表面的には聞こえない。もちろん内心は「自分たちの見ている中でやれ」というものがあるだろうが、どうせ数時間後には会談の内容は明らかになるのでここでゴネて「出禁」にされるなら粛々と指示に従ったほうがよかった。

 まあ、中には「報道の自由のために」などという理由付けてゴネる者もいるが、そういった問題のある記者は最初からこの場には入っていない。各社も後々のことを考えて人選しているようだ。

 報道陣もいなくなり、部屋には二人の首脳とそれぞれの代表者だけが残る形となって本格的な首脳会談が始まった。



「――各国との交流は順調ですか?」

「ええ。とりあえずアメリカやイギリスなどとは外交関係を結ぶことができました。今後それぞれ落ち着いたら首脳外交を定期的に行う予定です」


 安川の問いかけに柔和な笑みで返すスヴェンソン。

 ガトレアは現在、日本以外にアメリカ・イギリス・オーストラリア・中華連邦・朝鮮連邦など約14の国と外交関係を結んでいた。いずれも旧地球圏の国であり、貿易も徐々にであるが始まっていた。

 しばらくすれば、定期旅客便や貨物便の運行も始まる予定だ。

 アメリカが必死にGPS衛星を打ち上げたので少なくとも太平洋地域やヨーロッパ方面まで民間機を飛ばせるだけの体制はできていた。まあ、日本からヨーロッパ方面は一度アメリカで給油などをしないといけないくらいには距離が離れてしまっているが、それでも転移によってほぼ交流できなかった国々との交流は徐々に再開できる道筋はできていた。


「APTO――今はPTOでしたか。そちらへの加盟申請も全会一致で議会で可決されましたので、3月中に正式に加盟申請ができる予定です」

「反対意見は出なかったのですか?」

「当然出てきました――我が国にも一定数の『保守派』といいますか、他種族――特にヒト族を『信用できない種族』と考えている者たちはいますから。そういった政党からの反対はありましたが、多数は日本を始めとした周辺地域と良好な関係を築いていくのに前向きな者たちばかりですよ」

「――なるほど」


 と、相槌を打ちながら安川は頭の中で別のことを考えていた。


(予想以上に決定が早い…だからこそ、大国といえるところまで発展したのかもしれないな。アメリカが脅威に感じるのもわかる)


 とはいえ。アメリカは少々神経質すぎるともいえるが――まあ、この地域の覇権を失うことを恐れているのだろう。ただでさえ、アメリカの一部は日本が妙な影響力をアジア全体に持つのを嫌がっているくらいだ。

 アメリカが太平洋戦争を引き起こしたのも、ソ連工作員に唆されたのもあるが「このままアジアが日本の影響圏に入ったらまずい」という考えが当時のアメリカ政府の上層部にあったからだ。

 今でも、アメリカ国内には「日本脅威論」は根強い。

 それが、表に出てこないのは下手に戦えばソ連や北中国などが動くことをわかっているからだ。日本がソ連と手を組んだらそれこそ「厄介度」は跳ね上がる。まあ、日本が対米のためだけにソ連と手を結ぶのはあまりにもリスクが大きすぎるので、現実的ではないのだが。



 両首脳会談はその後も順調に進んだ。

 元々大枠は事前に担当者たちの話し合いで決まっているので両者の間で行われるのは決まったことを追認するだけだ。あとは、個人的にお互いを信頼できるかどうかだが、少なくとも両者ともにそれぞれの首脳に対して好意的なイメージを持つなど。会談は終始和やかな雰囲気で行われた。

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